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むしろ島流しにあって、死の危機を何度も乗り越えた後に大国の皇帝の婚約者になることなど誰が想像できただろうか。
まさにだいどんでん返し。
こんな結末を予想できる人はいたのだろうか。
少なくともメイジー自身はありえないと思っていた。
それに愛し合って結ばれたわけではない。
あくまでもビジネス的な婚約者だと思っていた。
(そもそも彼に好きだとか愛しているだとか言われていないもの)
暇つぶしの道具か何かで飽きれば捨てられてしまうのかもしれない。
(それまでは、がっぽりと稼がせてもらいましょう……!)
ガブリエーレのことはまだわからないが、いつ放り出されてもいいように基盤はしっかりと整えておこうと思っていた。
アクセサリーはシールカイズ王国へ向かう前には出来上がるようだ。
あの場に母親がくれたアクセサリーと同じものをつけていけたら、メイジーの冤罪も晴れるだろうか。
(……早くあの指輪を取り戻したい)
そんな思いだった。
アクセサリーが出来上がるまでの一週間半ほど。
島に行くのは半日ほどで切り上げて、メイジーは社交に出るための訓練を始めていた。
とは言っても、知識としては入っていたし、いつかあの部屋から出られたら……という思いで王女としての立ち居振る舞いは身につけてある。
実戦する機会こそなかったが、部屋の中から出られなかったためすることはそのくらいしかなかったのだ。
もしもメイジーが虐げられていなければ、女王として国を守れるような女性になっていたかもしれない。
復讐心をメラメラと燃やしながら帝国の講師たちに指導を受けた。
王国とは違う文化もあるため、それもガブリエーレの婚約者の間はキチンと学んだ方がいいだろう。
(建前でも婚約者なんだから……これだけのことをしてもらっているし、わたしが役に立てることはしたいわ)
その日にメイジーのために仕立てたドレスが出来上がった。
シルバーグレーのドレスはスカートのボリュームがたっぷりで腰元には大きなリボン。
濃いブルーの刺繍やキラキラと光る石などが散りばめられている。
髪飾りは海のような濃いブルー、刺繍と同じ色でとても上品だ。
メイジーのホワイトゴールドの髪にもよく合うだろう。
このドレスはいつも見ていた海や夜空に輝く星を連想させる。
『気に入ったか?』
「ガブリエーレ様が選んでくださったのですか?」
『様などつける必要はない。俺の婚約者だからな』
「…………!」
『お前にならそう呼ばれてもいい。それと前々から言おうと思ったその気持ち悪い敬語もいらない』
メイジーはガブリエーレの言葉に目を見開いた。
彼は何故かスッと視線を逸らしてしまう。
二人の間に盛大な勘違いとすれ違いが起こっていると気づいているは周りだけだろう。
(わたしになら様付けで呼ばれなくても何とも思わないということかしら……)
さすがに公の場ではガブリエーレと呼び捨てにすることはできないが、それ以外はいいのだろう。
「ありがとう、ガブリエーレ。とても気に入ったわ」
『当たり前だ』
試着しながら最終調整をしてもらったのだがエレナは「独占欲丸出しですわね」とブツブツと呟いていた。
メイジーは何のことを言っているかわからなかったが、銀色のドレスはあまりメジャーな色ではないということかもしれない。
美しいドレスを着ていると、メイジーはまるで天から降りてきた女神のようだ。
『天から舞い降りた女神のようだな』
「…………え?」
ガブリエーレが呟いた言葉に視線が集まる。
彼は平然と口にしているが、純粋に褒められたと受け取ったメイジーの顔に次第に熱が集まっていくのがわかった。
『何を赤くなっている? 熱でもあるのか?』
「なっ……! ちがっ、だって変なことを言うからっ!」
『美しいものに美しいと言って何が悪いのだ?』
「~~~~っ、別に!」




