⑥⑤
宝石を隠れて売りに出してこいと命令されたビジューは、宝石を握りながらあることを願った。
(幸せになれますように……)
宝石店の店主がその宝石に魔法の力が宿っていると気がついた。
もとは何もなかった宝石に、だ。
繊細で緻密な魔法。
誰にも真似できない唯一の魔法はビジューが無意識のうちに宝石に組み込んだ。
侯爵家はビジューの力を知り、彼女を使い多額のお金を稼いだ。
しかしビジューは現状に不満を抱いていたのだろう。
その噂が皇帝や皇后の耳に届き、ビジューを保護しようとしたが彼女は侯爵家から逃走したのだという。
『逃走先は魔法がない国を選んだ。何故、彼女が側妃になったのかはわからない。国王はビジューがスリーダイト帝国出身だと知っていたかもしれない』
「そんな……お母様は病弱で産後に体調を崩して亡くなったって……」
メイジーは震える手のひらで口元を抑えた。
『これは憶測だが……お前がジャシンスたちに虐げられていたところを見るに、彼女も王妃から何らかの被害は受けていたのだろう。国王もビジューが魔法を使えない、または魔法の効果がわからないと切り捨てたのかもしれない』
「…………」
『もしビジューの魔法の力を理解していたのならシールカイズ国王が手放すはずはないからな』
メイジーはガブリエーレから母親の話を聞いて、言葉が出てこなかった。
家族から虐げられたが力がわかった途端、搾取されてしまう。
逃げ出した先でも国王に利用できると判断されそばに置かれた。
力がないとわかった途端に見捨てられてしまう。
メイジーにも魔法の力がないと判断したことが決定打になってしまったのではないか。
そもそも魔法が使えない人たちにとって宝石に魔力が込められているとわかるはずもない。
(目に見えない魔法なんてわからないわ……身近になければ尚更、理解できない)
幼かったメイジーには母親の記憶はほとんどない。
病弱だと聞かされていたし、顔を見たことも触れたこともほとんどなかったように思う。
メイジーに残されたのは母親の形見だという指輪だけ。
それも島流しされる前にジャシンスに奪われてしまったが。
今、その指輪を見たら母の力が込められたのかわかったのかもしれない。
メイジーは母親の話を聞きながら涙が溢れてしまう。
だがガブリエーレたちの前だと思い、なんとか堪えていた。
するとガブリエーレがメイジーの背に腕を回してそっと抱きしめた。
驚いて顔を上げると、彼の言葉が頭に響く。
『今度は俺がお前を守ってやる』
「…………!」
どういう意味か問いかける前に、頭を押さえつけられるようにして顔がガブリエーレの胸元に埋まってしまう。
まるでメイジーのことを想っているような発言に驚いてしまう。
(それって……どういうことなの?)
ガブリエーレに問いかけることもできないまま、メイジーの魔力の話へと移る。
今はまだ魔力を認識したばかりで不安だが、そのうち自分の魔力を知覚することができるだろうということだった。
まだメイジーがどこまでの力を持っているのかはわからないそうだ。
今度、宝石に力を込められるかで確かめる必要があるという。
父親が魔法が使えないシールカイズ国王ならば、メイジーに魔力があれば間違いなく母親のビジューの力を継いでいると考えていいそうだ。
(つ、つまり……それって)
しかしメイジーの頭の中ではある考えが巡っていた。
このタイミングで魔法の力が発覚したことは大きいだろう。
魔法の力自体は弱いが、貴重で国にとっては利益になり得る。
それを以前は逃してしまったため、今度は自分の婚約者にして留めておこうという意味だろうか。
(なるほど……! ガブリエーレは皇帝として、わたしの力が必要だったということね)




