久しぶりの語らい 1(ハミル)
今回のお話は、コーリヒトの結婚のお祝いの飲み会編です。
本編『第15話 新婚デート・街なか編 その3』で会ったフムスたちに、次の日の夜、飲み会に誘われます。
その飲み会のお話で、3話でお届けします。
時系では、第16・17話 新婚デート・湖編の、湖デートに行った夜になります。
俺は、昨日フムス先輩たちが誘ってくれた、飲み会の行われる店の前にいた。
『ふぅー、久しぶりにみんなに会うからかな、なんか緊張するなぁ』
そう思いながら、店のドアを開けた。
「おー、コーリが来たぞ!」
「「「コーリ、おめでとう! お前、結婚したんだってな!」」」
「「「久しぶり、コーリ、変わってないなぁ。」」」
「「「コーリヒトさん、お疲れ様でーす。」」」
たくさんの声のシャワーが俺に降りかかってきた。
今までの緊張も吹き飛んでしまうぐらい、みんなの笑顔が出迎えてくれた。
懐かしい面々、さっきまでの緊張がバカらしいくらいだ。
みんなの顔を見ているとなぜかホッとするし、変わらないみんなの様子に一気にあの頃に気持ちが戻る。
そんなほっこりとした気分になっていたのだが・・・
「さぁさぁ、皆さん、ここからの進行はこのフムスがさせていただきます。
まぁまぁ、拍手はいらないです。
コーリ、こっちへ来い。」
「は、はい・・・。」
なになに~、聞いてないよ。
この、フムス先輩の有無も言わさぬ圧が怖いんだけど・・・。
「今日の飲み会の一つに、コーリヒト君の結婚のお祝いがありまーす。
コーリ、婚姻の儀を行ったのはいつですか?」
っていうか飲み会の一つって、俺の結婚のお祝いがメインじゃないんだ・・・まぁいいけど。
それにしても。 えー、いきなりこんなことから始まるの?
あー、もう逃げられないじゃん!
「え、えーと、み、三日前です。」
「おー、新婚ほやほやだな~、コーリ―。」 みんなから声がかかる。
早く・・・どこでもいいから隠れたい!
「うーん、コーリだからな、質問は最低レベルからしていくか・・・。
まず、奥さんの名前を教えてくれ。」
「え、り、リルマーヤです。」
「それで、お前は奥さんのことを何て呼んでいるんだ?」
「え、ま、マーヤです。」
「奥さんはお前のことを何て呼ぶんだ?」
「え、り・・・」 「コーリ、顔が真っ赤だぞ!」 みんな、大笑いだ。
「聞こえないなぁ、もっと大きい声で!」
「リヒト様と・・・」 「ヒュー、いいぞー」
「おー、コーリ君としては頑張っているじゃないか。 先輩は嬉しいぞ。
そして! 二人は昨日デートをしているところを確認している。
もう、手はつないだのか?」
「え、あの、その・・・」 そんなこと、みんなの前で言うの?
「声が小さーい!」
「はい! つなぎましたっ!」
「マジかよぉ」「あのコーリが!」「コーリも男だな!」「見直したぞ!」
「では次! キスもしたのか!」
「え、キス? それはまだ・・・あっ・・・」
今日の間接キスも、キスになるのか? え、ど、どうしよう・・・でも正直に言うのも嫌だし・・・
「えー、コーリヒト君が真っ赤になって、もじもじ妄想モードに入りました。
多分、未遂事件が起こったと思われます。
あとは、各自で質問攻めにしてやってください。 では飲むぞー。」
「「「おー」」」
俺が顔を真っ赤にしてあれこれ考えている間にフムス先輩が話をまとめちゃって、飲み会が始まった。
フムス先輩、もう勘弁してくれ!
それからは入れ替わり立ち代わりみんなが言葉をかけてくれて・・・久しぶりだっていうのにみんなの優しさが身に沁みるぜ。
あれ以上俺の結婚について聞いてくる人はほとんどいなくて、みんなの近況報告で盛り上がった。
昨日飲み会をやろうっていう話をして、次の日の今日、よくこんなにたくさんの人が集まってくれたな、フムス先輩やウィーロ達には感謝だよ。
「やあ、コーリ、先日とは違って今日はいい顔つきだね。」
ひと段落落ち着いたところで声をかけてきてくれたのは、実家の近所に住んでいるハミルだった。
「ハミル! この前は来てくれてありがとう。
宴の時は、知らない人たちに笑顔で挨拶して、顔が引きつりそうだったよ。
もっと話をしたいと思っていたから今日また会えてよかった。」
「キャベツの収穫が忙しくて、先日は顔だけ見に行ったような感じだったから、僕もコーリと話せる機会を持てて嬉しい。」
ハミルの家は畑をいくつも持っている農家で、親父さんの後を継いでハミルも農業をしている。
「コーリが嫁さんをもらったのか・・・コーリが女性といるところなんて想像できなかったけど、この前見た二人はお似合いだったね。 きれいな女性だな。」
「ああ、きれいな人だよ。 っていうか、俺がまず全然実感できていない。」
「ははは、親父さんが紹介してくれた人だっけ? じゃあこれからってところだな。」
「ハミルのところはもう結婚して何年経つんだ?」
「僕とアニカは、五年かな。 子供も女の子と男の子、二人いるんだ。」
「へー、もう二人もいるのか! 同い年なのにハミルは大先輩だな。」
小さい頃、近所の子供たちと一緒に遊んでいた中に、ハミルとアニカもいた。
今思えば、何が楽しかったのかわからないぐらい、一緒に走り回って大笑いしていた。
ハミルは中等学校まで一緒だったけど、アニカとは初等学校まででそのあとは、俺は付き合いが途絶えてしまった。
「アニカも、おめでとうって伝えてと言っていたよ。」
「ハミルはアニカとずっと続いていたんだな。」
「うん、アニカの家族がうちの農場で働いてもらっていたから、休みの日とか僕も仕事を手伝うとアニカもいてね。
そのうち、この子と一緒になるのかな、って思ったかな。」
「ハミルたちは、二人ともお互いをよく知って一緒になったんだな。」
「そうか、コーリは相手のことはほとんど知らないんだな。」
「そうなんだよ、だから余計に実感がわかなくてさ。」
「でも、見た感じは優しそうな人みたいだった。」
「うん、話も合うとは思うんだけどね、突然性格が変わらなければ・・・。」
「あはは、それ、怖すぎるよ~。」
「ハミル、先輩として何かアドバイスが欲しいです!
これから二人で一緒に住んでいくなんて、不安しかない・・・」
「でも、コーリがそう思っているのと同じように彼女もそう思っているんじゃないかな。
二人でたくさん話し合って、試行錯誤しながら築き上げていけばいいと思う。
同じ年なのに先輩か~、そうだな・・・僕が言えることは・・・奥さんの言うことには逆らわない方がいいよ。」
「おお、ハミルの経験のこもった重い言葉だ! 心に刻んでおくよ。」
「コーリなら何でも聞いちゃいそうだけどな。
じゃあ、他のみんなにも挨拶して来るよ。 僕もみんなに会うのは久しぶりなんだ。」
「ああ、行って来いよ。 ハミル、ありがとうな。」
ハミル、久しぶりに話をしたけど幸せそうだったな。
スタートは一緒だったのに、別れてから十年も経つと、一方は二児の父親、もう一方はやっと嫁さんをもらったところ・・・人生、人それぞれ。 俺も頑張らなくちゃ!
読んでくださり、ありがとうございます。
番外編は不定期投稿です。
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