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(もしかして……もう根回しは完璧なんじゃないかしら)
メイジーの予想通り、宰相たちは彼の元へとやってくる。
すると彼らはメイジーを見ると深々と頭を下げていた。
けれど彼らを見て複雑な感情が込み上げてきたメイジーはガブリエーレの腕を掴む。
何も動かなかったメイジーも悪かったが、見て見ぬフリをされていたことに絶望していたのも確かだ。
立場が変わったからといって簡単に彼らを許せそうになかった。
そしてディディエがこちらにやってきて、ガブリエーレとメイジーに話しかけようとした瞬間だった。
ジャシンスの爪を折ったものと同じ、透明な壁に阻まれてしまう。
ぐしゃりと潰れた顔のディディエを見ながらメイジーはドン引きしていた。
『お前はメイジーに近づくな』
「…………!」
何故、ガブリエーレがメイジーからディディエを遠ざけようとしているのかはわからない。
けれどメイジーも彼と話すことがないのですぐに彼から視線を逸らす。
辺りを見回しながら、懐かしいような広間を見回していた。
『どうした? この国はもうお前のものだ』
「え……?」
『婚約者にはプレゼントをすると喜ぶのだとベルーガが言っていた』
「…………プ、プレゼント?」
ガブリエーレのプレゼントが一つの国だということに驚きを通り越して、呆然としてしまう。
規模が違いすぎて、メイジーはなんて言葉を返せばいいかわからない。
『メイジー、嬉しいか?』
まるでメイジーの表情を伺うように覗き込むように見るガブリエーレのつけていたイヤリングが揺れた。
彼の表情を見ていると、純粋な気持ちでメイジーにプレゼントしようとしたことがわかる。
そのために最近、忙しくしていたのだろうか。
(…………なんだか、可愛い)
ガブリエーレの仕草にキュンとしたメイジーは彼をギュッと抱きしめる。
今まで国を貰ったことはないが彼の気持ちが嬉しかった。
「…………ありがとう」
ぽそりと呟くように言うとガブリエーレが背に腕をまわす。
ジャシンスたちの結婚披露パーティーは即終了して、後ろに控えていたベルーガ、マオ、イディネスが前に出る。
『今回の詫びはスリーダイト帝国で行う。盛大なパーティーを開く予定だ』
ガブリエーレの一言で招待客たちは彼に挨拶をして帰っていく。
それだけガブリエーレの……スリーダイト帝国の影響が大きいのだろう。
ベルーガたちは宰相たちと細かな打ち合わせをするようだ。
メイジーはガブリエーレと共に先にスリーダイト帝国へと帰ることになった。
馬車の中で、ガブリエーレは気怠そうにマントを取って欠伸をしている。
メイジーは母の形見の指輪を小指に嵌めた。
これを取り戻せたのは間違いなくガブリエーレのおかげだろう。
それに彼の手配でリディが帝国に向かったそうだ。
帰る頃には彼女と会えるそうだ。
メイジーは改めてガブリエーレに感謝を伝えておく。
「……本当にありがとう。感謝しているわ」
『なんだ急に』
ガブリエーレはメイジーに向き直る。
「色々と感謝しているわ」
『別に……気が向いただけだ』
涼しい顔をしているガブリエーレだが、ほんのりと耳が赤くなっているような気がした。
(ここまでしてくれたんだもの……わたしも頑張らないと)
メイジーは覚悟を決めて、顔を上げてからガブリエーレの手を握った。
「わたしね……わたしは……っ」
ガブリエーレの青い色の瞳と目を合わせた。
「──これからスリーダイト帝国のために頑張るからっ!」
『…………あ?』
「もっともっと帝国の役に立ってみせるわ!」
何故かガブリエーレは喜ぶどころか、眉を寄せて不満そうにこちらを見ていた。
ただ、メイジーは自分の力を使って役に立とうと気合い十分だった。
スリーダイト帝国に帰ると、エレナの隣には以前よりもずっと痩せ細ってしまったリディの姿があった。
メイジーはリディに抱きついて、リディは「お守りできなくて申し訳ございません……!」と震える声で言った。
二人で今まで想いを吐き出すように大号泣した。




