④⑨
「まったく……」
「このまま何もしないで朽ちていくのね」
「不吉なことを言わないでくださいませ。私たちが皇帝陛下にお叱りを受けるのですよ?」
「……わかっているわ」
メイジーも馬鹿ではない。
自分が勝手なことをしようとすれば、他の人たちがガブリエーレから叱られてしまう。
(すぐに殺す殺すって……島にいる時はそんなこと言わなかったのに。わたし以外には……)
ずっと岩場の上で空や海を眺めながら、一人で何かを考えていたガブリエーレの姿を思い出す。
「エレナたちから見て、皇帝はどんな人なの?」
ふと疑問に思ったメイジーは好奇心から問いかける。
するとエレナはわずかに目を見開いた。
侍女たちの間に緊張が走ったのがメイジーにもわかった。
侍女たちの顔は強張っている中、エレナはいつもの表情に戻る。
そして微かに震える唇を動かす。
「……簡単に触れてはいけない。神のようなお方です」
「神……?」
メイジーはどこに行っても神様のように扱われるガブリエーレの顔を思い出す。
メイジーから見ると、ただの性格が捻くれている青年である。
何か大切なものが抜けているような気もするが、まだまだ知らない一面があるのだろうか。
帝国の人たちと随分印象が違うようだが、この怯え方を見ると彼が恐れられていることがわかる。
「そんなにすごいの?」
「帝国民から敬われ、恐れられております。皇帝になるべくしてなったお方ですわ」
「なら、なんであの島に?」
「我々には皇帝陛下の崇高な考えは判りかねますわ」
「…………」
(崇高……? 暇つぶしじゃなくて?)
メイジーは突っ込もうかと思ったが黙っていた。
何度も死にそうになりながらも、ガブリエーレへの発言は気をつけなければならないと学んでいるからだ。
でなければ睨まれたり攻撃されたりと散々な目に遭うことはわかっている。
メイジーがこれ以上、ガブリエーレのことは聞かない方がいいと思っていた時だった。
──コンコンッ
扉をノックする音が聞こえた。
すぐにエレナが動き出す。
(まだ食事の時間には早いと思うけど……)
先ほど朝食を食べたばかりだ。
食欲がなくほとんどなくて大半は残してしまったが。
扉を開くとそこには赤、青、緑と三人の青年の姿。
そして青色の長髪の青年と緑の短髪の青年は見覚えがあるではないか。
島に上陸した大きな船に乗っていた二人だ。
メイジーとの出会いは最悪だった。
話は噛み合わないし、いきなり殺されそうになったことを思い出す。
そしてガブリエーレが彼らを殺そうとしたことも。
襟足が少し長い赤い髪の青年は初めて会うが、こちらを優しい表情で見つめている。
メイジーは無意識に彼らから距離を取るように一歩後ろに下がった。
後ろではエレナたちが深々と頭をさげている。
青色と緑色の髪の青年たちは難しい表情をしている。
すると赤い髪の青年が一歩前に出る。
そして胸に手を当てると深々と頭を下げた。
「初めまして、メイジー様。私はベルーガと申します」
「……ベルーガ、様?」
「私のことはベルーガとお呼びくださいませ」
ベルーガの一見、紳士的に見えるのだが、ただならぬオーラと圧を感じていた。
メイジーは小さく頷いたのを確認すると、ベルーガは後ろに控えている青年たちに視線を送る。
「弟たちがメイジー様に不快な思いをさせたと聞きました。申し訳ございません」
「…………弟?」
「はい、そうでございます。こちらがマオ、そしてイディネスです」
メイジーはベルーガの言葉に目を見開いた。
どうやらこの三人は兄弟らしい。
青色の長髪がマオ、イディネスは緑色の短髪の青年だ。
髪型や雰囲気、色などは違うが、そう言われると顔立ちなどが似ているような気がした。




