⑥③
突然のシールカイズ王国と婚約者というワードにメイジーは驚いていた。
(どうしてシールカイズ王国に? それに婚約者って……どういうこと)
メイジーはシールカイズ王国で暮らしていた日々の思い出が蘇り動けなくなってしまう。
あの国から離れても長年虐げられていた記憶はメイジーの中に深く刻まれている。
もしかしてシールカイズ王国に返されるのかもしれないと思ったメイジーだったが、女王の結婚式に招待されたと聞いてホッと胸を撫で下ろす。
メイジーを追い出して、彼女は女王としてディディエと結婚するということなのだろう。
メイジーの暗い思いが表情に出ていたのだろうか。
ガブリエーレは意外なことを口にする。
『嫌ならば別にいい』
メイジーはガブリエーレの言葉に大きく目を見開いた。
彼が意見を曲げることなど、絶対にないと思っていたからだ。
それに気のせいでなければメイジーを気遣っているように聞こえる。
最初は強引だったのに、こうして彼があっさりと引いたことに違和感を覚えた。
「どうして……?」
メイジーは不思議に思って問いかける。
そもそもガブリエーレは、メイジーの事情を知っているのか。
最初は王女であろことを否定されていたが、今は信じてくれたということだろう。
『調子に乗るな』、そんな言葉が返ってくるかと思いきや……。
『別に……復讐でもしてやればいいと思っただけだ』
そう言って視線を逸らすガブリエーレ。
つまり皇帝のパートナーとして、彼らの復讐に自分を使えと言っているのだろうが、彼の真意がまったくわからない。
(わたしのために? それとも何か目的が……?)
ガブリエーレにとっては暇つぶしなのかもしれないが、メイジーにとっては願ってもない申し出ではないだろうか。
前世の記憶を取り戻したのは海の上だった。
あの二人にずっとメイジーは踏み躙られてきたのだ。
思い出すだけで苛立ちが止まらない。
(今まで散々、やりたい放題やられたわ。大国の皇帝の隣でアイツらを見下してれるチャンスを絶対に逃さないんだから……!)
何もできないからと島流しにされ、死んだと思っていたメイジーが現れたら驚くはずだ。
今までのメイジーと違うということを彼らに見せつけたい。
メイジーは手のひらを握り込んで顔を伏せた。
その様子を見ていたガブリエーレがメイジーに手を伸ばす。
そしてメイジーは目の前にある彼の手を掴む。
「──よろしくお願いしますっ!」
メイジーの気合いの入った声が響く。
顔を上げると驚いた表情のガブリエーレの青色の瞳と目が合った。
ガブリエーレに『婚約者として』と言われたことなどすっかり忘れていたメイジーの頭の中には復讐の二文字だけ。
ギラギラとした瞳でガブリエーレを見たメイジー。
彼の唇も綺麗な弧を描きながらメイジーを見つめ返した。
『そうか。女王の結婚式は一カ月後だ。それまでにドレスを仕立ててやる』
「ありがとうございますっ!」
『俺の隣に相応しいように自分を磨け。エレナにも伝えておく』
「かしこましましたっ!」
ガブリエーレの言葉に力強く頷いていたメイジーだったが、次の言葉に動きを止めた。
『なら、今日からお前は俺の婚約者だ』
「…………はい?」
『それからお前が貝で作っているシンジュに魔力を込めろ』
「婚約……っ!? えっ……ま、魔力って?」
メイジーの頭の中は色々なことが渋滞してうまく言葉が出てこなかった。
その間にもガブリエーレはベルーガに『準備を進めろ』と、指示を出しているではないか。
「ちょっ……ちょっと待って!」




