⑥⑨
まるで手品のようにも見えるが、これもガブリエーレの力なのだろうか。
それにどこかにいった、なくしたと言われると思っていたが、まさかこうして厳重に保管されているとは思わずに驚いてしまう。
(大切にしてくれていたのかしら……そんなわけないわよね)
何となくこのことを聞いたら怒られる気がして、メイジーはあえて触れることはしなかった。
『これをどうするつもりだ?』
「アクセサリーに加工してもらおうかと」
『……ほう。だが、これは俺のだ』
ガブリエーレの言葉に今までの考えが吹き飛んでいく。
「わかっています。ちゃんと返しますわ」
『ならいい』
メイジーはそんなに雫型の真珠が気に入ったのかと首を傾げつつ、宝箱ごと受け取った。
すぐにマオと共にアクセサリーを加工してもらうために宝石店へと向かう。
豪華すぎる馬車と大量の護衛にメイジーは萎縮していた。
店主は色づいた真珠を初めて見たのか、かなり驚いていたように思う。
そしてあることを口にした。
「今までに一度だけ、これと同じものを父が加工していたのを見たことがありました」
「それって……!」
「ホワイトゴールドの丸くて珍しい宝石だった。子どもながらによく覚えています」
「どんな人だったかわかりますか!?」
その問いには店主は首を横に捻った。
そこまでは覚えてないらしい。
メイジーの母、ビジューが頼んだものだろうか。
それとも別の人物が頼んだものなかのか気になろところだ。
母の生い立ちからして真珠をどこで手にしたのか、どこでアクセサリーを加工するようなお金を手にしたのかが気になるところだ。
(何もわからないけど、お母さまは確かにあの指輪をわたしに託してくれた……)
それだけは確かだった。
メイジーはヘーゼルと青色の真珠の指輪、青い雫型のイヤリングを作るように頼む。
ガブリエーレがイヤリングをつけている姿が想像できないが、ベルーガたち男性でも普通にアクセサリーをつけている。
ベルーガやイディネスはピアスでマオはネックレス。
指輪は色とりどりだ。
宝石には魔力が宿ると考えられており、お守りにすることも多いそうだ。
スリーダイト帝国には大切な人からプレゼントされたアクセサリーをつける風習があるらしい。
シールカイズ王国では女性にプレゼントをして彼女たちを輝かせてこそ、富の象徴ということが強かったため、あまりこうした使われ方はしなかった。
だが前世の知識が残る今では男性がアクセサリーをつけることに違和感は特にない。
店主は真珠の加工を快く引き受けてくれた。
そしてマオが彼に耳打ちする。
すると「一番早く仕上げますっ!」と、焦りながら言っていた。
マオに何を言ったのかを尋ねると「メイジー様の立場を知らせただけです」と平然と言った。
「それから皇帝陛下ができるだけ早く欲しいとのことでしたので」
「どうしてかしら?」
「メイジー様、そろそろ気づいてくださいませ」
「……何のこと?」
マオは長い髪を揺らし、何かを考え込みながらもどかしそうに口を閉じたり開いたりを繰り返す。
「ぼ、僕の口からは何も言えませんから!」
「…………?」
「詳しくは皇帝陛下に……お願いいたします」
まだメイジーがガブリエーレの婚約者であることは大々的に発表されてはいない。
彼はシールカイズ王国の結婚式に参加した後、正式に発表しようと考えているようだ。
ただ帝国貴族の主要な人物たちには、メイジーの魔法がかけられた真珠の小瓶を売りつけると共にそのことを報告したらしい。
普通ならば大きな反発があってもおかしくないのだが、彼らは快くメイジーがガブリエーレの婚約者となることを受け入れた。
つまり根回しはバッチリという意味らしい。
ガブリエーレの頭の良さに改めて驚かされつつも、メイジーは着々と外堀を埋められているような気がしてならなかった。




