②③
なんとかムーだけはと必死に泳いでいくが波に邪魔されて押し返されてしまうため、一向に岸まで辿り着けない。
(どうしよう……体力が持たないっ)
流された時に岩場にぶつけた場所がズキズキと痛む。
気力だけで足を動かしていたが、ついに限界が訪れてしまう。
(もうダメ、息が続かない……っ! 神様、ムーだけでも助けてください!)
メイジーがムーを抱きしめながら、心の中で神に祈った時だった。
「……ッ!?」
急に体が浮いたと思ったら、凄まじい勢いで体が引っ張られるような感覚がした。
目を開ける暇もなく、どこかに投げ出されてしまう。
メイジーは思いきり咳き込んで水を吐き出していく。
「ゲホッ……ゴホ……ッ!」
口元を手の甲で拭いながら目を開ける。
もう水に濡れていることもなく、足や手が岩に触れてじんわりと温かい。
何故、呼吸ができるのかと考えること数秒……。
メイジーの隣には島民たちが駆け寄ってくる。
『ムー、しっかり……!』
『ムー! ムーッ!』
ムーを後ろから抱えて、みぞおち辺りを両手で圧迫して水を吐かせているではないか。
なんとか震える腕を伸ばして、ムーが大丈夫なのか確認するように言葉を発しようとするが、思ったように声が出ない。
メイジーの腕は色々な場所にぶつけたからか切り傷だらけでひどいありさまになっている。
(わたしがもっとしっかりしていたら……)
もし彼女が助からなかったら……そう思うと涙が込み上げてくる。
知識や体力、冷静さがあればこんなことにはならなかったかもしれないと後悔を噛み締める。
震える指先が涙で歪んでいく。胸が苦しい。
クラクラと頭部が揺れ動いているような気がした。
(メイジーになって死にかけてばかりだわ。これが全部夢だったらいいのに……)
目が覚めたら病院のベッドの上だったらと考えてしまうが、体の冷えていく感覚が現実だと教えてくれる。
次第にメイジーの体が傾いていく。誰かに支えられていることもわからないままだ。
すると太陽の光に反射した銀色の髪と美しい顔が見えた。
メイジーは混濁する意識の中でも咄嗟にあることを思った。
もういっそのこと終わりにしてほしい、と。
「かみ……さま……おねがい、わたしを、ころして……」
『…………!』
気づいた時には自然と唇が動いていた。
メイジーはそのまま意識を失った。
* * *
見覚えのある城の廊下にメイジーは立っていた。
目の前にはジャシンスと王妃の姿がある。
(これは…………メイジーの記憶?)
振り上げらた彼女の腕にメイジーは瞼を閉じた。
鋭い痛みに小さな声を上げる。
「この役立たずが……っ!」
「……痛っ」
「目障りなのよ」
頬を扇子で叩かれたメイジーは床に倒れ込んだ。
「お母様、扇子が可哀想だわ。それにゴミは踏み潰すのよ! こうやってね……っ!」
ジャシンスは尖ったヒールで勢いよくメイジーの手の甲を踏み潰す。
メイジーが声を出さずに身悶える様子を見て、彼女たちは嗤うのだ。
反応したら、もっとやられてしまうとわかっていた。
これがメイジーの日常。
誰もが見て見ぬふりを続けていた。
助けてくれる人は誰もいない……それはわかってる。
様子を見ている周りの人たちも同じ。
関わって怒りの矛先を向けられたくないのだろう。
(どうしてわたしは生きているんだろう……何のためにここにいるの?)
傷つきすぎた心は鈍って何も感じない。
感じないけれど奥底ではまだ僅かな期待が捨てきれないのだ。
物語のようにいつか王子様が助けてくれるかもしれない。
誰かがメイジーを救い出してくれたら……。
だけど現実はそううまくはいかない。
メイジーは役立たずとして、狭い狭い部屋で生きていくしかないのだから。
踏んでも叩かれても無反応なメイジーを見て、二人はつまらないと言いたげに暴言を吐きながら去っていく。
メイジーに駆け寄ってくるのは侍女のリディだけだ。




