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二人の記念日 3

前回の続きです。

場面は変わって、記念日の当日のお話です。


「マーヤ、支度はでき・・・おぉ、びっくりした!」

「支度、できてるわよ! 私だってやればできるんですから!

さぁ行きましょう。」



今日は、一緒にエヴァンの店に行く日。

俺は、マーヤに声をかけようと部屋のドアをノックしてから開けてみると、目の前に支度の整ったマーヤが立っていた。

いつものように『あと少し待って』と言われると思っていたので、ドアの前に立つマーヤに驚いてしまった。


「あれ、そのコート・・・あの時と同じコートか?」

「まぁ覚えていてくれたの? そう、初めて会った日の、一緒に庭を見たときに来ていたケープよ、ふふふ。

リヒトが覚えていてくれたなんて嬉しい!」


今日のマーヤは、暖かそうな紺色のワンピースに、俺が覚えていた白いケープ(と言うらしい)を羽織っている。

ケープの紐には薄桃色のポンポンが付いていて、アクセントになって可愛い。

初めて会った時の印象は、俺にとっては忘れがたいものだったからな、マーヤの服も覚えているよ。

一年前も、今も、変わらず可愛いマーヤだ。

マーヤも今日の日を待っていたのかな。



「戸締り、良し。」

玄関の鍵をかけて手を出せば、ぽふっとマーヤの手が乗せられた。

「では行こうか。」

エヴァンの店までは、ちょっと寒いけど歩いて行くことにした。

季節が移り変わっていく町の様子を見ながら歩くのもいいだろう。

ウェイン達の住む別棟の前で、ウェインが冬支度のための薪割りをしていた。


「ウェイン、家を留守にするから、()()()、よろしくな。」

「コーリヒト様、いってらっしゃいませ。 ()()、お任せください。」

「ではウェイン、行ってきますね。」

「寒いので、お気をつけて。」


シアーズ商会に頼んだ品物が、俺たちが出かけている間に家に届く手はずになっている。

受け取りをウェインに頼んだけど、今の言葉だとちゃんとわかっていてくれているようだな。

準備はバッチリだ!



エヴァンの店に向かって、俺たちは川沿いの道を歩く。

今ではすっかり葉が落ちてしまった並木の様子は、見ているだけでも寒そうだ。

変わりゆく風景に、時の流れを感じる。

冷たい風に負けないように、繋いだ手を握りしめた。


「エヴァンの店もちょっと久しぶりね。」

「そうだな、マーヤはもっと外食をしたいか?」

「外食もいいけど、家でのんびり食べる方が好きかな。

リヒトはもっと外食するのかと思った。」

「ああ、前は週の半分は外食していたからな。 自炊もいいけどやっぱり片付けまで考えると面倒になっちゃって。

今は俺も家でのんびり、マーヤと一緒に食べたいなぁ。

マーヤのご飯は美味しいし!」


おっと、突然手が引っ張られた。 マーヤが止まったのだ。


「どうした?」

「もう~、いきなりそういうこと言うし!」

「何がだよ。 俺、変なこと言ったか?」

「変なことじゃない。 私にとっては嬉しいことで・・・リヒトってサラっとそういうこと言うよね。」

「サラッと言ってるつもりはないが、でもウソは言ってないよ。」


マーヤは頬を赤らめて歩き出して、ボソッと『もー、突然来るよね』と言った後『ありがと』という声が聞こえた。

マーヤが赤くなるのを見ていると俺まで赤くなってしまう。

あれ? 俺、赤くなる様な事、言ったのかな。

何にそんなに反応してくれたのか俺にはよくわからなかったが、なぜか顔だけは火照りが引かなかった。



エヴァンの店に着くと、サラが笑顔で出迎えてくれた。

マーヤが予約をしておいてくれたので、個室ではないが、他の席と少し離れている奥のテーブルに案内してくれた。

この席なら周りを気にせず食事を楽しめそうだ。

マーヤが、簡単なコース料理を頼んだと言っていた。

シチュー以外の料理も食べられるのか! どんな料理が出てくるのか楽しみだが、ホント俺ってこの店ではシチューしか食べていないんだな。

そう思っていると、食前酒が運ばれてきた。


「では、二人の出会いに乾杯!」

「あっ! ふふふ、出会いの記念日に乾杯!」


カチンとグラスを合わせて、食前酒をいただく。 すごく軽い飲み口のワインだな、俺にとっては水のようだ。


「リヒト、今日のこの外食の意味を分かってくれていたんだ! 嬉しいな。」

「もちろんだ、と言いたいところだが、正直に言うと実はフェルナンに教えてもらった。

ごめん。 自分では気が付かなくて・・・。」

「そうだったの。 いいわよ、こうやって一緒に過ごしてくれるから。」

「でも、マーヤが二人の出会いの日を大切に思っていてくれるのは嬉しいなぁ。」

「ね、ね、リヒトは私の最初の印象はどうだった?」

「えー、そんなこと・・・言わなきゃダメ?」

「うん、聞きたいなっ!」


もう、そんな笑顔で待たれても・・・。


「・・・すごくきれいな人だな、と。 さすがお嬢様と思ったかな。」

「えー、それだけ? もっと何かないの?」

「それだけって言われても・・・ほら、俺、めちゃめちゃ緊張していてじっくり周りを見る余裕なんてなかったし。

あとは、そうだな・・・本当にこの女性と俺が結婚していいのかな、って思った。

次! マーヤは俺のこと、どう思ったんだ?」

「えー、リヒト? 真面目そうな人だな、と。」

「ほら、マーヤだって、俺の印象なんてそれだけじゃん!」

「ふふふ、だってリヒトが緊張しているの、すごくわかったし、借りてきた猫みたいだったから。」


「借りてきた猫ってどんな状態だよ~。」


前回よりお時間をいただきました。

ちょっと長くなってしまったので、順次あと3回投稿します。

楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。


読んでくださり、ありがとうございます。

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