表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/78


銀色の長い前髪が彼の目元にかかると鬱陶しそうにしつつ髪を掻き上げた。

メイジーが今わかることは、ガブリエーレのおかげで食べられずにすんだということだけだ。

あの大鍋で間違いなくメイジーを茹でようとしていた。


海で命の危機を乗り越えたものの、陸地についてもこんなことになるなんて思いもしなかった。

メイジーの握り込んだ手のひらは恐怖から微かに震えている。


(こんなのってあんまりだわ……! どこに行っても危険ばかり)


こうして命の危機に曝されて初めて、今までいた環境がどれだけ幸せだったのかを噛み締める。

物置き部屋の中は狭かったがメイジーは安全だった。

柔らかいベッドも温かい食事も当たり前のようにそこにあった。

虐げられて居場所がないと感じていたけれど、メイジーは城で守られていたのだ。


とりあえずガブリエーレにお礼だけは言わなければならないと顔を上げた。



「あの……っ!」


『お前……どこから来た?』



ガブリエーレの唇はまったく動いていないのに声だけが頭に響く。

その声には怒りが込められているような気がした。



「…………へ?」


『答えろ』



ガブリエーレに頭を下げていた人たちも顔を上げて、メイジーを睨みつけているではないか。

ガブリエーレの言葉は絶対なのだろうか。

彼らにとってガブリエーレは特別な存在だろう。

メイジーは圧迫感に震える唇を開いた。



「わたしはシールカイズ王国から来ましたわ」


『シールカイズ王国だと……? ありえない』



何がありえないのか聞きたかったが、今はそんな雰囲気ではなさそうだ。

ガブリエーレは顎に手を当てながら考えている。



『その喋り方と格好、髪も長く美しかったのだろうな……貴族の娘か?』


「……!」



ガブリエーレが何者かはわからない。

だけどシールカイズ王国を知っていることは間違いないようだ。


(わたしが王女だと言うべき? そうすればこの人にとってプラスになるのかしら……)


今、メイジーの言葉が通じるのはガブリエーレだけだ。

メイジーの前にあるグツグツと煮えたつ鍋がまだある。

もしかしたら答えによっては食べられるかもしれないと思いメイジーが口を開く。



「わ、わたしはシールカイズ王国の王女……でした」


『…………』



そう言うとガブリエーレは驚くようにわずかに目を見開いた。

その後、すぐに無表情に戻るがこちらに軽蔑した眼差しを送っている。



『この状況でよく王女だったなどと嘘をつけるな』


「嘘ではありません! わたくしは本当に……っ」


『シールカイズ王国の王女がたったものが、一人でこんな辺鄙な島まで来られるわけがない。何か魔法でも使わなければ不可能だ。どうやって生き延びたのか説明できるのか?」



ガブリエーレの言っていることは納得できる。

王族で王女であったとしたら、こうして船の上で生き延びることはできないだろう。

それに彼はここがどこかだと知っているようだ。

そしてシールカイズ王国のことも。


(たしかに王族が小さな船で雨水飲んで、海藻食べながら流れていたものを使って生き延びたって説明しても信じてもらえないわよね……)


そして島だと言われたことで、ここは陸地やどこかの国ではないことがわかった。

メイジーは自分がどうすれば王族だったと信じてもらえるのか考えを巡らせる。


(カーテシーを披露する? ううん、そんなの貴族の令嬢なら誰だってできる。フルネームを言うなんて意味ないわよね。どうすれば……)


メイジーが考えている間にガブリエーレは責めるような口調で続けた。



『シールカイズ王国の王女は赤髪だったはずだ。あともう一人、王女がいるが病弱で部屋からでれないのだろう?』


「どうしてそれを……!」


『ふん、やはり嘘か……俺が知らないとでも思ったのか?』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ