③① ジャシンスside1
ジャシンスは葡萄を摘んで、グラスを傾けながらため息を吐いた。
(……女王なんてつまらない。なんか面白いことがないかしら)
メイジーを追い出してから一週間も経たないうちに父はあっさりと死んでしまった。
自分が女王になり、メイジーが死んだことを告げると、父は愕然としていたことを思い出す。
けれどもういないのだからどうでもいい。
葬儀も終わってすぐに戴冠式が行われて、ジャシンスは女王となった。
(ふふっ、これですべてが手に入るのね……!)
父が死んで楽ができないのは悲しいが、こうして豪華な椅子にふんぞり返るのは悪くない。
(ぜぇーーーんぶ、わたくしのもの! ああ、気分がいいわ)
少し前に婚約者のディディエは昔から知った仲ではあるが、野心家でいつもくだらない理想を語っていた。
顔も悪くはないがジャシンスのタイプではない。
だけどメイジーを追い出すために大いに役に立った。
(バカな男……わたくしに利用されているとも知らずに)
たった一週間だけメイジーの婚約者だったが、面識はなかったようだ。
ジャシンスがメイジーのことを悪く言うと、あっさりと話を信じた。
無実なメイジーは抵抗することもなく馬車に乗ったそうだ。
島に送り届けられることなく、海の真ん中に置き去りにしたらしい。
(あははっ、やっと目障りな奴が消えてスッキリしたわ。わたくしより美しい女なんて全員消えてしまえばいいのよ!)
ジャシンスが手を加えて輝かせた宝石だとするのなら、ありのままで輝いているのがメイジーだった。
同じ父親で母親が違うだけなのに彼女は天使のように愛らしく美しかった。
幼いジャシンスはメイジーに強烈な嫉妬を覚えたのを今でも覚えている。
だから壊してやったのだ。
母もジャシンスと同じ気持ちだった。
ゴミのような存在だが、ストレス発散には役に立つ。
だからメイジーがジャシンスの上に立つなんてありえないのだ。
(お父様も病気でおかしいことを言い始めた時には驚いたわ。このわたくしがあんなゴミの下になるだなんて、あっていいわけないでしょう?)
ジャシンスは手のひらを握り込んだ。
今、思い出しただけでも腹立たしくてどうにかなってしまいそうだ。
(……だけどもうあの子はいない。このわたくしが女王なのよ)
ディディエはそのまま王配となり、すぐに結婚することになった。
ジャシンスが盛大な結婚式をあげたいと言っても、周りは困惑した表情でこちらを見るばかり。
一生に一度しかない結婚式を完璧なものにしたいと思うのは当然だろう。
今は盛大な結婚式のためにドレスを仕立てているが、ディディエは興味ないと言った様子だ。
ジャシンスはそれが気に入らない。
(あんたなんてわたくしと釣り合ってない。早く愛人を見繕いましょう。見目がいいものを集めましょう。お父様だってそうしていたもの)
そして母は怒りに支配されて残忍に彼女たちを追い出していた。
それこそ一生、表に出られないほどに痛めつけていた。
ジャシンスは幼い頃からそれを目の当たりにしていた。
なぜかディディエは目の下に深いクマを刻みながら資料をめくっている。
ジャシンスが結婚式の要望を話しているにもかかわらず、だ。
「ねぇ、聞いているの!? 結婚式よ、わたくしとの結婚式……!」
「今はそれどころではないんだ。わかるだろう?」
「わかるわけないじゃない! わたくしとの結婚式以外に大切なものなんてないわ!」
「君がやりたいことをすれば予算が足りない! ただでさえ混乱しているのに……っ」
「予算が足りないのなら下々の者から搾り取ればいいじゃない? もっと税をあげればいいのよ」
「…………。君は正気なのか?」
「はぁ? だってそれがあなたたちの仕事でしょう?」
ディディエは大きく目を見開いているではないか、
訳がわからずにジャシンスは首を傾げた。




