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#42 素敵な出会い







 次の日、私は朱莉と共にとある喫茶店へと向かっていた。

 昨日、流歌ちゃんから連絡が返ってきて、会って話そうということになったのだ。

 目的の喫茶店にたどり着いたので、私たちはお店の扉を開いた。

 カランカランという音に合わせ、落ち着いた雰囲気のBGMが私たちのことを出迎えてくれる。

 中に入ると、


「姫ちゃんこっちです~」


 という流歌ちゃんの声が奥から聞こえてきたので、私たちはその場所へと移動をする。

 川瀬と訪れたことのある喫茶店と同じく、この喫茶店も仕切りで覆われており、プライベート空間がしっかりと保たれているようだ。

 そして、そのテーブルに近付くと、


「姫ちゃんお久しぶりです~」


 と言う流歌ちゃんの他に、


「お邪魔させていただきますわ」


 と口を開く綺麗な女性が座っていた。

 私も朱莉も流歌ちゃんだけだと思っていたので、びっくりして目を丸くする。


「文化祭のバンドでドラムをしていた生徒会長さん…?」


 特に、朱莉の驚きは私以上で、突然の邂逅に体を固まらせていた。


「うふふ、ええそうですわ」


 口に手を当てながら、花城の生徒会長さんは上品な笑みを浮かべる。


「まぁまぁ二人とも~まずは座ってくださいなぁ~」


 流歌ちゃんにそう促され、私と朱莉は二人の対面に腰を下ろした。




 飲み物を注文し終わった後、私たち四人はそれぞれ顔を見合わせる。


「それでは簡単に自己紹介でもしていきましょう~」


 流歌ちゃんの一言を皮切りに、私たちの自己紹介が始まった。


「るかちゃんはぁ~戌亥流歌って言います~」


 流歌ちゃんの自己紹介に、


「きゃー!姫花聞いた!?戌亥ちゃんの一人称可愛過ぎだよぉ~」


 と、朱莉は一人で大盛り上がりしていた。


「姫ちゃんのお隣さんは初めましてですなぁ~お名前を聞いても良いですかぁ~?」


 流歌ちゃんからそう話を振られ、朱莉は嬉しそうに自己紹介を始める。


「はいはーい、ボクは姫花の幼馴染の南朱莉みなみあかりって言います!戌亥ちゃんとはずっと会って話したかったの!」


「南朱莉ちゃんですかぁ~それならぁ~『あかりん』と呼んでも良いですかぁ~?」


「えっ!?ほんと!?うんうんっ、呼んで呼んでっ!」


 「姫花やったぁー!」と嬉しそうな表情を見せる朱莉。

 そのまま二人はわいわいと連絡先の交換を始めていた。

 まるでアイドルにファンサービスをしてもらったようにはしゃいでいる朱莉を、「もぅ朱莉ってば…」と呆れた様子で見ていると、花城の生徒会長さんも二人を楽しそうに眺めていた。

 すると、生徒会長さんと目が合ったので、私は自分の自己紹介をすることにした。


「私は愛野姫花と言います。今日は来てくださってありがとうございます」


 そう言うと、続けて前の生徒会長さんも自己紹介をし始める。


「わたくしの名前は藤園・イリーナ・絢美ですわ。わたくしも流歌とは幼馴染ですの。皆さんより学年は一つ上ですが、気軽にイリーナと呼んで欲しいですわ」


 本人たっての希望のため、私は「イリーナさん」と呼ぶことにした。

 そして、そのイリーナさんの自己紹介を聞いて、様子のおかしくなっていた人がいた。

 そう、隣に座っている朱莉である。


「あ、あのっ!ボク、バンドで一目見た時から大ファンですっ!」


「朱莉さんからそう言っていただけるのは、わたくしとても嬉しいですわ」


「なので、ぜひ『イリーナ様』と呼ばせていただきたいです!」


 イリーナさんは少し驚いたような表情を浮かべたが、「構いませんわよ」と朱莉の暴走を認めてくれたようだ。


「イリーナ様!よろしくお願いします!」


 そうして朱莉は身を乗り出し、対角に座っているイリーナさんの手を握ってブンブンと振り始める。

 その様子を私がさらに呆れた様子で見ている一方で、流歌ちゃんは「ふっふっふっ、イリ姉はモテモテですなぁ~」と笑みを浮かべていた。

 まぁ朱莉が楽しそうなら良い…のかな?と思い始め、私もつられてくすくすと笑い始める。


 朱莉の突然の行動にあわあわとしていたイリーナさんが印象的で、とっても綺麗なのに可愛らしい先輩だなぁと私は思った。




 注文していた飲み物が届いた後、私たち四人は女子トークで盛り上がりを見せていた。

 文化祭ライブの話は一番の盛り上がりを見せ、やっぱりあの時の被り物をした人は川瀬だということが分かった。

 私が川瀬だと気付いていたことに、流歌ちゃんとイリーナさんは驚いていた。

 文化祭の後、あの被り物は誰だったんだということが花城で大きな話題となったそうだが、結局正体は誰にもバレなかったらしい。


「まさか姫ちゃんに見破られるとは~」


 確かに他の誰かが被り物をして前に出てきても、私は分からないだろう。

 川瀬だから分かった、理由はただそれだけだ。

 その話を聞いて、朱莉はニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「ふーん、姫花は川瀬くんだって気付いてたんだ~」


「ぐ、偶然だからっ」


「ほんとかなぁ~?」


 朱莉の意見に反論をしていると、斜め前の流歌ちゃんも同じようにニヤニヤとした笑みを浮かべ始める。


「ふっふっふっ~中々興味深い話ですなぁ~」


「戌亥ちゃんもそう思うでしょ~?」


「あかりんに同意です~」


 二人の揶揄うような視線に頬を熱くしていると、


「ほらほら二人とも、姫花さんが困っていますわよ」


 とイリーナさんが助け舟を出してくれた。

 「「はぁい」」と二人は大人しくなり、私はイリーナさんにお礼を伝える。


「イリーナさん、ありがとうございます」


「いえいえ、構いませんくてよ」


 そう返してくれたイリーナさんだったが、すぐに「うふふっ」と笑みを浮かべ、私にこう伝えてきた。


「それにしても、姫花さんの困ったお顔が、流歌に揶揄われた時の川瀬さんと同じように見えましたわ」


 川瀬と「同じ」であると言われ、私は「えっ!?」と驚きの声を上げた。

 そして、嬉しいやら恥ずかしいやらで、私は自分の顔を両手で隠し、身悶えし始める。


「あらあら、姫花さんはとても可愛らしい方ですのね」


「そうなんですっ!ボクも昨日からずっとキュンキュンしてますっ」


「これはもっと姫ちゃんと仲良くなりたいですなぁ~」


 三人は何やら私のことを話し始めたので、私はしばらく羞恥心から顔を上げられないのだった。










 私が落ち着きを見せ、話も一区切りついた後、私は今日集まってもらった本題について話始めることにした。

 事前に水上くんのことは流歌ちゃんにメッセージで説明してあり、イリーナさんも流歌ちゃんから話を聞いていたようだったので、私はメッセージでは伝えきれなかった細かいところを説明することにする。

 流歌ちゃんとイリーナさんは水上くんのことを噂程度には知っていて、「星乃海の王子」と花城でも名前を聞いたことがあったようだ。

 二人に説明をしていく中で、私が撮影した例の動画も見てもらうことにした。

 動画を見ている間、流歌ちゃんとイリーナさんは眉を顰めており、見終わった後、二人は全面的に協力をすると言ってくれた。

 共通の「敵」として水上くんの認識を深めた後、はるかさんという人物について私は尋ねた。


「水上くんには、花城にはるかさんという彼女の人がいるらしいです。流歌ちゃんとイリーナさんは、そのはるかさんという人に心当たりがありませんか?」


 そうすると、「恐らく山吹春香やまぶきはるかさんのことだと思いますわ」とイリーナさんが返してくれた。

 流歌ちゃんもうんうんと頷いているので、そのはるかさんでほぼ間違いないだろう。

 二人が言うには、そのはるかさんという人物は花城の三年生で、学校内でも可愛いとそこそこ評判の人らしい。

 しかし、性格に少し難があるようで、花城の注目を一身に浴びているイリーナさんを目の敵にしているのだとか。

 流歌ちゃんのことも良くは思っていないそうで、言い方は悪いが、少々傲慢な感じらしい。

 そんなはるかさんから、イリーナ先輩は二学期が始まってすぐの頃、


『私のことを一番だと言ってくれるイケメンの彼氏ができたから』


 というマウントを取られたそうだ。

私たちは、その彼氏というのが水上くんだと目星を付ける。


「はるかさんに話が聞ければ良いんですけど…」


「う~ん、そもそも話を聞くのが厄介な相手っぽいよね」


 私と朱莉が思わぬ問題に頭を悩ませていると、


「春香さんのことについては、わたくしたちに任せてくださいまし」


 と、イリーナさんが宣言した。

 「何回か話したこともあるので~るかちゃんたちにお任せあれ~」と流歌ちゃんもそれに続く。


「それに、花城の生徒会長として、花城の生徒が良くないことに巻き込まれているこの事態を、黙って見過ごすわけにはいけませんわ。なので、わたくしの方でも『水上流星』さんのことについて詳しく調べてみますわ」


 イリーナさんの心強い協力の言葉に、私は「お願いしますっ!」と力強く頷き返す。

 そうすると、「少しだけ席を外しますわね」と言ったイリーナさんは席を立ち上がり、お店の外へと出て行った。

 流歌ちゃんはそのイリーナさんのことを見て、「あちゃあ~」と呟く。

 「どうしたの、戌亥ちゃん?」と朱莉が流歌ちゃんに尋ねると、流歌ちゃんはこう話し始めた。


「多分ですけど~今イリ姉は水上氏の身辺調査依頼の電話をしていますねぇ~。イリ姉の顔が本気モードだったので~想像以上に水上氏は痛い目を見るかもしれませんなぁ~」


 イリーナさんがお金持ちのお嬢様であることは先ほど聞いたばかりだが、できることにすぐさま取り掛かろうとする行動力とそのスケールの大きさに、私と朱莉は驚きを隠せなかった。

 以前にも、イリーナさんは持ち得る全ての力を使って生徒の問題を解決したことがあったらしく、それが「生徒会長」として容姿以外でも圧倒的な人気を集めている所以だそうだ。

 「この人に任せていれば何とかなる」「この人についていきたい」と思わせるようなカリスマ性が、イリーナさんからはひしひしと伝わってきている。

 元はと言えば私個人の問題であるのに、こうして力を借りてしまっている状況に申し訳なさも感じているが、「気にしないで」と流歌ちゃんやイリーナさんは言ってくれた。

 この素敵な出会いに改めて感謝をしつつ、絶対にこの問題を解決して見せると私は気合いを入れた。


 イリーナさんが戻ってきた後、明日以降の水上くんに対する振る舞いなどを話し合い、私たちは今後の方針を固めた。




 そうして、お昼も近いし折角四人で集まって仲良くなったので、このまま昼食を食べて遊びに行こうという話になった。

 私と朱莉は「「もちろんっ!」」と二人に反応を返し、午後からも楽しい休日を過ごすのだった___。







今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。


連載の励みになるので、良ければ評価の方もよろしくお願いしますね。

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[一言] イリ姉頼んだ 水上を見てボコボコにしてくれ〜
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