③③ ジャシンスside3
「ディディエ、何を慌てているの?」
ディディエは血相を変えて部屋に飛び込んできた。
うるさい音に眉を寄せながらジャシンスはカップを傾けた。
「今すぐに説明してくれっ!」
「このケーキ、美味しいわよ。あなたもどう?」
お茶に誘ってみるものの反応が悪い。
黙って答えを待っているディディエに伝える。
「わたくしに反抗してきたんだもの。仕方ないじゃない?」
当然のように言ったが、ディディエの表情は厳しいままだ。
「──この状況で誰が貴族たちをまとめると思っているんだッ!」
「……!」
「いい加減にしろよ……!」
手のひらを握り込みながら、怒りに震える彼を見てジャシンスも焦りを感じていた。
父に怒られたこともなく、こうして他人から怒りを向けられたこともない。
(わ、わたくしを睨んだの!? なんで生意気な男なのかしら)
彼の腰にある剣がカチャリと揺れた。
それに周りにいる人たちも何故かジャシンスを睨みつけている。
最近、以前にも増して城での居心地が悪くなっているような気がした。
「ち、ちょっと何怒ってんのよ……冗談よ」
「…………」
「鍵なら牢の番が持っているでしょう? ちょっとうるさいから反省させようと思っただけよ!」
こちらにじりじりと近づいてくるディディエにジャシンスはカップにソーサーを置いて手を広げて横に振る。
「そ、それにあの女とわたくしを比べるから悪いんでしょう!?」
ピタリと足を止めた後に冷たい目でこちらを見たディディエは信じられないことをいい放った。
「たしかにメイジー王女の方がよかった。僕も父に同感だ」
「…………ッ!」
ジャシンスはそれを聞いて目を見開いた。
カップの取っ手を持つ手が震えてしまう。
感情の制御ができずにジャシンスはカップをディディエに投げつける。
しかしディディエは軽々とカップを避けてしまった。
──ガチャン
カップは床に落ちて割れてしまった。
眉を吊り上げて肩を上下させて荒く息を吐き出したジャシンスに送られる軽蔑の眼差し。
ジャシンスは下唇を噛みながら血走った目でディディエを見た。
「少しは我慢できないのか?」
「女王であるわたくしに歯向かう気っ!?」
ジャシンスがそう言うとディディエは唇を歪めながら答えた。
「このままだとお前も王太后も処刑だな」
「……はぁ!?」
「それが嫌だったら国が安定するまで口出しするな。ドレスや宝石のことだけ考えて大人しくしていろよ」
女王になる前まではあんなに優しかったディディエが豹変した。
ジャシンスはこんなに我慢しているではないか。
これ以上、何を我慢すればいいというのか。
だが結婚式と盛大なパーティーを開くまでは耐えなければならない。
何より母にもそう言われていた。
(結婚式があるからお前を生かしているだけ……! 結婚式が終わったらあの口うるさいジジイと一緒に殺してやるんだから)
結婚式は相手がいなければできない。
戴冠式も流れ作業で終わってしまい盛大なパーティーが開けなかった。
ジャシンスが女王だと見せびらかさなければ気が済まない。
(そうすればわたくしを馬鹿にしていた人たちを見返せる!)
ジャシンスに付きまとうひどい噂の数々。
『赤い魔女』『わがまま王女』
自分より地位の低い令嬢たちにも、いつも馬鹿にされているような気がしていた。
役立たず王女と言われているメイジーよりはマシだが、先に女王に指名されたのはメイジーだと貴族たちは知っている。
だからこそそれを上塗りしなければいけないのだ。
(わたくしが女王なの。この国で一番偉いのはわたくし……! すべてわたくしのものなんだから)
処刑なんて天地がひっくり返ってもありえるはずがない。
ジャシンスは爪を噛みながら扉を睨みつけていた。




