③② ジャシンスside2
その後、ディディエはわざとらしく大きなため息を吐いて頭を押さえながら去っていってしまった。
(何よっ……! わたくしが間違っているとでも言うの!?)
ジャシンスは震えながら頭を下げる侍女にグラスを投げつけた。
「きゃ……!」
「うるさい……次に声を上げたら殺すから」
「……ひっ、ぁ」
侍女は壁を伝ってそのまま座り込んでしまった。
自分より可愛らしい侍女を見ているとメイジーを思い出してイライラする。
「──さっさとグラスを片付けなさいよっ!」
「は、はい!」
侍女たちがジャシンスに怯えながら片付けていく。
怯えた態度が気に入らない。
思い通りにならない態度が気に入らない。
ジャシンスを崇めて一番でいさせてくれない相手に生きている価値はないのだ。
(あーあ、何か面白いことはないかしら)
ジャシンスは髪を指で遊びながら考えていた。
そしてあることを思いつく。
宰相に宝石商を呼ぶように頼むと「何故ですか?」と返事が返ってきたではないか。
気に入らずにジャシンスは怒りを抑えながら彼の言葉を無視して自分の要望を伝えていく。
「そうだわ! わたくしに相応しい真っ赤な宝石を持ってきてくれない?」
「女王陛下、僭越ながら昨日も宝石を買ったばかりです。なので……」
「だから何?」
「……!」
「わたくしが欲しいって言っているの。聞こえなかった?」
ここまで言っても宰相は動こうとはしない。
優しいジャシンスももう我慢の限界だった。
「もういいわ……」
「……やっとわかってくださったのですか?」
宰相がそう言って顔を上げた時だった。
ジャシンスはあることを告げるために唇を開く。
「なら、あなたクビよ」
「…………は?」
「役立たずはいらないの。わたくしのことを理解してくれる人しかそばに置きたくないの」
ジャシンスがそう言うと宰相は顎が外れてしまいそうなほどに口を開けている。
しかしすぐにハッとした後に反論するように声を上げた。
「なっ……そんなっ、許されません! 王太后は……っ」
「お母様は奥の部屋で酒を飲んで遊んでいるわ」
母は父が亡くなってからタガが外れたように酒と男に溺れていた。
メイジーがいなくなり、父が亡くなったことで解放されたらしい。
(あーあ、お母様ったら羨ましいわ。わたくしもそうしたいのに……)
なんで自分ばかりこんな苛立つ仕事をしなければならないのか。
だけどこれから楽しくしく暮らせるようにすればいいのだ。
宰相は小刻みに震えながらこちらを睨みつけた。
「メイジー王女だったらこんなことにはならなかっただろうに……」
そう言った宰相にジャシンスは椅子から立ち上がった。
メイジーの名前を聞いて、一気に頭に血が昇る。
「あなた……殺されたいの?」
「この国も終わりですな」
「…………」
ジャシンスの中で何かがプチリと切れた。
「──そいつを地下牢に連れて行きなさいっ!」
「ですがっ……」
ジャシンスの怒鳴り声に騎士たちがどうするべきか迷っているようだ。
「早くしなさいっ! アンタたちもコイツみたいにされたいの!?」
ジャシンスの叫び声に、騎士たちは恐る恐る宰相の腕を掴んで運んでいく。
(どいつもこいつも役立たずばっかりね……!)
ジャシンスは再び椅子に腰掛けた。
「気分が悪いわ……甘いものでも持ってきてくれる?」
「……はいっ」
侍女たちが慌てて動き出す。
ジャシンスは美味しいケーキと紅茶を楽しみながら気分を落ち着かせていた時だった。
(目障りなゴミはすぐに片付けないとね……)
遠くから聞こえるドタドタとうるさい足音にジャシンスは眉を寄せた。
「──父上を地下牢に入れたというのは本当なのか!?」




