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#51 ご当地キーホルダー







 今日の宿泊場所へと到着し、荷物を持ってそれぞれの部屋へと移動をする。

 そうして部屋の前まで移動すると、


「それじゃあ、俺はあっち行くから」


 と言い残し、ペアの男子は他の二人の部屋に入って行った。

 フロントで渡された鍵を使い部屋の中に入ると、十畳ほどの簡素な和室が目に入り、仄かに畳みの香りも漂っている。

 机に座椅子、テレビと小さな冷蔵庫しか置いてはいないが、二人で使う(ペアの相手がいないので一人だ)にはこれくらいで十分だろう。

 とりあえず荷物を端の方に置き、僕は座椅子に座ることにした。

 机の上にはテレビのリモコンが置いてあり、何となく電源ボタンを押してみると、ちょうどニュース番組がやっていた。

 そのニュースによると、どうやらこの一週間は良い天気が続くそうで、修学旅行中は悪天候に気を配らなくても良さそうだ。

 この後はしばらくの休憩を挟み、大広間で夕食の予定である。

 夕食を食べた後は自由時間となるのだが、この宿泊施設のすぐ近くには色々な出店が並んでいる通りがあり、ほとんどの生徒はそこに向かうだろう。

 僕も頼まれているお土産を探すため、少しだけ見て回ろうかなと思っているところだ。


 その後、黄色と黒色が特徴的な野球チームのニュースを眺めつつ、ぼんやりとした時間を過ごすのだった。










 時間になったので大広間へと移動し、夕食の時間が始まった。

 ご飯を食べる席は、三日目の自由行動の班を元にした席順であり、位置的にはちょうど真ん中くらいである。

 この席順には一つの懸念点があり、それは、


「はじめ、この料理何だと思う?」


 と今も話し掛けられているように、そう、隣が元山さんなのだ。

 席の前方が男子、後方が女子で別れているのだが、僕の席はちょうどその境目にある。

 そのため、女子列の先頭の人と隣になってしまうことになり、その相手というのが元山さんというわけなのである。


「僕のことは気にせず、班の人たちと話してください」


「えー、折角隣なんだから良いじゃん」


 そう言いつつも、前や隣の女子たちと話し始めた元山さんを見て、僕はホッと一息つく。

 どうして僕が安堵しているのかと言うと、元山さんが話し掛けてくる間、斜め前の方からずっと僕の方に強烈な視線が向けられていたからだ。

 僕が元山さんと会話をすると、その視線の主である愛野さんが、頬を膨らませてこっちを見てくるのである。

 今までも何回か愛野さんがこういう視線を向けてくる場面はあったが、今回は更に「圧」が強いような気がするのだ。


(どうしてそんな表情をするんだ…?)


 とりあえず、そんな愛野さんは気にしないように心掛け、前のイベント?に目を向けることにする。

 今は有志の生徒による漫才が行われているところだ。

 恐らく今流行りのお笑いネタなのだろう、隣や前の男子たちは声を出して笑っている。

 会場全体も笑いに包まれているが、僕にはその面白さが分からなかったので、少し申し訳ない。

 スマホやテレビを持っていないデメリットは、こういう流行りを押さえることができないところにあるといってもいい。

 まぁ今に始まったことじゃないので、特に気にもしていないのだが…。

 この次は、歌を披露する生徒が何人か続く予定となっている。

 文化祭のように全校生徒相手ではないが、こうして前で発表をすることができる彼ら彼女らには、ある種の眩しさすら覚えるほどだ。

 僕には絶対無理なので、よく花城の文化祭に参加したなと、今になって過去の自分自身が恐ろしくなってきた。

 そんな気を紛らわせるように、僕は箸を持つ手を動かして、目の前の料理を食べ進めていくことにした。

 普段は食べないような料理がいくつかあるが、どれも美味しい気がする。

 修学旅行ではもしかしたらと思い、食事の時間を目当てにしていたが、やっぱりいつも通りの味覚の薄さであった。

 それでも一時期よりはマシになっており、いつものコンビニ弁当との違いくらいは余裕で感じられる。


 そうして、ちょくちょく話し掛けてくる元山さんに返事をし、こっちを見てくる愛野さんを無視しつつ、一日目の夕食は幕を閉じた。










***










 部屋に戻って少し時間を置き、僕は宿泊場所の外へと出ることにした。

 辺りはすっかり暗くなっているが、通りのところはお店の光で明るくなっており、離れた場所からでもすぐに視認できた。

 その通りに行くと、思ったよりも人でいっぱいだったため、目的を済ませて早く戻ろうと思いながら、出店をさっと見ていくことにする。

 服を売っているお店や小物を売っているお店などが立ち並ぶほか、お祭りで見かけるような屋台まであり、ベビーカステラの甘い匂いが嗅覚を刺激してくる。

 夕食を食べたばかりであるにも関わらず、屋台で買ったものを食べている人も結構見かけた。

 そんな人込みをスッと通り抜け、更に奥の方へと歩いていくと、お土産を売っているお店が目に入った。

 そのお店に入り、店内を見て回ると、目的の商品を発見した。


 その商品というのは、「ご当地しろぴよのキーホルダー」である。


 しろぴよには、それぞれの地域とコラボをしたキーホルダーがあるという話を戌亥さんから聞き、


「るかちゃんのお土産は~それでお願いします~」


 と頼まれていたのだ。

 今手に取ったものは、大仏の隣にしろぴよがいるキーホルダーであり、これがこの地域のご当地コラボキーホルダーなのだろう。

 明日も明後日も別の地域に移動するので、こうして見つけられれば、全部で三つの地域のキーホルダーを戌亥さんに渡せるはずだ。

 ひとまず今日の分のキーホルダーを購入し、僕はお店の外へと出るのだった。










 目的を達成したので、僕は来た道を戻っている。

 道中で、どこかのクラスの男子グループが木刀を買っていたのだが、一体あの木刀は何に使うのだろうか?

 持ち歩くのも危険であるし、すぐに没収されそうな気もするが、「修学旅行だから」という理由で木刀を買わせてしまうほどの力が、「修学旅行」にはあるのだろう。

 まぁ、全部僕個人の推測だが。

 そんな木刀剣士たちに肩を竦めつつ、僕は通りの入り口までたどり着き、そのままの足で宿泊場所へと戻った。

 扉を開けて中に入ると、


「あっ、川瀬。もう戻ってきたの?」


 と、一人でそこにいた愛野さんに声を掛けられた。


「はい、ちょうど帰ってきたところです。愛野さんは今から行く予定ですか?」


 僕の言葉に、「うん、そうだよ」と愛野さんは頷いた。


「今は忘れ物をした朱莉を待ってるところなの」


 愛野さんが一人でいる理由に納得をしていると、


「川瀬は何か買ったの?」


 と愛野さんが尋ねてきたので、僕はさっき購入したキーホルダーを愛野さんの前へと出した。

 すると、愛野さんは我慢できないといった様子でくすくすと笑い始めた。


「ふふっ、やっぱり川瀬ってさ、しろぴよくんのファンだよね?」


 愛野さんに誤解をされている気がするので、


「前も言いましたが、僕はしろぴよのファンではないですから。これは戌亥さんに頼まれていたご当地キーホルダーです」


 と説明すると、「あぁ~、流歌ちゃんからのお願いだったんだっ」と愛野さんは納得をしてくれたようだった。

 しかし、愛野さんの表情には依然としてニヤニヤとした笑みが貼り付いている。


「本当に戌亥さんが頼んできたから買っただけで、僕がしろぴよを欲しくて買ったわけではないですからね?」


 繰り返し念押しをしてみたが、何だか余計に言い訳っぽくなってしまい、愛野さんのニヤニヤは深まるばかりだった。

 若干揶揄いが含まれていそうな笑みなので、絶対うまく伝わっていないな…と思っていると、


「私も流歌ちゃんにお土産を買おうと思ってて、候補としてはこれなんだけど、どうかな?」


 と言いながら愛野さんは表情を戻し、僕にスマホの画面を近付けてきた。

 その画面を覗き込むと、しろぴよとコラボをしたお菓子のお土産が表示されていた。

 箱にはでかでかとしろぴよが描かれており、そのお菓子にはシールが付いているらしい。


「戌亥さんなら絶対喜ぶお土産ですね」


「そうでしょ?」


 「もし見かけたら教えてねっ」と愛野さんに言われたので、僕は一応頷いておくことにした。


「それじゃあ、僕は先に部屋に戻るので、愛野さんは楽しんできてください」


 そう言ってエレベーターに乗ろうとすると、


「川瀬っ、おやすみっ♪」


 と愛野さんが手を振ってくるので、僕は会釈を返してそのままエレベーターに乗るのだった。










☆☆☆










 エレベーターに乗った川瀬を見送っていると、


「ひーめかっ、お待たせっ」


 と、朱莉が「タイミング良く」私の元にやってきた。

 私は朱莉にジト目を向け、こう話し掛ける。


「…朱莉、もしかしてだけど、私たちのこと見てたでしょ?」


 朱莉は視線を周りにキョロキョロと動かしたが、


「…バレちゃってた?」


 と舌をちろっと出し、見ていたことを白状した。


「戻ってくるタイミングが良過ぎたから、そうかなーって」


「ぐぬぬ、ボクの隠密行動を解き明かすとは…」


「もぅ、何やってるの?」


「いやいやっ!さっきの二人の邪魔なんてできないから!」


 朱莉はそう言うと、スマホの画面を向け、一枚の表示させた画像を見せてくる。


「あんな近い距離で一つのスマホを見ながら会話するとか、もうキュンキュンが止まらなかったよ!」


「ちょっ、朱莉っ!何撮ってるのよっ!」


「いやぁー、つい勝手に指が動きまして」


 朱莉の見せた画像に、私の顔は急速に熱を帯びていく。

 画像を見てみると、思ったよりも近い距離感で私は川瀬と会話をしていたようで、今更になってその恥ずかしさがこみ上げてきた。


「てか、この姫花の笑顔見てよ。これで気付かないって、まさかの川瀬くんは鈍感くんかな?」


「は、恥ずかしいから言わないでっ!」


 ニヤニヤしている朱莉の手を取り、「早く行くよ!」と外に引っ張っていく。

 「姫花、可愛い~」と揶揄ってくる朱莉に「ふんっ」とそっぽを向き、私は怒ってますよアピールをする。


「もお~ごめんってば~、この画像送るから許して~」


 もちろん私が本気で怒ってはいないことも分かった上で、朱莉はそう言って許しを求めてきた。

 相変わらずチョロい性格をしているなと自覚しつつ、


「…それなら許してあげる」


 というように、私は朱莉のことを許してあげることにした。

 そして、私は朱莉から送られてきた川瀬との画像を見て、


「ふふっ♪」


 と口角が上がるのを止められなかった。




 その後は、川瀬が鹿さんに囲まれていた話で朱莉と盛り上がりつつ、私は一日目の夜を楽しんだ。







今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


連載の励みになるので、良ければ評価の方もよろしくお願いしますね。

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