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#52 黒髪ロングの王道清楚系美少女







 修学旅行は二日目を迎え、予定よりも早く目覚めた僕は、しばらく読書で時間を潰した後、朝ごはんのために大広間へと向かった。

 相変わらず元山さんに絡まれたりしながら、朝ごはんを食べ進めていく。

 今日はこのままバスに乗ってテーマパークや水族館の方へと移動することになっており、到着は昼前くらいの予定だ。

 既に他の生徒たちはテンションが高めで、特に女子たちの気合いの入り方は昨日の比ではなかった。

 髪型やメイク?など、いつもと違う雰囲気の人が多く、一体何時から準備していたのだろうかと少し気になっている。

 ちらっと愛野さんの方を見てみると、愛野さんは昨日よりも動きやすそうな服装をしているだけで、他の女子たちのように「いつもと違う雰囲気」というわけではなかった。


 以前一緒に本屋へ出掛けた時は、他の女子たちのように「いつもと違う雰囲気」を愛野さんから感じたのだが、気のせいだったのだろうか?


 しかし、あの日に気合いを入れてくる必要性が僕は思い浮かばなかったので、ただの気のせいだと思うことにした。

 むしろ、いつも通りの感じであるにも関わらず、それでも一際「華がある」ように感じるのは、愛野さんがやはり学校一の美少女であるからに違いない。

 あまり見ていると気付かれてしまうので、僕は視線を落とし、朝ごはんを味わうことにした。










 食事を終え、今は荷物を取りに戻っているのだが、


「なぁ、めっちゃ可愛い子いたんだけど見たか!?」


「見た見た!あんな可愛い子、他のクラスにいたっけ!?」


「黒髪ロングの王道清楚系だったよな!」


「ワンチャン愛野と並ぶんじゃね!?」


 というように、前の男子たちが騒いでいるのだ。

 男子たちの話によると、どこかのクラスに「愛野さんに並ぶほどの美少女」がいたらしい。

 しかし、誰もその子の名前が分からない上に、今までそんな子がいたのかすら分かっていない様子だった。

 僕はその「噂の人物」を見ていないし、そもそもそんなことに興味はないので、「みんなはよくそんな話題で盛り上がれるなぁ」という感想しか思い浮かばなかった。

 さっきも考えていたが、今日の女子たちの気合いの入り方は中々のものである。

 そのため、その「噂の人物」も気合いを入れていつもの雰囲気を変えた結果、垢抜けた?のかもしれない。

 髪型やメイク一つで女の子の印象はがらりと変わってしまうので、強ち間違いでもないだろう。

 その「噂の人物」はテーマパークの方に参加するはずなので、僕がお目にかかることはない。

 「テーマパークで会ったら声掛けてみようぜ!」という男子たちの下心しかない会話を耳にしながら、


(水族館を選んだ僕には関係のない話だな)


 と思い、僕は他のどうでもいいことを考え始めるのだった。










***










 バスに揺られること約一時間、僕たちを乗せたバスは目的地へと到着した。

 必要最低限の荷物だけを持ち、バスの外へと出て行く。

 そのままほとんどの生徒がテーマパークの方へと移動していく中、僕はバスを降りたすぐ近くで待機をしていた。


 というのも、ここまでの道中で、四宮先生からこう連絡があったからだ。


『テーマパークを選択した生徒は、入り口前で集合よ。水族館を選んだ生徒は別行動になるから、バスを降りたらしばらくは待機しておいてちょうだい』


 僕の方を見ながらそう伝えてきた四宮先生の表情は、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。

 しかし、それが何を意味するのかは分からなかったので、どうして僕を見ながら話していたんだろうと今も疑問に思っている。


 そうして待機をしている間も、続々と生徒たちは移動をしており、


(僕以外に水族館を選んだ人はいないのか?)


 と少し不安になってきた。

 そんな一抹の不安を抱えていると、「川瀬っ」と愛野さんが駆け寄ってきた。

 愛野さんがテーマパークの方を選択していることは周りの話からも知っているため、本当は水族館の方だったとかではないだろう。


「どうかしましたか?」


 僕がそう尋ねると、


「うぅん、ただ声を掛けただけっ」


 と愛野さんから返ってきた。

 「じゃあ今のこの時間は何なんだ?」と僕が返答に窮していると、


「川瀬は水族館の方だよね?」


 と愛野さんが聞いてきたので、


「はい、そうですよ」


 と僕は頷き返す。

 「そっかぁ」と何故か少し残念そうな表情を浮かべた愛野さんだったが、


「それじゃあ、今度水族館の感想聞かせてねっ♪」


 と笑顔を見せ、小さく手を振りながら集合場所へと向かって行った。


 もしかしたら、愛野さんは水族館の方にも興味があったのだろうか?


 どうして僕の感想を聞こうと思ったのか、その理由を予想してみると、この結論へとたどり着いた。

 教室では話せないので、周りに人がいない場面が訪れたのなら少し話す機会があるかもしれないなと思い、話題探しも頭の片隅に置いておくことにした。




 そこから五分ほど経ち、周りには生徒が誰もいなくなった。

 しかし、四宮先生から待機連絡が出ているため、ここを動くのも得策ではない。

 そうしてああだこうだ考え始めた時、


「川瀬くん、待たせたわね。チケットの分配に時間が掛かってしまったの」


 と言い、四宮先生が僕の方に近付いてきた。

 「構いませんよ」と四宮先生に返事をしながら、僕は四宮先生の隣にいる人物へと視線を向けた。

 そう、僕の方に向かってきたのは、四宮先生以外にもう一人いたのだ。


 その人物は、真っ直ぐに伸びた綺麗なロングヘアで、肌も雪のように白く、セーター生地のトップスとロングスカートが、絶妙にその可憐さを際立たせている。


 この人物に心当たりはないはずなのに、何故か「知っている」ような感じがするのはどうしてだろうか?

 でも、一つだけ間違いないのは、朝に男子たちが騒いでいた「愛野さんに並ぶほどの美少女」というのは、この人物のことだろう。


 そうやって勝手に推測をしていると、その人物は僕が視線を向けていたことに気付いたようだ。

 そして、ほんの少し頬を染めたその人物は、ついにその口を開いて声を発した。




「川瀬くん、今日は一日よろしく、ね?」




 聞き覚えのある声と、そこから想像される一人の人物とのギャップに、僕は思わず目を丸くしてしまう。


「もしかして、桐谷さんですか?」


 その人物は照れた様子でコクコクと頷き、僕の問い掛けが正解であることを伝えてきた。




 どうやら男子たちを賑わせている「黒髪ロングの王道清楚系美少女」というのは、桐谷さんのことらしい。










 僕がしばらくの驚きから戻ってきた後、僕たち三人は「シャトル船」乗り場へと移動を始めた。

 今回の二択で水族館を選んだのは、まさかの僕と桐谷さんだけらしく、四宮先生が引率として来てくれるとのことだった。

 四宮先生はそのことを知っていたため、道中のバスでは少し笑っていたのだ。

 「どうして事前に教えてくれなかったんですか?」と直接訪ねてみたところ、


「そっちの方が、川瀬くんが驚くかなと思ったからよ」


 と楽しそうな四宮先生から返ってきたので、僕はまんまとしてやられてしまったらしい。

 昨日もそうだったが、四宮先生は未だに夏休みのことを根に持ち、僕に小さな反撃をしてきている気がする。

 確かにあの策を提案したのは僕だが、実行犯は櫻子先生なので、僕は悪くない…はずだ。

 そんな四宮先生の「ドッキリ大成功」とでも言いたげなドヤ顔にため息を吐いていると、僕の隣を歩いている桐谷さんが「ふふっ」と笑い始めた。

 そんな桐谷さんに目を向けると、


「川瀬くんと四宮先生が、こんなに仲良しなんて、私、知りませんでしたっ」


 と、楽しそうにそう言ってきた。


「仲良しというか、四宮先生が揶揄ってきてるだけですから」


 僕は桐谷さんにそう伝えたのだが、


「あら、私は川瀬くんとそれなりに仲が良いと思ってるわよ?」


 というように、四宮先生が話をこじらせてきた。

 得意げな顔でそう言う四宮先生から、櫻子先生と似通った何かを感じたのは気のせいではない。

 「類は友を呼ぶ」とはまさにこのことで、なんだかんだ四宮先生は櫻子先生と似た者同士のようだ。

 そんな僕たちの様子を見て、更に楽しそうな笑顔を桐谷さんは浮かべている。


 結局、そんな状態がシャトル船に乗り込むまで続くのだった。










***










 今乗り込んだシャトル船は、十五分ほどで水族館近くの船着き場に到着するそうだ。

 「折角だしデッキに行ってみたらどうかしら?」と四宮先生が提案してきたので、僕と桐谷さんは船のデッキへと行ってみることにした。

 川なのか海なのかは判別できないが、四方が深い青色に囲まれたこの光景は、「非日常」を僕に実感させてくれている。


「とっても綺麗な景色ですねっ」


 横に目を向けると、桐谷さんは目を輝かせており、本当に楽しそうな表情をしていた。


 今の桐谷さんがあの桐谷さんだなんて、まだ僕の理解が追い付かない。


 ちょうど四宮先生のいないタイミングなので、僕は気になったことを直接桐谷さんに聞いてみることにした。


「桐谷さん、今日は随分と印象が違いますね?」


 そんな僕の言葉に、桐谷さんは「…えっ!?」とびっくりしたような声を出し、


「や、やっぱり、変、でしたかっ?」


 と、少し悲しそうな表情を浮かべた。

 桐谷さんが何か間違った意見の受け取り方をしているようだったので、


「いえ、変というわけではありませんよ。むしろ…何て言えば良いんでしょうか、桐谷さんの『良い』ところが前面に押し出されていて、素敵だと思いますよ?」


 という具合に、少し焦りながらも僕は訂正を行った。

 そうすると、


「…ふぇっ!?す、素敵ですか!?」


 というように、今度は顔を真っ赤にさせ、桐谷さんはあわあわとし始めた。


 しばらくして、桐谷さんは「すーはーすーはー」と胸に手を当てて深呼吸をし、落ち着きを取り戻したようだった。

 頬はわずかに赤いままの桐谷さんだが、改めて僕は同じ質問をしてみた。

 桐谷さんは「う~ん」と悩む素振りを見せたが、


「『今はまだ』秘密ですっ」


 と返事をした。

 先月の放課後と同様、またしても僕は答えを教えてもらえなかった。

 そのため、「どうしてあの日、僕に予定を聞いてきたのか」をもう一度尋ねても、教えてはもらえないだろう。

 しかし、「今はまだ」と桐谷さんは言っていたため、どこかのタイミングでその答えが聞ける可能性は高い。

 それなら今は気にすることでもないかと思い、僕は桐谷さんと別の話題を話し始めた。

 空は晴れ渡っており、日当たりも良く、吹いてくる風はどこか涼しいくらいに感じる。




 船着き場に到着するまでの間、僕は楽しそうな笑顔を向けてくる桐谷さんとそのまま会話を続けるのだった___。







今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


連載の励みになるので、良ければ評価の方もよろしくお願いしますね。

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