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久しぶりの語らい 2(サンノ)

前回のお話の続きです。


サンノは、コーリヒトと幼少期から騎士学校までの幼馴染です。

本編『第12話 結婚の祝いの宴 その2』と、番外編『レイナ、合コン?に行ってみた』に登場しています。


俺は、つまみを取って、ワインのおかわりをもらって、周りを見るとサンノがいたので、声をかけた。



「よぅサンノ、この前は来てくれてありがとうな。」

「コーリ! 当たり前じゃん。

コーリのいるところなら、どこでも行っちゃうよ~。」

「サンノはホント、調子がいいなぁ。」

「ところで、コーリ、大丈夫か?」

「え? 何が?」

「リルマーヤお嬢様だよ。」

「え?!・・・サンノ、知ってるの?」

「ああ、俺も貴族の端くれだけどな、そのぐらいは知ってるよ。

近隣のご子息、ご令嬢の情報は、囚われの時に叩き込まれたからな。」

「囚われの時って・・・。」


本人は貴族の端くれとか言ってるけど、実はサンノはブルーマルケス侯爵家のご子息なのだ。

じゃあなぜ、子供のころ、俺たちと一緒に過ごしてきたのか。

それはサンノが、いわゆる “私生児” だからだ。


サンノの母親がブルーマルケス家の侍女をしていた頃、侯爵家のご子息と惹かれ合い結ばれた。

二人は結婚したいと当時の侯爵家当主、つまりサンノのおじい様にお願いしたが、そんなことは許されず、結局ご子息、サンノの父親が留学している間にサンノの母親は手切れ金を持たされ追い出された。

母親は生まれ故郷のここ、コンハートの街に戻り、サンノを産んで一緒に暮らしていた。


サンノを含め俺たちは何も知らずに一緒になって遊んでいたが、一変したのがサンノの母親が亡くなった十二歳の時だ。

多分、母親に何かがあった時はサンノを侯爵家で引き取ると約束されていたのだろう、そのあとにサンノに会いに行くともう彼はいなかった。

サンノが言う “囚われの時” とは、その侯爵家に引き取られた時のことを言うのだろう。


「サンノはマーヤのこと、どこまで知ってるの?」

「俺も彼女の性格までは知らないけど、この前会って容姿を見てわかったよ。

“奇病を患った白髪のリルマーヤ嬢” はこの辺りの貴族の間では有名な話だからね。」

「やっぱり彼女のことは知られているんだ。」

「田舎の貴族たちには、いい暇つぶしの話だからなぁ。

本人の気持ちも考えずに、あることないことを誇張して話を広めたんだろうな。」

「子爵様からも話は聞いたけど、ひどい話だな。 そのせいでマーヤにはいい縁談はこなくなったらしい。」


「でもこの前会った時の様子では、市井に来ることが嫌そうな感じではなかったし、典型的なお嬢様っぽくないみたいじゃん?」

「そうだな、俺が考えるところのお嬢様とはちょっと違うみたいだし、話していても時々貴族だったってことを俺も忘れちゃう感じだな。」

「ふーん、結構本人も努力してるんじゃない?」

「だな。 それに市井で暮らしたいって言ったのはマーヤみたいだし、本人なりに頑張っているとは思うよ。」

「へー、そうなんだ。 それで子爵は娘の相手にお前を選んだんだな・・・子爵もなかなか見る目があるじゃん。」

「え、何? 悪い、最後の方聞こえなかった。」

「ん? いや、それでも貴族と庶民の間には見えない溝もあるよなって思った。」

「それは・・・サンノが一番わかってるか。」


サンノと再会したのは騎士学校に入ってからだ。

途中入学してきたサンノは、別れた頃より背が高くなり、顔も大人びて、そして笑わなくなっていた。

侯爵の家にいた頃に何があったのか聞いていないけれど、代が代わって侯爵家当主となったサンノの父親にはもう奥さんも子供もいたから、その中に溶け込もうとしてもうまくいかないだろうことは想像に難くない。


サンノは、侯爵家の爵位相続権を放棄、居場所を確実に報告する代わりに侯爵家を出て自由にさせてもらうことを侯爵様に願い出て受け入れてもらった。

俺たちは単純でバカだったから、そんな彼の事情も考えずに、ただサンノにまた会えたことが嬉しくて、『サンノ、サンノ』と付きまとった。

最初のころのサンノの態度は、俺たちのことを疎ましく思っていたような感じだったけど、後々聞けば、本当は以前と変わらず付き合おうとした俺たちの態度は嬉しかったようだ。

そのうちサンノも以前の彼を取り戻し、笑顔が戻った。


そして、貴族だってことを知られないようにするため、軟派な振りをするようになってしまった。

本当のサンノをわかっている俺たちには仕方がないことだと受け入れられるけど、初対面の人にはすごいノリの軽いヤツだと思われるだろう。

そう思われることが狙いなんだけど、本当はそうじゃないと言えないのが、サンノを知る俺たちにとっては悔しい。

ただ、本人は結構楽しんでやってるみたいだから、今ではそれも含め受け入れているけどね。


「マーヤが楽しく暮らせるように俺も彼女を支えていくつもりだけど。」

「ほんっとに、コーリは優しいな。そんなお嬢様を押し付けられたっていうのに。」

「押し付けられたって・・・まぁ考え方によってはそうなるのか。

でも、彼女が頑張ろうとしているのがわかるから、俺もそれに答えたいとは思うよ。

それに子爵様がくれたご縁だし、お互いの家にとっても俺たちが仲良くなるのを望むだろうし。

とりあえずはお互いをよく知るところからだな。」

「何もないとは思うけど、でも何かあったらちゃんと言えよ。 力になるからさ。」

「ありがとう、サンノ。 頼りにならなさそうなのに!」

「何だと~? 俺はコーリのためならどこまででも付き合うって、いつも言ってるだろ。」


サンノは、騎士学校の時に再会できた仲間をとても大切に思っているようで、時々こういう言葉を言ってくれる。

普段の態度からは全然想像できないんだけど。


「そういうお前は、侯爵様とはうまくやってるのか?」

「え、いきなり俺のこと? うーん、うまくやってるんじゃないかな。

時々ご飯とか誘ってくれるし。」

「へー、サンノもそれに付き合うんだ。」

「誘ってくれるからしょうがないだろう?

俺は自由の身だから、いろんなところに行っていろいろ見て回って、感じたことを親父様に報告しているんだ。

親父様は、いい手駒が見つかったと思っているんだろうよ。」


“親父様”って・・・以前は侯爵様のこと『あんなヤツは父親でも何でもない!』とか言っていたのに、人は変われるんだな。

報告とか言いながらも、サンノは何となく嬉しそうだ。

侯爵様も、自分が好きだった人の面影が残るサンノを手元に置いておきたいのかもしれない。


「おぉ、それならサンノのことは安心だな。 サンノも大人になったじゃん。」

「なんだよ~、その言い方!

俺が大人になったのなら、お前も大人になってるんだからな!」

「ははは、俺たち大人になっちゃったんだ。」

「そうそう、でもあそこに一人、大人になれていないのがいるから、コーリ、行って話を聞いてやってよ。」



サンノが指す方を見ると、ウィーロが一人うじうじしているのが見えた。

ありゃー、ウィーロの周りに黒い靄が見えそうだ。




読んでくださり、ありがとうございます。


番外編は不定期投稿です。


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