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彼女は泣きそうになりながらもメイジーを睨みつける。
「こ、こいつを追い出してよ! 今すぐにっ」
ジャシンスの金切り声が会場に響き、結婚披露パーティーは最悪な雰囲気になっていた。
『俺は招待状をもらってここにいる。それに婚約者に危害を加える奴から守るために防壁魔法を使っただけだ』
いつものようにガブリエーレの声が頭の中に響いた。
魔法の知識があるものはすぐにわかったみたいだが、ジャシンスたちはどこから声が聞こえてくるのかわからないらしい。
左右を振り向いて困惑している。
『ここだ。メイジーの隣だ。俺が魔法で頭の中に直接語りかけている』
「ま、魔法……?」
魔法に馴染みがないシールカイルズ王国の貴族たちは驚いているようだ。
そしてジャシンスや皇后はガブリエーレの存在にやっと気がついたのだろう。
今までは怒りからかメイジーしか見えていなかったようだ。
ジャシンスと皇后はガブリエーレを見てわかりやすいほどに態度を変えた。
彼の圧倒的な美しさに頬を染めている。
先ほどからメイジーを見るディディエの舐めるような視線に違和感を覚えていた。
チラリと視線を向けると、ディディエと目が合う。
ブワリと鳥肌が立ったが、すぐにガブリエーレがメイジーの肩を抱いたことで落ち着いた。
ガブリエーレはどこからか招待状を取り出して、その招待状は宙に浮いている。
魔法を見る機会などほとんどないシールカイズ王国の人たちにとっては珍しく映るだろう。
『出て行けと言うのなら出て行こう。無駄足だったか』
「──あなた様はいいのです! ここにいてくださいませ」
突然の猫撫で声。先ほどまでメイジーを罵倒していた声が嘘のように優しくなる。
(……わかりやすすぎて逆に怖いわ)
メイジー以外にもそう思っている女性は多そうだ。
ディディエもメイジーに視線を送り続けている辺り、常識人なだけで彼女とそこまで変わらないのかもしれない。
『いや、婚約者が侮辱された。これ以上は腹立たしくて耐えられそうにない』
「婚約、者……? 誰のこと?」
『メイジーは俺の婚約者だ』
「…………う、うそでしょう?」
ジャシンスと皇后の驚く声。ガブリエーレが指で背を叩く。
メイジーは挨拶のためにカーテシーを披露する。
明らかにジャシンスよりも上質なドレスの生地がサラリと揺れた。
メイジーを見て周囲からは感嘆の声が漏れる。
「ま、待って……! コイツは我が国で大罪を犯して罰として島流しにあったんです!」
『ほう……どんな罪だ?』
「──わたくしから女王の座を奪い、指輪を盗んだ罪よ!」
ジャシンスが自信満々な声が会場に響き渡る。
喋るたびに自分の愚かさを露呈していくジャシンスにかける言葉はないのだろう。
失笑すらなく静まり返っていた。
静まり返る会場でガブリエーレが問いかけた。
『その指輪は今どこだ?』
「お、お母さまがつけているわ! 元々はお母さまのものをメイジーが盗んだんだから」
「……!」
メイジーは目を見開いて彼女の手を見る。
皇后の小指には母の形見の指輪があった。
『それとメイジーの侍女をしていたリディはどこにいる?』
「あんな奴、辺境の教会に飛ばしてやったわ! 犯罪者の世話をしていたんだもの」
「……っ!」
メイジーは表情には出さなかったが拳を握る。
ガブリエーレは大丈夫だと言わんばりにメイジーの腕を指で合図するように叩く。
顔を上げると、ガブリエーレは余裕の表情だ。
自然とメイジーの気持ちが落ち着いてくる。
『そうか……それが聞けたら十分だな』
「……え?」
ガブリエーレは珍しく笑みを浮かべた。
ジャシンスはうっとりとしている。
『お前に言わなければならないことがある』
「はい! なんでしょうか!」
『この国は今日で終わりだ。婚約者にプレゼントすることにしている』
「「「「…………?」」」」」
ジャシンスやディディエ、皇后は今までにないほどポカンと口を開けている。
その中にはメイジーを含まれていた。




