⑥④
何かを早まったような気がしてメイジーが止めるものの、ガブリエーレは聞こえていないフリをしている。
(ガブリエーレの婚約者って皇帝の婚約者だから、よくよく考えたら軽率に決めていいわけないわよね!?)
メイジーは準備を進めようとするガブリエーレを止めようと咄嗟に彼に抱きついた。
だがそれを無駄だと言わんばかりに頭に置かれる手のひら。
メイジーは抵抗するために力を込める。
「よく考えた方がいいわ! あなたは皇帝なんでしょう!? こんな簡単に婚約者を決めたら……っ」
『心配無用だ。もう根回しは済んでいる。お前は気にしなくていい』
「…………へ?」
まるで初めからメイジーを婚約者にするつもりだったと言わんばかりだ。
それにメイジーは一つの疑問があった。
スリーダイト帝国にとっては魔法の有無は重要なことだろう。
「わたしはシールカイズ王国の王女だったけど、魔法がまったく使えないわ。それであなたの婚約者だって認められるわけないじゃない……!」
『何を言っている?』
「何って……帝国にとっては大切なことでしょう?」
『ああ、そうだな』
平然と答えるガブリエーレだが、どうしてメイジーを選んだのかよくわからないではないか。
しかしそれは次のガブリエーレの言葉で理由が明らかとなる。
『問題ない。お前は魔法を使えるだろう?』
「わたしは魔法を使うことはできないわ!」
シールカイズ王国で暮らしてるきてメイジーが魔法を使えたことなど一度もなかった。
ベルーガのように火も出せたことはないし、エレナのように風魔法で髪を乾かすことしかできない。
自分の手のひらを見るものの、特に力は感じていない。
『だが、魔力がなければあの扉は通ることができない』
「……あの扉?」
あの扉と言われて、すぐに頭に浮かんだのが島へと続くあの扉だ。
『島に続く扉のことだ。通る度に魔力を消費している』
「そんなこと……ありえないわ」
メイジーは自らの手のひらを見ながら呟くように言った。
あれはガブリエーレの魔法で繋いでいるかと思いきや、自身にも魔力がなければ通れないらしい。
思えば、どのくらいの距離かは知らないが一瞬で違う場所に移動できてしまうのだ。
改めて彼の魔法がすごいのだと感動しつつ、自分に魔法が使えると思うと信じられない気分だった。
(わたしが魔法……でも、どうして今まで何もなかったのかしら)
メイジーが不思議に思っていると、ガブリエーレがそのことを説明してくれた。
『以前、スリーダイト帝国や各国では高値である宝石が取り引きされていた』
「……!」
その話はメイジーも聞いたことがあった。
魔法の力を込める特別な宝石があり、それは驚くほどの高値がつけられたという。
しかし偽物が出回るようになったり生産者がいなくなったりと噂で聞いたことがある。
『宝石に不思議な魔法を込められた帝国でたった一人の女性。それがお前の母親……ビジュー・ブノワなんだ』
メイジーは驚きから声を発することができなかった。
(わたしのお母さまが……スリーダイト帝国出身だったなんて)
そんな話を聞いたことが一度もなかったメイジーは驚いていた。
ガブリエーレはメイジーの母親、ビジューについて話してくれた。
スリーダイト帝国の貴族たちは華々しい魔法を好む傾向がある。
彼女は貴族として生まれたがずっと肩身の狭い思いをしていたそう。
それはどんな魔法を使えるかがわからなかったからだ。
ビジューは令嬢としてではなく、使用人として暮らしてきたらしい。
彼女の魔法がわかったのは生家のブノワ侯爵家が事業に失敗して傾き出した頃──。




