⑦④
(この国にこんな予算はないはずだけど……)
内情を知っているからこそ、この景色に違和感を覚えた。
主役のジャシンスと王配のディディエの凄まじい装飾品の数に度肝を抜かれる。
真っ白なウェディングドレスなど霞んでしまいそうだ。
体全体を覆う宝石の数々は豪華を通り過ぎて下品に見える。
ディディエは恥ずかしさに耐えているのか顔を赤くしているが、ジャシンスは自慢げな表情だ。
招待客たちからも戸惑いの声が漏れている。
お祝いの挨拶をとジャシンスの前へと進んでいく招待客たち。
しかし主役を差し置いて注目を奪っている場所がある。
それがガブリエーレとメイジーだった。
二人の周りにはありえないほどの人だかりができていた。
メイジーは幼い頃に少ししかパーティーに出たことがないため緊張していた。
(こんなに目立って大丈夫なのかしら……)
メイジーは何を問われても笑顔を張り付けたまま何も答えない。
何故なら会場に入る前、ガブリエーレに何も言うなと言われていたからだ。
彼も一切、口を開かないままだ。
(ガブリエーレのことだから何か考えがあるんでしょうね)
いつも声を発していないのだが、ガブリエーレは何もしていなければ彫刻のようだ。
周囲からの質問責めは続いているが、彼はじっと何かのタイミングを待っているようだ。
会場の注目はすべてこちらにあった。
すると遠くから怒りを孕んだ声が聞こえてくる。
「ちょっと主役はこのわたくしなのよ……!」
「待てっ、ジャシンスッ」
「どうしてわたくしの元に挨拶に来ないのよ。おかしいでしょう!?」
「おい! ジャシンス、いい加減にしろよっ」
ディディエと言い争う声はこちらにまで筒抜けだ。
シールカイズ王国の人たちは諦めた様子で顔を背けてしまっている。
メイジーはこの状態を見ただけで、この国が今どんな状況なのかわかるような気がした。
(こんな短期間でここまで崩れるなんて……もうめちゃくちゃじゃない)
ジャシンスとディディエの後ろには、男性を引き連れている元王妃の姿もある。
雰囲気は随分と妖艶になり、娼婦のように様変わりしていた。
露出度の高いドレスと宝石。ジャシンスと二人合わせると欲の化身に思えた。
メイジーはこんな二人の姿を久しぶりに見て思うことがあった。
(わたし、こんな奴らをずっと恐れて隠れていたの?)
こうして改めて対峙すると、なんだか馬鹿馬鹿しいとすら思えてくる。
島で暮らして、帝国の暮らしを経験。
更に前世の記憶を取り戻したことにより価値観が大きく変わったのかもしれない。
メイジーは大きなため息を吐き出した。
そして彼女たちをじっと見つめる。
まずメイジーに気がついたのは元王妃だった。
なんで、と声は出ていないが唇が開く。
島流しにしたはずのメイジーがここにいるのが不思議で仕方ないのだろう。
それにこんなに美しいドレスを着て、謎のパートナーと共にいたとなれば気になるに違いない。
メイジーは勝ち誇ったようにフッと口角を上げる。
すると元王妃は目を見開いた後に顔を真っ赤にしていた。
メイジーは彼女たちに興味がないと言いたげに視線を逸らす。
すると、彼女はジャシンスにメイジーのことを耳打ちする。
ジャシンスもメイジーに気がついたのだろう。
「あら……よく見たら我が国の大罪人じゃない! わたくしの国に何の用かしら」
「…………」
メイジーはジャシンスの言葉を無視していた。
それだけで彼女は簡単に激昂した。
「随分とお高くとまっているじゃない……! 今すぐにわたくしの国から出ていきなさいよ」
ジャシンスがメイジーに手を伸ばした瞬間だった。
バキッと重たい音と共に彼女の爪が折れてしまう。
メイジーとジャシンスの間にある見えない壁に阻まれたらしい。
「キャアアアッ、わたくしの爪がぁ……!」
ジャシンスはフラリと後ろによろめいてしまった。
ディディエがなんとか彼女を支えた。




