とあるゲームのラスボスですが主人公がバグ技でダンジョンをほぼ無視して進んでいるのでどうやらここまでこなさそうです!!
「ふっふっふ、やっとか」
その怪しげな人物は、ふっふっふと仰々しい椅子に座って笑っていた。この男はここゲームのラスボス的存在の魔物だ。でかいツノにマントを靡かせている。
隣には同じくツノを生やしメガネをかけた側近の女魔物がやってる。
「あがこちらにやってきます」
「あ...?それはここにくるものの名前か?」
「はい」
その答えにラスボスはため息をついた。おそらく名前を考えるのが面倒だったのだろう。名前が適当な一文字というのはラスボスにとっても戦う時に雰囲気が出ずに何だか気が滅入る。
「まあいい。今はどの辺だ?」
そう言うと側近は目の前のモニターにとある森を映す。そこは序盤の森でちょうど主人公が歩いているところだ。
「ほう、まだここか。ふふふ、これから強くなって我と対面するのが楽しみだ」
ラスボスは主人公が来るのを待ち遠しく思っていた。さまざまな苦難を乗り越えて、最終決戦で戦うという血湧き肉躍るシチュエーションを今か今かと待ち侘びていた。
「ん?何をやっているんだ?」
主人公は森の角のところで何やらモゾモゾと体を動かしている。もちろん森と言ってもこのゲーム世界では行ける場所が制限されていて、その先に行こうとすると見えない壁のようなものに阻まれてしまう。だが、主人公はその見えない壁に体をぐりぐりと押し付けているのだ。
「何だかメニューを開いて閉じてを繰り返していますよ」
「一体何をやって...んっ!?」
その時、主人公が森の本来入れないとことへと貫通していった。その様子を見てラスボスも側近も驚いた顔になる。
「はっ!?奴は何をしているんだ?」
「さあ?でもなんか裏の方に行ってます」
「いったいどこに向かっているんだ?」
主人公は何だかゆっくりと前に進んでいく。しばらく進むと「うわあああ!!」と言う悲鳴をあげながら落ちていった。これダンジョンによくある穴のギミックだ。穴に落ちるとライフなどが減りすぐ近くからやり直すと言う仕組みになっている。
「何でこんなところに裏に穴があるんだ?」
「さあ?」
「と言うかこんなところで落ちたら正規の道に戻れるのか?」
「わかりませんが...」
「ん!?主人公が消えたぞ!」
穴に落ちた主人公は裏にも表にもおらず突然消えた。
「はい、はい」
突然通信の入った側近は誰かと話しているようだった。そしてその様子を見たラスボスは「どうした?」と問いかける。
「主人公は魔の洞窟にいるみたいです」
「何ぃ!?」
魔の洞窟は最初の森からかなり進んだ中盤のステージだ。森にいたはずの主人公が何故かそんなところにいるとは思えない...そんな事を考えながらモニターの映像を魔の洞窟に移した。そこには勇者の姿があった。
「なぜだ!?なぜいきなりこんな所に!?」
「さあ...わかりませんが...」
「森と洞窟の間にあった石を動かして扉を開けるギミックは!?針を工夫して乗り越えるステージは!?新アイテムで進むは!?」
「全て無視してその先のステージに行ってしまいました」
「ぐぬぬ...だが、この先もさまざまななギミックが...」
「...あの」
「なんだ?」
申し訳なさそうに視線をモニターに戻すように言う側近。ラスボスが視線を戻すと、主人公凄まじい速さでゲームの範囲内を抜け出し、どこかに消えてしまった。
「はっ!?これはなんだ!?」
「どうやらこれも壁抜けして高速で裏の世界に行く技のようです」
「えぇ...またか。まさか、このままクリアする気ではないだろうな?」
「まさか...」
このまま行くと、ラスボス戦までスキップされてしまうのではないかという不安に駆られる。それだけはどうにかしてでも阻止しなければならない。
「こうなったら直接行ってボス戦に!!」
「ですがどうやって奴の元へ行くのですか?今は普通では入れないところに...」
「それは...同じ手でも使うだけだ」
「危険です!おやめください!!」
止めようとする側近に無理にでも行こうとするラスボス。そんなやりとりをしながらやっと諦めてくれたのかラスボスは椅子に座る。
「おそらく奴はきます」
「ほう?なぜだ?」
「おそらくラスボス戦ぐらいはちゃんとするでしょう。何たって最後の戦いなんですから」
「ほう...そう信じて待ってみるか」
そうしてしばらく待つことにした。おそらくバグ技でも使えばここにくるのは数十分もかからないだろう。だが数時間ほど待ってみたが、やはりというべきか主人公は来なかった。
「くっ...やはりか!!期待して損したわ!」
「ですが妙ではありませんか?クリアしたならスタッフロールが流れるはずですが...」
確かにクリアした時のスタッフロールが流れてこない。ということはまだクリアしていないと言うことだ。
「ならば何をモタモタしているんだ!」
「見てみましょう」
モニターを開き主人公を探すとそこには主人公がいた。四方八方が真っ暗闇でそこただ呆然と突っ立っている。
「奴は何をしているのだ?」
「...おそらく考えられるのは一つ」
「なんだ?」
「行動不能になり、最初からやり直すのが面倒なため、プレイヤーがゲームを辞めたのだと思われます」
「...ああ、と言うことは」
「もうこちらには一生来ません」
ラスボスは「ああそう」と言いながらはーっとため息をついた。