④⑧
帝国での暮らしが始まって三日経っただろうか。
メイジーは侍女に囲まれながら震える手で上品な香りがする紅茶を啜っている。
原始的な島から一転して、まるでお姫様のような扱いを受けている。
それが王女だった時よりも比べるのも失礼なほどに豪華だ。
そしてジャシンスたちの生活よりも遥かにいいものだろう。
しかしメイジーは今すぐに島に帰りたくなって仕方なかった。
部屋の端っこに置かれている縄で編んだ網を見つめながらため息を吐く。
(……落ち着かないわ)
三日前、気絶するように眠ったまではよかったが、今ではこの環境に慣れなすぎてソワソワした気持ちで過ごしていた。
食事も美しい飾りつけや繊細な味付けが喉を通らない。
あの酸っぱいのか辛いのかわからない味が今となっては懐かしい。
そしてカチカチのパンよりも、芋からできたもっちりとした主食が恋しい。
さすがに芋虫はいらないが、毎日食べていたフルーツの酸味と甘味。
芸術品のようなカップに入っている紅茶ではなく、ココナッツの自然な甘さのジュースを体は求めてしまう。
ジリジリと焼けつくような日差しも、自然と共に生きている解放感もない。
むしろ真逆でずっと室内で上品なドレスは美しいが窮屈だ。
肌のケアは朝と晩、髪も切り揃えられてあっという間に艶が戻っている。
(さすがスリーダイト帝国だわ……まさかここまで文化が違うなんて)
メイジーが暮らしていたシールカイズ王国の発展が遅れていると感じる。
魔法の力はとても大きいだろうが、それだけではない。
シールカイズ王国は宝石の輸出だけに頼っていた。
けれどそれがなくなったら、たちまち国は廃れていくだろう。
膨大な利益は有限のものだ。
だけど新しいことを開発したり予算を回す余裕もなかったのは、父の手伝いをしていたメイジーは知っている。
一部しか知らない秘密だ。
だけど帝国は魔法を使い、さまざまなことをしているのは三日ここに滞在しているだけでもわかる。
部屋の窓からは様々な人種の人々が行き来して品目を引き渡しているのが見える。
魔法の恩恵を最大限に生かして生活しているのだろうか。
メイジーが紅茶のカップを覗きながらボーッとしていた時だった。
「メイジー様、また朝食をほとんど召し上がらなかったそうですわね。どういうつもりでしょうか」
「げっ……!」
メイジーの前に現れたのは侍女長としてこの城を任されているエレナだった。
彼女は若くしてこの城を任されるだけあり、責任感が強くて面倒見がいい。
周りをよく観察して適切な対処をする。
そして命令に忠実である。
「皇帝陛下からメイジー様の体調管理を任せるように仰せつかっているのですよ? 気に入らないところは直します」
「……いえ、十分です」
「でしたら、どうして……」
「ガブッ……じゃなくて、皇帝陛下に会わせてください!」
ガブリエーレを皇帝と言うのにはまだ慣れない。
だが、周囲はそれを許さないためそう呼ぶしかない。
「皇帝陛下はお忙しいのです」
「なら、いつまでわたしはこんな生活を続けたらいいのよ……」
ポツリと本音が漏れる。
三日もこうした押し問答が行われているが、何も解決していないしガブリエーレにも会えていない。
「とにかく体調を整えるのが先ですわ。そうすれば……」
「……」
「メイジー様、聞いてますか?」
「せめて掃除とか洗濯を手伝ってもいいかしら?」
「絶対にダメです! 何を言っているんですかっ」
前世含めて働き通しだったメイジーにとって、何もしないということは苦痛で仕方ない。
血走った目で唸っていると、エレナはため息を吐いた。




