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リルマーヤの一日 3

前回の続きです。


そろそろ夕ご飯の準備に取り掛からなくちゃいけないけど、リヒトは出勤した日は大抵大衆浴場に寄って帰ってくるから、ちょっと遅めの帰宅だ。

ゆっくり支度をすればいいね。



豚肉があったからポークソテーにして、白ワインとバターのソースにしよう。

このソースは実家の料理長から教えてもらった、簡単で美味しいソースだ。

茹でたジャガイモが一個残っていたから、マッシュポテトにして添えよう。

スープはキャベツのスープ。 この時期のキャベツは葉が柔らかくて甘みが多いから好きなんだな~。

あ、さっき頂いた野菜に小玉ねぎがあったから、それも一緒に入れちゃおう。

あとはサラダとパンでいいかな。

サラダには、ロッテが庭に植えてくれたサニーレタスとルッコラを取ってきてトマトを添えて、メニューの出来上がり。


何とかなりそうだね。 料理はあまり得意ではないから、作る前にちゃんと何を作ろうか考えておかないとうまくできない。

この材料があったからこれも作っちゃおう、とかできないのよね。

慣れてくれば私にもパパっとできるようになるのかしら・・・。

ドタバタしながら夕ご飯を作っていると・・・


「ただいま~、おぉ、今日もいい匂いだな。」


と言いながらリヒトが帰ってきた。

あれ~、ちょっと予想より早いお帰りじゃん! まだできてないよ。


「おかえりなさい。 いつもよりちょっと早いね。

夕ご飯はもうちょっと待ってて、ごめん!」

「いや、いいんだ。 マーヤが待ってるかと思ったら帰りが早くなっただけだ。」

「え?!」

「え?」

「いえ、すぐに出来上がるから待ってて。」


ほら~、そういうところだよ! もう、こっちが赤面するじゃん!


リヒトは部屋着に着替えたあと、料理をテーブルに運ぶのを手伝ってくれた。

こんなところも、本当に優しい。 

“男は台所に入らず座って待つべし”、とかリヒトにはないんだよね。


「今日は白ワインにするから、マーヤもちょっと飲もうよ。」

豚肉の白ワインソースの香りに誘われたのか、リヒトは白ワインをチョイスした。

「じゃあ、私もいただきます!」

二人でグラスをカチンと当てて乾杯する。

ふふふ、いい雰囲気だね。 ロウソクの灯りが優しくテーブルを包む。


お酒が入ると、リヒトはちょっと饒舌になる。

役場でのことをいろいろ話してくれる。


「そーいえば、レイナが今度一緒にお茶に行こうと言っていたぞ。」

「え、リヒトも誘われたの?」

「いやいや、俺は行かないよ。 なぜそうなる!

ほら、この前お店でレイナたちに会ったときに、マーヤを誘うと言っていただろう。」

「もうお誘いの話をしてくれたんだ! 嬉しい!

あ、でもレイナさんたちがお休みの日はリヒトもお休みだよね。」

「まぁそういうことになるな。」

「その~、リヒトがお休みでも、私、出かけてもいいかな。」

「あーそういうことか、気にするな。

レイナたちにマーヤと仲良くしてほしいと頼んだのは俺だし、休みの日にマーヤが、マーヤがいなく、いなくても、俺は、俺・・・ぐすっ。」

「ふふふ、もうウソ泣きなんて演技、しなくていいから!」

「ばれたか! 俺には構わず行ってきなよ。」

「バレるとかバレないとかのレベルの演技じゃないし!

ありがとう、じゃあ日時は合わせるから決めてくださいと伝えて。」

「ああ、了解。

マーヤも毎日ロッテばかりと話をしていても、つまらないだろう。

それに、この前の様子ではレイナたちと話すマーヤは楽しそうだったからな。」

「うん、やっぱり同じ世代の女の子と話をするのは楽しいね。

でも、ロッテと話をするのも楽しいよ。」

「いや、ロッテばかりと話をしていたら、そのうちロッテに似てきても困る。」

「えーいいじゃない、私もロッテのようにたくましくならなくちゃ!」

「ダメだダメだ! 二人もロッテはいらん!」


リヒト、マジで面白い! 酔いもあってか、本気で私がロッテにならないようにブツブツ言いながら心配している。

こんな何気ない会話も、めっちゃ楽しいよ、リヒト!

今日あったことをお互い言い合いながら、のんびり夕ご飯を食べるのはとても楽しい。

リヒトは私の料理でも『美味しい』と言ってくれるし。


テレビもないし、電子レンジもないし、スマホもないし、不自由に思うこともあるけれど、でもこのスローな生活を私は結構気に入っているんだ。

時間がゆっくりと流れる日々、その中での人々とのふれあい。

以前は気が付かなかったことが、今ではとても大切に思えるよ。



夕ご飯を食べた後、お風呂に入ってちょっと二人でくつろいで。

リヒトは(ほとんど使っていない)壁にかけてある剣の手入れをして、私は洗濯物で見つけた服のほつれを直していた。


「ふぁ~あ、し、失礼。」

「はは、マーヤは眠そうだな。 そろそろ寝ようか。」

「そうね、そうしましょう。」


リヒトの前で欠伸をしちゃった。 今日は午後のまったり時間がなくて一日フル回転だったから、ちょっと眠いかも・・・。



リヒトが手を差し出してくれるので、その手を取る。

リヒトの手は温かくて大きい、大好きな手だ。

階段を上がって、部屋の前まで送ってくれる。


先日の指輪交換の時から、リヒトは私の額にキスをしてくれるようになった。

リヒトの柔らかい唇の感触が額に伝わる。

いつも思うけどちょっと恥ずかしい。 薄暗くて良かった。

リヒトじゃないけど、私の頬も赤くなっていると思う。


「おやすみ、すぐに寝ろよ。 眠たそうな顔をしているぞ。」

「うん、でも顔のお手入れをしなくちゃ。 おやすみなさい。」



部屋の窓を少し開けて空を見上げる。

まだ夜風は冷たい。 空気が澄んでいるし、月は本当に細い針のようなクレセントムーンで光が淡くて、星が良く見える。

ここの世界、特にこの町は夜は真っ暗になるから、余計に星がきれいに見える。

一日の終わりに、吸い込まれそうな星空を見るのがとても好き。



リルマーヤ様、あなたから受け継いだこの命、私はちゃんとできていますか?

私は市井に来てしまったから、リルマーヤ様が見ていた未来とは違ってきてしまったかもしれないけれど、私なりに楽しくやっています。

リヒトは本当に優しい人です。 気持ちを大事に思ってくれるところが嬉しいな。

周りも素敵な人たちばかりで、こんな私を受け入れてくれます。

リヒトの笑顔を、そしてみんなの笑顔を見れるように、私もみんなの気持ちに応えていきたい。


リルマーヤ様、どうぞ見守りください。 そしてまた明日ね!


番外編は不定期投稿です。

投稿までにお時間を頂いています。

次回投稿までにかなり間が空いてしまいますが、ご理解くださるようお願いします。


読んでくださり、ありがとうございます。

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