⑤⑨
貝と格闘しているベルーガを呼んで、昼食の準備を手伝う。
いつも通りにしていると次第に女神様扱いはなくなっていった。
懐かしいスパイスの香りは食欲を刺激する。
一番楽しみなのはもちもちとした主食だ。
昼食が出来上がり、端の方でその様子を見ていたベルーガに声をかける。
「ベルーガさんも食べましょう?」
「私は大丈夫です」
きっちりと燕尾服を着込んでいるからかなんだか暑そうだ。
彼は水分補給も食事もとっていない。
メイジーはある考えが思い浮かぶ。
(このまま限界まで島にいたい……まだまだやりたいことがたくさんあるもの)
メイジーはどうしたら長く島にとどまれるのかを考える。
帝国にいても部屋の中でダラダラ過ごすだけだ。
(どうしたらベルーガさんを巻き込めるかしら……)
ベルーガが食いつきそうな話題をみつけたメイジーは口を開く。
「今日は皇帝陛下が一番好きだったスープなんで……「食べますっ!」
珍しく食い気味のベルーガにメイジーは驚いていた。
やはりガブリエーレが食べたという台詞が効いたようだ。
キラキラした瞳でこちらを見ているではないか。
メイジーは隠れてガッツポーズをしていた。
大きな魚を釣り上げた高揚感だ。
彼の分も昼食を用意するように頼むが、葉の上に置かれた料理に戸惑うベルーガ。
だが皆の真似をしながら恐る恐る口に運んでいく。
メイジーも久しぶりのもちもちとした主食を指でちぎり頬を押さえた。
(久しぶりのこの味……幸せすぎるわ)
メイジーは慣れた手つきで口に運んでいく。
ベルーガも恐る恐る木でできたスプーンを使いスープをすくう。
「食べたことがない独特な味ですね」と、感想を述べつつもまた手が伸びる。
メイジーがベルーガの言葉を通訳をしつつ、皆との楽しい昼食を終えた。
片付けを終えてから再び海岸へと戻る。
ムーたちに集めてもらった貝を色別に仕分けしていく。
波が高い間は、島民たちの手伝いを行っていた。
ベルーガはメイジーが怪我をしないようにと警戒している。
それから島民たちのおやつである芋虫を集めに向かう際、彼は険しい顔をしていた。
島に慣れるまでメイジーも同じような表情をしていたと思うと考え深い。
いつもの日常に戻ったといったところで、空は夕日でオレンジ色に染まっていく。
メイジーは何が言いたげなベルーガを必死に避けていたが、ついにこの時がやってくる。
「メイジー様、そろそろ戻りましょう」
「……っ!」
メイジーは大きく肩を跳ねさせた。
ベルーガにもう一度名前を呼ばれてゆっくりと顔を上げる。
彼は笑みを浮かべているが、怒りを孕んでいるように見える。
彼はメイジーに言いたいことがあるのだろう。
笑みを浮かべつつも口端がピクリと動く。
しかしガブリエーレのこともあり言葉を飲み込んでいるのだろう。
メイジーは立ち上がってスカートについた砂を払う。
「ベルーガさん、言いたいことがあるなら言ってくれませんか?」
「…………え?」
「ずっとその視線を向けられるのは疲れます。皇帝陛下には黙ってますから」
ベルーガとメイジーの間に風が吹いている。
今、子どもたちは木に巻き付いているツタを取りに行っていた。
今しかベルーガと二人きりになる機会もないだろう。
彼から表情がスッと消えていく。
手のひらをギュッと握ったベルーガはこちらを静かに睨みつけている。
「正直、あなたのことが気に入りません」
メイジーは納得したように頷いていた。
(……でしょうね)
ベルーガはガブリエーレの指示でここにいるが、不本意なのだろう。
帝国でメイジーに好意的なのは侍女長のエレナくらいだろうか。
ベルーガもメイジーの存在が面白くないはずだ。




