⑦⑥
(プレゼント……って何? 国……もしかしてシールカイズ王国のことを言っているの?)
ありえないと思いつつ、ガブリエーレなら本当にそうしてしまいそうだから恐ろしい。
しかしメイジーが問いかける前にジャシンスが噛み付くように叫ぶ。
「な、なんであなたにそんなことを言われないといけないのよ! ここはわたくしたちの王国よ!」
『……うるさい声だな。不愉快だ』
「~~っ、あんたは一体、誰なのよっ!」
皇后とジャシンスは叫ぶように言った。
『俺はスリーダイト帝国皇帝、ガブリエーレ・ド・スリーダイトだ』
婚約の申し込みをしたからかジャシンスはガブリエーレの名前を覚えていたのだろう。
大国の新しい皇帝とは思わなかったのかガブリエーレの周りからはサッと人が避けていく。
ジャシンスも皇后も、それには言葉を失っている。
『お前たちには国民たちから嬲り殺されるのか、石を投げられながら処刑されるか選ばせてやる』
「「「「……ッ!?」」」」
メイジーは心の中で突っ込みを入れていた。
(出たわ。ガブリエーレの説明不足……!)
今でこそメイジーも慣れたが、ガブリエーレは遥か先の結果を口にするため、意味がわからないのだ。
まだ彼の恐ろしさがわかっていないジャシンスたちは驚くべきことを口にする。
「メイジーと一緒にコイツを追い出してっ! 不敬罪よ、不敬罪ッ」
「いくら皇帝といえど今の発言は赦されませんわ!」
ジャシンスと皇后の命令に従う者は誰一人いなかった。
ディディエもまるでこうなることを知っていたかのように彼女たちから離れた。
そして大臣や宰相たちもジャシンスと皇后を殺意を込めて睨みつけているではないか。
騎士たちや侍女たちですら誰も彼女たちを庇うことはなかった。
次第に状況を把握したのか青ざめていくジャシンスと皇后。
そしてガブリエーレがパチンと指を鳴らすと、脳内に浮かび上がる映像。
恐らくガブリエーレの力なのだろう。
映像には街で『女王を殺せ』とデモが起こっているところが映し出されていた。
シールカイズ王国の国民の激しい怒りが次々と映し出されていく。
「ひ、ひぃ……!」
「……何よこれっ」
つまりガブリエーレの選択肢のひとつ、なぶり殺すとはこのことなのだろう。
ジャシンスはあまりの恐怖にへたり込んでしまった。
さすがの彼女も自分の行く末がはっきりと見えたのかもしれない。
ガブリエーレの視線を感じたメイジーは彼女たちの前に歩いていく。
そしてまるでゴミでも見るかのようにジャシンスと皇后を見た。
軽蔑の眼差しを送り、彼女たちを見下す。
これがメイジーを役立たずと罵っていた末路だと思うと、胸がスッとするではないか。
特に彼女たちにかけたい言葉は見つからなかった。
話したいとすら思わない。
何も言わなくてもメイジーが上に立っていることは明白なのだから。
ガブリエーレがメイジーの腰に手を回した。
『俺の婚約者は優しいな。頭を踏み潰してやればいいものを』
メイジーが自分の婚約者だと強調するような言葉にニコリと笑みを浮かべた。
「ガブリエーレ様がプレゼントしてくださった素晴らしいドレスとわたしの足が汚れてしまいますから」
『そうか。まぁ、いい……今から生まれてきたことを後悔するほどの苦痛が待っているからな』
「まぁ……! それは大変」
メイジーはわざとらしく口元を押さえた。
彼女たちは怯えているのかガタガタ震える皇后の小指から指輪を取る。
「これはわたしのお母さまのものですから」
メイジーは彼女たちに奪われたものを取り返せたことが嬉しかった。
指輪をギュッと抱きしめるように握り込む。
『詳しくは牢の中で説明してやる。連れて行け』
ガブリエーレがそう言うと騎士たちは一斉に動き出した。
嫌だと叫んでいるジャシンスと皇后の落ちぶれていく様をメイジーは見送った。




