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コーリヒト、厄日だったけど!

番外編です。

コーリヒト視点になります。


ある日の夜、俺とマーヤはソファでくつろいでいた。



マーヤは『寒くなり始めると作りたくなる』と言って、編み物をしていた。

二人おそろいの帽子を作るよ、って意気込んでいた。

色違いの帽子で、耳当てもつけてみるそうだ。


それは楽しみに待ちたいところだが、今の俺は疲れすぎて何も考えたくなかった。

年に一回か二回は襲われる厄日・・・今日は絶対その日だった!


今までの俺なら、そんな日は飲みに行って騒いで何もかも忘れて帰ってきてそのまま寝る、ということをしていたが、今日は何となくマーヤに甘えたい気分だった。



甘えてもいいのかな・・・。



今までこんな気持ちになったことも、女性に甘えるということもしたことがなかった俺は、どうしようか迷っていた。

一番イヤなのは、甘えてみたけど『リヒトってそんなに女々しい男だったの』と言われちゃうことだ。

『リヒトなんてキライよ』とか言われたら、俺は明日からどうしよう・・・。


でも、やっぱりこのモヤモヤ感を聞いて欲しいし・・・。

ええい、あれこれ考えてもしょうがない!

引かれたら、ひたすら謝ろう。


ちょうど、飲み終わった紅茶のカップを片付けに行って戻ってきたマーヤを引き寄せ、膝に座らせて抱きしめた。


「きゃっ」 ぽすっ


あ・・・顔にマーヤの胸が当たる・・・柔らかくていい香りがして、ずっとこうしていたい・・・。

めっちゃ癒される・・・。


「あらあら、リヒト、どうしたの?」

「・・・今日は疲れた・・・ちょっとこうしていたい・・・」

「ふふふ、いいわよ、ぎゅっとしてあげる。」


そう言うと、マーヤは俺の頭をぎゅっと抱きしめてくれた。

優しいマーヤ・・・癒され・・ん、ん、ちょっと苦しくなってきた・・・息が・・・できない・・・


「ま、ま・あ・や・・・ぐるじい・・・」

「あー、ごめんごめん、強くやり過ぎちゃった、ふふふ。」


この笑い方・・・マーヤ、わかっていてやってる? いや、考えないでおこう。

これからは気をつけないと・・・顔を抱きしめてもらう時は横を向かねば。

でも、俺をちゃんと受け止めてくれるマーヤは最高だ!


「マーヤ、愚痴ってもいい?」

「んー、いいよ、聞いてあげる。 そう言えば今朝、役場の人が来ていたね。」

「そうなんだよ、そこから今日の厄日が始まったんだ・・・」



今日は家で仕事をする日だったからフェルナンと二階で仕事をしていたら、役場の魔石課の職員が突然来たんだ。


「町長、家まで押しかけてすみませんが、重大事項です。」

「どうした! 何があった?」

「朝から魔石の数を数えているんですけど、数が帳簿と合わないんですっ。」

「それで?」

「町長に役場に来てもらいたくて呼びに来ました。」

「俺が行っても数が合うわけではないと思うが・・・。」

「そ、そんなことはありません!

えーと、えーと、あ、ないってことの確認だけでもお願いします。」


魔石課全員で十回ほど数えたがどうしても合わないそうだ。

とりあえず俺を呼びに来ただけのような感じだったが、藁をもすがりたいと思ったのだろう。

俺が役場に行くまでその職員は帰らなさそうだったから、フェルナンに断って、とりあえず役場に行ってみた。


役場に着いて魔石課に行ってみると、午前中なのに職員たちは三日ほど徹夜をしたかのような、やつれた顔をしていた。

そんな顔を見たらその部屋に入るのを一瞬やめようかと思ったが、俺に注目した職員たちの期待した目を見ると無下にはできなかった。


やはり、俺が数えても確かに数は合わなかった。

じゃあ、帳簿がおかしいんじゃないか、と聞くと、誰も帳簿の再計算をしていないらしい。

そして・・・結局帳簿の計算間違いで数は合っていた・・・。


みんなが泣いて喜ぶ中、俺は無駄な時間を費やした思いで帰った。

俺が行く必要があったのだろうか・・・。



帰りの途中、『町長~』と呼ぶ声が聞こえたので、止まって馬から降りると、男が息を切らしながら走ってきた。


「はー、はー、町長、いいところで、はー、会えたよ。」

「どうしたんだ?」

「そこの家で夫婦喧嘩が始まったから、仲裁をお願いしたいんだ。」

「俺、夫婦喧嘩の仲裁なんてやったことないぞ。 警ら隊を呼べばいいだろう?」

「警ら隊じゃあ事が大きくなり過ぎるよ。 町長、お願いだ、一緒に来てくれ!」


警ら隊はダメで町長ならいいって、俺の立場ってどう思われているんだろう・・・。

不安に思ったが、この男も一緒に行くまで動かなさそうだったからしょうがない、一緒にその家まで行った。



夫婦喧嘩ってスゴイんだな!

木の食器やら、枕やら、服やら部屋中にあちこち散らばっていて、激しく喧嘩をやり合ったことが伺えた。

ただ、絶対壊れないものしか投げなかったみたいで、そこは内心ちょっと笑ってしまった。


「おーい、町長を連れてきたぞ。」

「助かるよ~、町長なら夫婦円満だから、説得力もあるな!」

「そうだ、そうだ、これで落ち着くぞ。」


そんなに期待されても困るんだけど。

うちはまだ新婚だから喧嘩の経験がないだけだし、他の夫婦だって夫婦円満に見えるけど。

と思いながらも、とりあえず二人の話を聞いてみた。


「この人が、どっかの若い女と一緒に歩いていたっていうのを聞いたんだよ。

全く私は悔しいったらありゃしないよ!」

「だから、それは道を聞かれて案内しただけで、知らない女性だったと言ってるだろう!」


こんなことで喧嘩が始まっちゃうのか! 夫婦ってすごいなぁ。

「要は、奥さんは大好きな旦那に嫉妬して、旦那は奥さんが大好きってことだろう?」


「「えっ・・・それは・・・」」 突然もじもじするケンカ中だった夫婦・・・

「こりゃあ、町長に軍配だな! なんだ、夫婦喧嘩は犬も食わぬっていうけど、本当だ!」

「「「あははははは 一件落着だ!」」」

弥次馬たちはそう言うと、みんな帰って行った。


「あんた、ごめんよ~、これからはちゃんと信じるから、ねっ!」

「俺も悪かったよ~、誤解されるような行動は慎むよ。さ、一緒に片付けよっ。」


中年夫婦のイチャイチャを見せつけられて、喧嘩は何だったのかと俺は思いながら帰った。



「お昼のあの顔はそう言うことだったのね。 何が起こったのかと思っていたわ。」

「みんなはスッキリ解決したけど、それに駆り出された俺はなんか、こう、モヤモヤしかなくて。」

「あれ? お昼の時も誰かが来て、今度はフェルナンと一緒にお昼の途中で出かけたよね。」

「そうなんだよ、山道に、先日の嵐で落石があったらしく、一緒に見に行って欲しいと連絡してきた人に言われてね、昼ご飯もまともに食べないまま二人で見に行ってきたんだ。」



落石は幸い、道の半分だけで通れないこともないから注意して通ってもらって、早めに業者の手配をすることにした。

その先の道にも土砂が崩れているところがあるというから、ついでだから見に行こうとフェルナンが言ったので、そっちも確認に行ってきた。

確認作業を終えて、帰ってくる途中で今度は、目の前に鶏が出てきたと思ったら、鶏を運んでいる馬車の荷台の車輪が外れて、振動でかごの戸が開いて、辺りは鶏だらけだった・・・。

鶏の数が多いから商人たちは捕らえるのに時間がかかっていて、しょうがないからフェルナンと手伝ったんだ。



「それで、泥だらけで帰ってきたのね。 どこまで行っちゃったのかと思ったわ。」

「泥と鶏の臭いが不快で、それで公衆浴場に行ってきたんだ。」

「ふふふ、今日は散々な一日だったわね。」

「そうだろう、なんかさぁ、自分がやりたいと思ったことじゃなくて、他人のことでいろいろ動いて、一応人助けにはなってるから結果的にはいいのかもしれないけど、俺としては今日一日何だったのか納得がいかないんだよな。」



そうだね、と言ってくれたマーヤは、しばし俺を抱きしめた後、俺の顔を見た。

マーヤの目は、全てを受け止めてくれるような優しさと、どことなく妖艶な麗しさを秘めているような、不思議な感じだった。


マーヤは俺の顔を両手で包み込んだ。

俺ののどは、ごくりと鳴った。 マーヤから目が離れず、見つめ合った。



「ここは、おじいさまに似ているところ」


いきなり、マーヤはそう言うと、俺の額にキスをした。

え、え、えー、マーヤさん、何を・・・


「ここは、おばあさまに似ているところ」


次は、俺の左頬にキスをした。

俺は多分顔が真っ赤だ。 でも、マーヤから目が離せない・・・


「ここは、お父様に似ているところ」

その次は、右の頬へ。

マーヤの唇の感触が柔らかくて心地いい・・・


「ここは、お母様に似ているところ」

そして、鼻の頭にキスを落とした。

俺の頬を包んでいるマーヤの手が温かい・・・


それからマーヤの顔が耳元に近づいて・・・



「ここは・・・私のモノ」



耳元でささやくような声がしたかと思ったら、少し上を向かせられて、俺の唇にマーヤの唇が重なった。

ちゅーっと下唇を吸われて、すぽんっと離れた。

マーヤの目と俺の目が合った。


「今日はよく頑張りましたね!」

優しい微笑みでマーヤはそう言うと、俺の頭を撫でて、そのあとがばっと抱き着いた。


マーヤも恥ずかしい?


「マーヤさん、今のは・・・?」

「やっぱり聞いてくるよね~。

今のは、私が小さい時、やりたいことがうまくできなくて悔しかった時に、お母様がいつもしてくれたの。

みんなが自分のことを見守ってくれているって感じがして、すごく嬉しくって。

今日のリヒトが頑張ったことは、ちゃんとみんなわかってくれているよって思ったから、やってあげたくなっちゃって。」


「さ、最後のは・・・?」

「さ、最後のは・・・私の気持ちです・・・

もう! 恥ずかしいから聞かないでよ~。」


マーヤは俺の肩に顔をうずめたままそう答えた。

俺のマーヤ! 本当に! 可愛すぎて言葉にならん!


「マーヤ、すまん!」

「きゃっ」



俺はマーヤを抱えて、そのまま二階のベッドに直行した。


本編の嵐の後に載せようと思っていたお話です。

好きな内容なので、番外編で投稿できてうれしく思います。


読んでくださり、ありがとうございます。

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