②②
(さすが島育ちね。わたしは体が波に持っていかれそうだわ)
数十分の間、三人は夢中で貝を獲っている。
どんどんと波が高くなっているような気がしてメイジーは危機感を覚えた。
それに踏ん張ろうとしても波の力が強すぎる。
先ほどから気をつけていないと、苔の生えた岩のせいでつるりと滑ってしまいそうだ。
なんとか子どもたちを説得しようとするが、もう少し貝を探すと言って聞かない。
「ねぇ、みんな……その貝をどうするの?」
『母、誕生日』
『お祝い、お祝い』
『あげる、誕生日。貝、きれい』
「そう、とても素敵ね。でもそろそろ……」
メイジーがそう言った瞬間だった。
体の揺れが収まり、下を向くと先ほどまであったはずの波の音が聞こえなくなる。
そしてズズズと音を立てながら足元の波が引いていくのが見えた。
(これって……まさか!)
メイジーが嫌な予感がした時にはもう遅かった。
どんどんと体が吸い込まれていく感覚。
ドーは危機をいち早く察知していたのだろう。
隣にいたデーの手を引いて安全な場所まで走っていく。
だがムーは貝をまだ探しており、波が高いことに気がついていない。
『とれた……!』
「──ムー、危ないっ!」
『……え?』
そう叫んだメイジーはムーと共に上から襲いくる波に飲まれてしまう。
ゴツゴツと岩場に足や背中をぶつけながら流されていく。
メイジーは今までにない恐怖を感じていた。
もうどこが痛いのかわからないが、メイジーは島民たちから教わったことを思い出していた。
もし波に飲まれたら息を止めてから身を任せる。
波に飲まれても一番大切なのは落ち着くことだ。
下手に暴れたら危険なので、状況を把握して無理に岸に戻ろうとしないことが大切だそうだ。
海藻や魚を獲っていた時に何気なく教わった知識だが、まさかこのタイミングで役に立つとは思わなかった。
いつまで経っても息が吸えない恐怖に長い時間、耐えなければならないのはつらい。
だが大切なのは無理に泳ぐことではなく浮くことだ。
(このまま波に飲まれてたまるもんですか……!)
命の危機は突然やってくる。
プカプカと海面まで浮いてくると波が落ち着いた瞬間を狙って、メイジーは海面に顔を出すことができた。
「ぷはっ……! ゴホッ、コホ」
荒く息を吐き出しながら生還を喜ぶ暇もなく、次の波に押し流されてしまう。
メイジーがここまで冷静でいられたのは、ある程度こうなることを予想していたからだ。
『たす、け……っ』
「……ッ!?」
小さな声が耳に届いたような気がした。
しかし再びメイジーの顔に波がかかり、何も聞こえなくなる。
なんとか顔を上げて声を聞き取ろうとするが……。
『──メイジー! ムーが』
『溺れる……っ!』
遠くから子どもたちの声が聞こえた。
メイジーはムーがあのまま波に流されてしまったのだと思った。
小さな体はあっという間に波に飲まれてしまうだろう。
(大変……! ムーを見つけないと)
メイジーが周囲を見回してもムーの姿はない。
恐らく海の中だろうと、メイジーは海の中に潜ってから目を凝らす。
一際、泡が海面に昇っており手足をバタつかせているムーを見つけて、そこまで必死に泳いでいく。
距離はさほど遠くはないが、メイジーの体は小柄で力もないためなかなか辿り着けない。
ムーは恐怖から暴れているのだろう。手足をバタつかせているせいで体が沈んでいく。
(このままだとわたしも息が続かない……! でも早くしないとムーがっ)
メイジーは一度海面に上がって、思いきり息を吸い込んだ。
そして再び海に潜ってムーが沈んでいる場所を目指す。
なんとか彼女の手を取ることはできたが、このまま海岸で泳いでいくのは無理なようだ。
(こんなことならもっと泳ぎを練習しておくんだった……!)
後悔しても今更だが、まずムーに呼吸をさせなければと海面を目指していくが思ったように浮上できない。
(急がなきゃ……! ムーがっ!)
先ほど冷静にならなければと言い聞かせたばかりなのに、メイジーはムーに命の危機が迫っていると焦ってしまう。
浮くことも忘れて、がむしゃらに動き続けてしまった。




