②⓪
主食はシンプルな味のためか、彼はよく食べるようになった。
スープの味は毎日、彼女たちの気分やその日に取れる食材によって変わってしまう。
そのためメイジーが先に味見をして味を伝えることで、ガブリエーレは少しずつではあるが食べられるものが増えていた。
不本意だがメイジーは彼の食の好みを把握しており、食事が終わるまで一緒にいてサポートしている。
『今日のスープはまぁまぁだった。このパンみたいのは硬い方が好みだ』
「何よ、偉そうに……! こっちは苦労して作ってんのよ」
平然とフルーツをモグモグと食べているガブリエーレを見ていると、神様と言うよりは王様のようだ。
メイジーは文句を言いつつも、あまった食事をまとめていた。
神様に満足してもらって後は島民たちの食事の時間だ。
メイジーは子どもたちがお腹を空かせているのをしっているため、手早く片付けていく。
『お前は食わないのか?』
「わたしはみんなと食べるの! あなたが食べ終わるの待っていただけだから。飲み物はお水? お茶?」
『あー……茶だな』
「はいはい、わかりましたわ」
まるで熟年夫婦のような会話だが、神の遣いとしてはこのくらいやらなければいけないと気持ちを抑えていた。
島民はガブリエーレの機嫌を一番に考えている。
『確かに言うだけのことはあるな』
「何が?」
『お前は役に立つ。召使いくらいにしてやってもいいぞ?』
いちいち腹が立つ言い方である。
チラリとガブリエーレを見ると、彼はいつものようにニヤニヤと笑っているではないか。
メイジーはわざとものすごく嫌な顔を見せつけるために眉間に皺を寄せて口元をへの字に歪めた。
「絶っっっっっ対に嫌よ!」
『国にはもう戻らないのだろう? 自称王女サマ』
「うるさいわね! あなたが何と言おうとわたしは王女だったの!」
『芋虫を食い、斧を振り回して、サバイバル生活を送る王女がどこにいる?』
「~~っ! 仕方ないでしょう!?」
自分で言うのも何だが、最近のメイジーの適応能力は目を見張るものがある。
石の斧で薪を作るのだってできるようになったし、火だって一人で起こせる。
料理も漁もそこそこ手伝えるようになった。
何故、それをずっと岩場の上から動いていないはずのガブリエーレが知っているのかはわからない。
わからないが、一国の王女がここまでしないのだけは確かだ。
『どうしてこうなったのか経緯を話してみろ。今すぐに』
「そんなこと、あなたに関係ないでしょう? それに王女だったって信じていないじゃない!」
『俺が興味を持ってやってるんだ。話せ』
「人の事情にズケズケと……! それにいちいち偉そうだし腹が立つのよ! あなたって絶対に友人はいないタイプね。あと恋人もっ」
『ああ、お前も友人がいないタイプだな。恋人も』
「なっ……! わたくしは友人がっ……恋人だって」
メイジーは王女だが友人が一人もいなかった。
いつもメイジーのそばにいてくれた侍女のリディを思い出す。
彼女は友達ではなく母や姉のような存在だ。
リディはメイジーを必死に守ってくれた。
(リディ……うまく逃げてくれたかしら。わたくしが無力なせいで彼女を守れなかったわ)
メイジーの胸がチクリと痛む。
シールカイズ王国に残してきたリディだけがメイジーの心残りだ。
婚約者のディディエともろくに顔を合わすことなく、ジャシンスにすべて奪われてしまった。
ぼんやりとしか顔を覚えていないのは部屋に引きこもってばかりで人と目を合わせられないからだ。
(メイジーには友人も恋人も……味方もいなかった。けれど前世では恋人はいなかったけど友人には恵まれたわ)
日本にいる時には友人にはいい刺激をもらっていた。
そうでなければ店舗を出すことなど不可能だったろう。
それも憎い相手にすべて奪われてしまったが……。




