ロッテ 2
前回の後編です。
今回もロッテの視点になります。
そろそろお腹を空かせたあの二人ももう戻ってくる頃じゃあないかね。
そんなことを思いながら最後の仕上げをしていると、玄関から声がして、公衆浴場に行ったウェインとコーリヒト様が帰ってきた。
「ただいま~、ってすごい料理だな!」
「おかえり~、リヒト。 ウェインも連れ出してくれてありがとう。」
「なんだよ~、連れ出すって。」
「ほら、やっぱりサプライズにしてみたいじゃん! バレているとは思うけど。」
「またよくわからない言葉が出てきたけど、今日は俺の誕生日だし、まぁわかっていたけどさぁ・・・でも嬉しいよ。」
「ほらほら、そういう会話は二人だけの時にやってくださいよ。
コーリヒト様は洗面道具を片付ける、ウェインは運ぶのを手伝って。」
「ロッテには敵わないな。」
「うむ。」
料理を運んで、席について、お酒も注いだら、リルマーヤ様から一言。
「コーリヒト様、お誕生日おめでとうございます。」
「「おめでとうございます。」」
「ありがとう、みんな。 俺は幸せ者だよ! では乾杯!」
「「「乾杯!」」」 カチン
「マーヤ、今日はありがとう。 ウェインもロッテもありがとう。」
「ふふふ、さあ、召し上がれ!」
美味しい料理と美味しいお酒に、楽しい会話。
そのうちウェインが、また収穫祭の踊りと歌を歌いたいというから披露したけど、今回はコーリヒト様とリルマーヤ様も一緒に踊ったよ。
ウェインは無口だけど体を動かすのは好きだから、踊りは好きみたいなんだよね。
お酒が入って少し酔ってくると、踊りたくなるらしい。
そういうところは面白い人だよ、うちの旦那は。
大人四人で、手拍子して歌って踊って大騒ぎだよ。
いや~、楽しかったね。
そろそろ料理もお酒もなくなってきたころ、リルマーヤ様が、頑張って作ったチーズケーキを持ってきた。
ケーキの上には、ロウソクがどーん、と三本刺さっていた。
貴族っていうのはこういうことをするのかい? 面白いね。
「細いロウソクがなくて、ちょっと存在感あり過ぎなロウソクでごめんなさい。
ウェイン、ロウソクに火をつけてもらっていいかしら。」
「はい。」
コーリヒト様もわからないのか、不思議そうな顔でケーキを見ている。
私も知らないからねぇ、これからどうするのかね。
「ハッピーバースデー トゥユゥ・・・」
突然リルマーヤ様が手拍子をしながら歌いだした。
私たちも訳は分からないが、リルマーヤ様の“不思議”はいつものことだから、とりあえず歌に合わせて手拍子をした。
また異国の歌かしらね、歌詞の意味はわからないけれど、でもリルマーヤ様が楽しそうに歌っているからきっと誕生日の歌なんでしょう。
「・・・トゥユゥ! お誕生日おめでとう、リヒト!」
「あ、ありがとう。 ところでこれは何かな?」
「説明はあとでね。
リヒト、何かお願い事をして、それからロウソクの火を、息を吹きかけて消してください。」
「え、突然願い事って言われても・・・じゃあ、来年も楽しい誕生日でありますように。」
「ふふふ、ステキね。 ではロウソクの火を消して。」
「ああ、スー・・・フーーー。 一回じゃあ消えない・・・なかなか大変だな。
フー、フー。」
「わー!」 パチパチパチ
火が消えるとリルマーヤ様が拍手をしたので、ウェインと私は顔を見合わせてうなずき、同じように拍手をした。
リルマーヤ様以外の私たち三人は多分、今の状況があまりわかっていないけれど、リルマーヤ様がとても楽しそうなので、つられて笑ってしまう。
「おぉ、みんな、ありがとう。 よくわからないけど、でも照れるな~。」
「誕生日には、ケーキを用意して、本当はその上に年の数のロウソクを立てるの。
お祝いの歌を歌って、そのあと願いを込めながらロウソクの火を消すの。
全部消えたら願いが叶うのよ。」
「そんなお祝いのやり方があるんだな。 主役はちょっと照れちゃうよ。」
「私も初めて聞きましたよ。 でもお祝いの儀式みたいでいいですね。
ウェインもそう思うでしょ?」
「うむ。」
「ふふふ、そう言ってくれると嬉しいわ。
皆さん、チーズケーキは食べられる? 切ってくるね。」
「じゃあ、私も一緒に行きますよ。」
「ありがとう、ロッテ。」
チーズケーキは、確かに今まで食べた中で一番おいしかった。
美味しいケーキを食べてもらおうと練習して、一番おいしくできたところを食べてもらう。
リルマーヤ様の気持ちが微笑ましいね。
私もウェインに何かしてあげようかしら。
そう思ってウェインの方を見ると目が合ったので、ニコッと笑っておいた。
ウェインはほんの少し目を大きくしてそのまま俯いた。
ウェインの笑顔は、妻の私でさえほとんど見たことがない貴重なモノだけど、多分今が笑っている時だね。
彼もこのひと時を楽しんでいるようでよかった。
◇◆◇
「おはようございますってあら、コーリヒト様、そんな服をお持ちでしたかね?」
誕生日会から少し経ったある朝、出勤するコーリヒト様を見かけて挨拶をしたら、私が見たこともないシャツとベストを着ていた。
シャツは白色でシンプルだけど、着やすそうな柔らかい肌触りのようだ。
ベストは襟付きで、濃い目のグレーに白の細いストライプが入っている。
襟付きの柄のベストなんて、コーリヒト様が選ぶとは思えないけど。
「おはよう、ロッテ。 なかなか目ざといなぁ。
これは先日の誕生日の時に、マーヤがお誕生日の贈り物ってくれたんだ。
マーヤ、センスがいいからさぁ・・・俺に似合ってるかな?」
「ええ、お似合いですよ。 素敵な贈り物ですね。」
そうだろう、と言って笑うコーリヒト様は、本当に嬉しそうだった。
コーリヒト様のお嫁さんのお話を初めて聞いたときは、どんなことになるのやらと思ったけど、なんだい、こっちが焼けるくらい仲の良い二人になっちゃったじゃないか。
少しずつ信頼を深めて行く二人を見守るのは嬉しいし、これからも楽しみだよ。
「よい日になりそうですね。 行ってらっしゃいませ。 お気をつけて。」
新しい服を身に纏い、笑顔で手を振る町長を見送った。
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