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二人の記念日 1

今回のお話は、本編が終わったすぐ後くらいの時期設定です。

お楽しみください。


「ねぇリヒト、来月のお休みの日にエヴァンのお店に一緒に行きたいな。」

「エヴァンの店かぁ、そう言えば最近行ってないか・・・。

思い出すとあのシチューを食べたくなるな。 行くのはいいけど、来月? もっと早く行ってもいいけど。」

「来月がいいのよ、約束ね! じゃあ予約しておくわ。」



木枯らしが吹き始め、そろそろ冬物のコートが欲しくなる季節になって来た。

今日は北風が吹いていて窓の外は冷たそうだ。

こんな日に出勤せずに家で仕事ができるのはありがたい。

昼ご飯を食べて、そろそろ午後の仕事にとりかかろうと思っていた時にマーヤに呼び止められ、来月のお誘いを受けた。


エヴァンの店か、先々月くらいに行ったきりだ。

以前は二週間に一度は通っていたから、それから思えば俺としては久しぶりだな。

何を食べようかと思いながら店に行くが、シチューの香り漂う店内に入ると結局毎回同じものを頼んでしまう。

そんなことを思いながら二階の仕事場に行くと、フェルナンにいきなり突っ込まれた。


「おや、昼休みの間に何かいいことがあったようですね。」

「ぐっ、そんなことはないぞ。」

「ははーん、リルマーヤ様に何か良いことを言われたのですね!」

「もーぅ、どうしてフェルナンは俺の心が読めるんだ?」

「それは、心というより顔ですかね。」


いつも思うが、フェルナンには敵わない。

俺の顔はどうなっているのやら・・・。


「それで、何を言われたのですか?」

「それは・・・来月一緒にエヴァンの店に行こうと言われたんだよっ!」

「ほほー、一緒に外食ですか。 それは仲の良いことで。

それにしても来月ですか・・・ほーぅ、なるほど、そういうことですね。

それで、コーリヒト様は何を贈られるんですか?」


「え?」

「え?! まさか、気が付いてない?!」


「何のこと? 何があるんだよ! 贈り物って何?」

「まったくあなたって方は! 

変だとは思わなかったのですか? 誘われたのが来月ということを。」

「そりゃーなぜ来月?って、俺だって思ったけど・・・でも今月は何か用事があるのかなーって思って・・・そのぐらいは考えたけど・・・。」


フェルナンは口をあんぐりと開け、そのあと残念なモノを見るような目つきで俺を見て、額に手を添えた後、床がへこむかと思うほどの深いため息をついた。


「リルマーヤ様も苦労をしますね・・・。

ほら、変だと思ったのでしょう? そこで思考を止めない!

さぁ考えてみてください、なぜリルマーヤ様は来月に誘ったのでしょう?」

「えー、来月? なんだ?」


フェルナンによく考えるように言われて、さっきのマーヤの言葉を思い返した。

そう言えば・・・『来月がいいの』 とか言っていたな。

来月でなくてはいけないってことか?


「今年も冬が来ましたね。 去年と違って今年は寒くなりそうですね~。」


フェルナンが独り言を言っている。 いや、何か俺に考えさせようとしているんだ。

いつもそうだ。 フェルナンは直接答えを言うのではなく、俺に考えさせて俺に答えを出させようとする。

今年も?・・・そういえば、去年の今頃は親父殿に呼び出されたんだったな。

あれ? それからコンヴィスカント家と顔合わせをしたんだ・・・

それは・・・去年の12月! 来月のことだ。


「マーヤと初めて会ったのがちょうど一年前だ!」

「ほー、よくできました!」


フェルナンは手を叩いて褒めてくれた。

出来の悪い生徒がやっと正解してご褒美をもらった感じだよ。


「早いものだな~。 マーヤと会ってからもう一年が経つんだ。」

「そうですね~。 今となっては良い思い出ですね。」

「ああ、あの頃は結婚ということで手一杯だったのに、それがコンヴィスカント子爵のお嬢様を嫁に迎えることになり、もう俺自体がパンクしていたからな!」

「自分で言わないでくださいよ。

私も、結婚のお話はともかく、お相手が子爵様のお嬢様と聞き、予想外の展開に驚かされたものです。

どうやってコーリヒト様をお支えしていこうか悩みましたよ。」

「フェルナンも悩んでいたのか?」

「当り前です。 そんな貴族のお嬢様なんてどう接すればいいのか、私もわかりませんからね。

でも、リルマーヤ様があのような気さくな方で本当によかったです。

今が充実しているからこそ、一年前のことを懐かしく思い出せますよ。」


「それにしても、マーヤは一年前のこともちゃんと覚えてくれたんだな。」

「女性というものは、記念日を大切にしますからね。 それを “忘れていた” の一言で終わらせてはいけません!」

「そ、そうなんだ。 フェルナン、助かったよ。 ありがとう。」

「そしてコーリヒト様もちゃんと覚えていたということを示せば、リルマーヤ様もきっとお喜びになるでしょう。

さて、次の記念日は何になりますか?」

「え、次の記念日? えーと、えーと、結婚記念日かな?」

「そうです! やればできるじゃないですか!

今回は先にリルマーヤ様に言われてしまいましたけれど、次の結婚記念日はコーリヒト様からお誘いになれば、リルマーヤ様はとてもうれしいと思いますよ。」

「わかった、肝に銘じておく。 それで、贈り物って何をすればいいんだ?」

「コーリヒト様、それはちゃんとご自分でお考えください。

ささ、仕事に戻りますよ。 午前中からの続きを致しましょう。」


フェルナンは、話は終わったとばかりにそそくさと仕事を始めてしまったので俺も仕事を頑張ったが “贈り物” という言葉が頭の隅にずっとへばりついていた。

なんだよ、贈り物って! どうすればいいんだよ、贈り物って! 誰か教えてくれよ!


俺は自慢じゃないが、今まで女性に贈り物なんて、母上ぐらいしか覚えていない。

それも兄弟三人からの贈り物で、一番下の俺は物を選んでいないし、モルド兄上たちの選んだ贈り物を母上と一緒になってワクワクしながら見ていたような、取って付けたような贈り主だった。

そんな俺に、マーヤに贈り物をさせようなんて・・・これっぽっちもわからない。


どうしよう・・・トリス兄様に聞いてみるか?

・・・いや、ダメだ。 トリス兄様では、連絡を取ってお伺いして、日にちを決めるまでに二週間ぐらいはかかりそうだ。

それでは物を選ぶ時間が無くなってしまう。


あとは・・・レイナたちに聞くのは恥ずかしいし。 

ロッテは・・・ダメだ、聞いた次の日にはマーヤにばれてしまう!

ウェインは・・・管轄外だな。 こういうことは俺と同じで、一緒に悩んで終わってしまいそうだ。

誰かいないのか!


俺は、部屋中を歩き回って必死に考えた。


おぉ、そういえばネイトが近くにいるじゃん!

こういう時のために転勤してきてくれたんだよ!

ネイトに相談しようと決めた俺は、次の日連絡を取り、三日後に会う約束を取り付けた。



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