⑦③
不機嫌そうにガブリエーレは顔を歪めてしまった。
メイジーは自分の真珠の指輪を掲げながら満面の笑みを浮かべる。
「ふふっ、幸せになれますように」
『まさか真珠に魔法をかけたのか?』
「えぇ、もちろん! 折角、手にした力だもの。もちろんあなたのものにも同じ魔法がかかっているわよ?」
『…………魔法を?』
ガブリエーレは指輪に視線を向けた。
「指輪には幸せにれますように。そしてイヤリングの真珠には……あなたを守ってくれますように、と」
『この俺を……守る、だと?』
「えぇ、そうよ。悪いものから守ってくれる願いを込めたの」
メイジーは何の願いを込めればいいかわからずに、神社で売っている御守りを思い浮かべていた。
金、恋愛、勉強、健康や仕事の運……恋愛や健康はどうだか知らないがガブリエーレはどれも持っている。
だからこそ厄除けの意味を込めてみたのだが、やはりメジャーではなかっただろうか。
(そんなにおかしかったかしら。わたしもイヤリングは同じ効果にしようと思ったんだけど……)
メイジーが考えていると、ガブリエーレは顔を片方の手のひらで覆ってしまった。
肩は小刻みに揺れているではないか。
(何か変なことを言ったかしら……)
メイジーがどうしたのか問いかけようとした時だった。
『ぶっ……あはははっ!』
「……!?」
ガブリエーレは何故か突然、大声で笑い出した。
何が彼のツボに入ったのかはわからない。
だけど笑い声が頭の中に響き続けている。
最初は無表情で恐ろしいかと思いきや、今ではその印象もすっかり変わってしまった。
腹を抱えながら息を吐き出すガブリエーレをただただ眺めることしかできない。
暫く笑い続けて落ち着いたガブリエーレに訳を聞く。
「何がそんなにおかしいの?」
『この俺を守ろうとする奴は初めて見た』
「それだけ?」
『ああ、メイジー……俺はお前が好きらしい』
「…………はい?」
このタイミングで御者が扉を開いた。
メイジーがすごい顔をしていたのか、驚いた様子の御者がどうすべきか戸惑っている。
『ほら、会場に行くぞ』
「…………はい」
ガブリエーレに促されるままメイジーは馬車を降りた。
先ほどの言葉が気になっていたが、それも見覚えのある城を見た瞬間に頭が真っ白になった。
『役立たず王女』
どこからか聞こえる声。
大丈夫だと思っていたはずなのに体が動かなくなってしまう。
冷たい汗が背を伝った。
(もう……ここにはいないのに)
しかしガブリエーレが手を引いたことで意識がハッキリとする。
『今、お前は帝国の人間で俺の婚約者だ』
「……!」
『胸を張れ。いいな?』
ガブリエーレの言葉に自然と背筋が伸びていく。
耳についている雫型の真珠を見て、島民たちを思い出す。
それと帝国で親しくなった人たちもだ。
メイジーはゆっくりと頷いた。
『エレナから聞いている。リディという侍女を連れ帰りたいのだろう?』
「……!」
『それ以外はどうでもいい、そうだな?』
「えぇ、そうよ」
ガブリエーレは余裕のある笑みを浮かべている。
(そうよ……わたしはもう役立たず王女じゃないの!)
メイジーの中で今までの記憶が蘇ってきた。
何度も何度も必死にもがいて死にそうになりながらもこうして今は生きている。
綺麗な人生ではなかったけれど、いつだって軌道修正はできるのだ。
メイジーは手のひらをぐっと握り、ガブリエーレと共に歩き出した。
メイジーたちが呼ばれたのは結婚式の後に行われる結婚披露パーティーだ。
外観から飾りまでふんだんにジャシンスが好んでいた赤い薔薇の花が使われている。
豪華な料理に装飾品に従者の数もありえないほどだ。
その割にはシールカイズ王国の宰相や大臣たちの顔は真っ青だ。




