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「ガブリエーレ、だと!?」
「やはり皇帝陛下がここにっ」
ガブリエーレの名前に大きく反応した二人の青年から、今まで感じたことがない恐ろしい圧を感じていた。
ビリビリと空気が震えるような不思議な感覚。自然と鳥肌が経ってしまう。
(ガブリエーレの仲間? だとしても彼らは何をするつもりなのかしら)
島民たちも肌で恐怖を感じているらしい。
子どもたちを後ろに下げて、島の長や男性たちは武器を持ってメイジーを守るよう立ち塞がっている。
(ダダナ……それに島の人たちもわたくしを守ろうとしてくれているんだわ)
メイジーは彼らに仲間だと言われているようで嬉しかった。
一カ月前には容赦なく殺されそうになっていたのが嘘のようだ。
青年たちはこちらを鋭く睨みつけている。
そして青色の長髪の青年が片手を上げると、目の前にある海がグルグルと揺れたような気がした。
あっという間に高い波がメイジーたちの前に。
後ろからは森の木々が伸びて、メイジーや島民たちを囲っているではないか。
ミミたちや島の女性たちは子どもたちを抱きしめて悲鳴をあげている。
島での平和な生活は一転して地獄のような光景が広がっていた。
(いきなり何なの……!? わたくしたちが何をしたっていうのよ!)
恐らく島民の言葉は青年たちに通じておらず、青年たちの言葉をダダナたちは理解していない。
となると、ここは両方の言葉が理解できるメイジーの出番ではないだろうか。
(怖いけど、やるしかないわ……!)
メイジーは武器を構えるダダナたちの前に出て、彼らを守るように両手を広げた。
「どうしていきなり攻撃をするのですか?」
「我々の言葉が通じる者がいるのか!? こんな辺鄙な島で……」
「何故言葉が通じるかなんてどうでもいい……皇帝陛下はどこにいる? まさか無礼を働いてはいまいな?」
メイジーは首を傾げた。
どうやらこの青年たちは大きな勘違いをしているだけのようだ。
誤解を解かなければと口を開く。
「あなたたちの皇帝陛下が誰かは知りませんが、ここにはいません。他を当たってください」
「…………我々を謀る気か!?」
緑の短髪の男性からの威圧感に怯みそうになるが、こちらも負けじと睨み返す。
この島に皇帝などいるはずがないからだ。
それだけは確かなのだから。
「だが先ほどガブリエーレ様……皇帝陛下の名前を口にしたではないか」
「皇帝陛下? ガブリエーレは……」
メイジーがそう言った瞬間、尖った木の枝と波が頭上のすぐ上へ。
(つい、いつもの癖で……! 呼び捨てはまずかったのかしら)
メイジーは反省しつつ言い直す。
「ガ、ガブリエーレ様は島の神としてあちらにおりますけど……!」
メイジーが指差す先、いつもの岩場の上にいるはずのガブリエーレの姿が……なかった。
いつものようにニヤニヤしながらこちらを観察しているかと思いきや、こんな時ばかりいつもの場所にいないではないか。
メイジーが嫌な予感に青年たちの方を見ると、氷のように冷たい視線を向けているではないか。
命の危機を感じつつメイジーが動けないでいると、島民たちもメイジーに賛同するようにガブリエーレが島の守り神として讃えられていると口を揃えて言っている。
だが、青年たちは眉を寄せているだけ。まったく理解している様子はない。
それにメイジーは今にも木の枝が喉元に刺さりそうで一歩も動けない。
「この状況で嘘をつくとは……余程の愚か者か」
「なっ……! いつもはあそこにいるわ!」
「妄言はいい。皇帝陛下を出せ」
「そうだ。あの方は神に等しいお方だが、こんな薄汚い場所にいていい方ではないんだよ」
島を馬鹿にされたメイジーはカチンときてしまう。
(何にも知らないくせに偉そうに……!)




