⑤②
メイジーが下唇を噛みながらガブリエーレを睨みつけると、彼は満足そうに鼻で笑っている。
チリチリと痛んだ鎖骨付近を見ると、何かの紋章が刻まれている。
それはガブリエーレの首元にある模様の一部によく似ていた。
とは言っても、彼のものよりもずっとずっと小さいが。
「何、これ……?」
『これで肌が太陽の光に焼かれることはない』
「……ッ!?」
つまり日焼けをしないということだろうか。
そんな魔法があるのかと疑問だが、実際にガブリエーレは肌が一切焼けていない。
「どうしてわたしに……?」
『これ以上、太陽の光に肌を触れさせたくないと思ったからだ』
メイジーは胸元の模様を見ながら日焼け止めを思い出していた。
(……これで本当に肌が焼けないのかしら。魔法って不思議なのね)
サラリと腕を撫でてみても何もわからない。
そういえばと、島民たちと言葉が通じた時のことを思い出していた。
額に手を当てて気絶してしまったが、その時に魔法をかけられたに違いないと前髪を上げながら紋章を探す。
するとガブリエーレはメイジーの顎の下を指差した。
『言葉はここだ』
「やっぱり……!」
『目立たないところに入れたんだ。感謝しろよ?』
「……。アリガトウゴザイマシタ」
棒読みのお礼を聞いたガブリエーレは肩を揺らしている。
どうやらまた笑っているようだ。
喉仏が動くのと同時に、紋章の大きさに目がいく。
気になったメイジーはいつものように彼に問いかける。
「皇帝陛下の首にあるものは……」
『ガブリエーレでいい』
メイジーが皇帝陛下と呼ぼうとしても、ガブリエーレは拒絶する。
仕方なくガブリエーレ様と呼ぶことで落ち着いた。
「ガブリエーレ様の首元は何かの魔法なのですか?」
『…………知りたいか?』
ガブリエーレはメイジーの手を取ると、自分の喉元に当てる。
温かい肌とドクドクとどちらかともわからない心臓の音が手のひらを伝う。
いつもとはまったく違う空気を感じたメイジーは首を横に振る。
するとガブリエーレは体をそっと離す。
島にいる時の少年のように無邪気な対応とはまったく違う。
何故か優しく色気たっぷりに大人の対応をしてくるガブリエーレは別人かもしれないとすら思えてくる。
いつもと違った行動を取る彼に、こちらのペースが乱されてしまう。
『メイジーに見せたいものがある。行こう』
「……!」
ガブリエーレはメイジーをエスコートするために腕を伸ばす。
メイジーは目の前で差し出されている手を疑いつつも彼の手を取る。
それから彼は後ろにいた人たちをすべてどこかにい移動するように指示を出す。
(何を考えているの……?)
誰もがこちらを見つめたまま動くことはない。
唖然としている……そんな表情だ。
しかしガブリエーレが声を発すると、皆が一斉に動き出す。
メイジーが首を傾げつつ、ガブリエーレに連れられるまま歩いていくが先ほどの表情が頭から離れない。
(も、もしかしてわたし……何か非常識なことをしてしまったのかしら?)
何が起こったのかわからないままメイジーが戸惑っていると、いち早く意識を取り戻したベルーガが扉を開く。
中に入ると不思議な空間が広がっていた。
そこら中に色とりどりの扉があるのだ。
異様な光景にメイジーは息を呑む。
『色々な場所に道が繋がっている。これでどこにでも行けるぞ』
「……な、なんで」
『行きたい場所にすぐに行けるように。俺が作った』
それを聞いてメイジーは一つの答えに辿り着く。
(この人……好き放題やりすぎじゃない?)
魔法といえば属性があったり、多少の縛りがあったりしそうなものだが彼には関係ないのだろうか。
自分がやりたいこと、欲しいものをすべて具現化できる。
そんな魔法のような魔法を使っているような気がした。
その中の一つ、流木を固めたような古びたドアがあった。
木の隙間からは懐かしい潮の香りがする。
「ここは……?」




