④⑥ ガブリエーレside2
『──やったあああぁああぁぁっ!』
『生き残ってやったわっ! ざまぁみろっ』
彼女は生命力に満ちていた。
こんなにも心が大きく揺さぶられたのは初めてだった。
だがシールカイズ王国の王女だと言われた時はさすがに嘘だと思った。
しかも病弱の王女の方だという。
ガブリエーレが皇帝だと知らないので嘘がバレないと思ったのかもしれないが、自分は周辺国の情報をすべて把握している。
もっとも小国で魔法が使えないシールカイズ王国など眼中になかったが。
ガブリエーレは以前一度、長子のジャシンスを見たことがあった。
正しく言うなら勝手に送られてきたのだ。
魔法をまったく使えない王国に興味を惹かれてジャシンスの手紙を見たが、傲慢さや欲が窺える文に吐き気を覚えた、
(力もないのに、よくもまぁここまで傲慢になれるものだな)
その妹が地図にもない辺鄙な島に船で流れ着いた。
もし本人なのだとしても病弱などまったくの嘘だろう。
島民の言葉を理解できず、なにもできないくせに役に立って生き延びてみせると嘘ばかり言う。
なのに生け贄として再び目の前に現れる始末。
腹が減ったと食事に食らいつく様は見ていて清々しいとすら思えた。
弱いくせに虚勢を張って、生きようともがく姿はガブリエーレを何とも言えない気持ちにさせた。
メイジーに言葉を理解できるように魔法をかけたのは気まぐれだった。
それからメイジーは次々とガブリエーレの想像を超えていく。
島民たちと共に溶け込む努力をして、同じものを食べ、汚れながらも動いていた。
その様は見ていて飽きなかった。
こんな気持ちは生まれて初めてだったのだ。
対等に話すのを許可しているのもメイジーだからだ。
反抗も憎まれ口もガブリエーレの心を揺さぶる。
他の者ならば縊り殺していたことだろう。
彼女は適応能力が高く、ガブリエーレが不快になるようなことは自然と避けるようになる。
こちらの反応を見て動くため、彼女と共にいても苦ではない。
ガブリエーレを嫌っているくせに仕事だからとこなす姿はなんともいじらしい。
いつのまにかここでの生活を心地いいとすら感じるようになっていた時だった。
彼女は島民の子どもたちと波に飲まれた。
ガブリエーレは極力、魔法を使わないようにしていた。
彼らの生活に影響を及ぼさないためだ。
メイジーは初めは問題なく浮かんできたが、子どもを守ろうとして自分も流されてしまう。
ガブリエーレは誰が死のうとかまわないと思っていたし、帝国では役立たずは消えるのが当たり前だった。
だけどメイジーが死ぬことだけは絶対に嫌だと思ったのだ。
波のせいでうまく魔法が通らない。
苦戦しつつもメイジーたちを救うことはできたが、彼女は傷だらけだった。
(アイツは何の力もない。放っておけば勝手に死んでしまう)
そう思った瞬間、彼女を自分が守らなければと思ったのだ。
幸い、怪我はすぐによくなった。
だが怪我が治らないうちにメイジーは貝に夢中になり、貝に噛まれて怪我が増えていく。
次第にメイジーの興味が貝に移るのは面白くないと思うようになった。
自分の気持ちがこんなふうに把握できない。
感情のコントロールができずに子どもじみたことを言ってメイジーを困らせてしまう。
どうして弱いくせにこんな風に必死になれるのか。
魔法では一瞬で済むことをメイジーは何日も時間をかけて試行錯誤していく。
その姿が、彼女の強い意志が、たまらなくガブリエーレを惹きつける。
しかしガブリエーレはもうすぐ帝国に帰らなければならないだろう。
帝国に帰った時、父の手紙の後には社交から逃げるなと書いてあった。
もう限界は近い。




