マーヤを尾行した! 3
町なかでマーヤを見かけたが、マーヤは俺の知らない人たち二人と一緒に歩いて行ってしまった。
俺はマーヤを尾行することにしたが、なぜか今はコーヒーを出してくれるお店で、俺も一緒に同席して話を聞いていた。
「あら、私にパンが作れるのかって顔をしているわね。
こう見えて、私、パンが大好きなのよ。 だから自分で作ってみたくて。 どうかしら?」
こう見えてって言われても・・・初対面だから何とも言えない。
どうかしら?って言われても・・・俺にはわからん。
マーヤに助け舟を出してもらいたくて、マーヤをじっと見る。
「マーキーってパン作りがうまいのよね。
ちゃんと材料を計る繊細さもあるし、腕力もあるからパンをこねるのが力強くて!」
「そうそう、私なんて大雑把だから材料を計るのは好きじゃないのよ。
その点、マーキーはすごいわぁ。」
女性二人はマーキーをべた褒めだな。
バデリーさんは大雑把な性格なんだ。
マーヤたちは何回か会に通っているうちにお互い親しくなり、マーキーが庭を造る仕事をしていると知り、冬の庭造りについて教えてもらおうと、今日三人でマーキーが良いと思った庭を見て回ったようだ。
「だから家を転々として、庭を眺めていたんだな。」
「そうよ、どこのお宅もすごくきれいなお庭だったし、マーキーの説明もわかりやすくて、私にも庭造り、ちょっとやれそうかな~なんて、やる気になってきちゃった!」
「そうそう、マーキーの話を聞いていると自分にもできそうな気がしちゃうのよね。
あなた、人に教える才能もあるんじゃないの?
パン作りの会が終わったら、今度は庭造りの会を開いてみたら?」
「私の説明、よかった? それは嬉しいわね!
そんなこと言われちゃったら本気にしちゃうじゃない。 春になったら会を開いてみようかしら。
あなたたち、来てくれる?」
「「もちろんよ!」」
「リヒトも一緒に習おうよ。
あら? そう言えば、リヒトはどうしてここに?」
「え! それはその~」
「コーリヒト様は、私とリルマーヤちゃんの仲を疑って、ずっと後をつけてきたのよ!」
「えっ? そうなの? リヒト!」
マーキーよ、なぜそんなことハッキリ言っちゃうかな・・・
「だって、マーヤを見かけて手を振ろうとしたら、いきなりこのおとこ・・・マーキーさんと手を取り合っているからさぁ。
そんなマーヤを見たら、これからどうするんだろうって思うだろう?」
「まぁそうね。 私も逆の立場だったらやっぱり後をつけちゃうかも。
リヒト、心配してくれてありがとう、ふふふ。
マーキーは最初からリヒトのこと、わかっていたのね。」
「それはそうよ~、ステキな男性はちゃんとチェックしておかなくちゃね。
いつ、どんな出会いがあるかわからなじゃない!
今だって、ちゃんとチェックしていたからこうやって知り合えているんだし。
ねー、コーリヒト様!」
「だから、リヒトは私のモノだから、目をつけないでよ~。」
「安心してよ、私、人のモノには手を出さないから。」
俺に対するマーキーの視線を逸らそうと、テーブルから身を乗り出して手を出すマーヤはかわいいなぁ・・・。
マーヤに言われるのはすごく嬉しいけど、このマーキーって男に言われるのはすごく・・・居心地が悪い・・・。
「ところでバデリーさんは、あのバデリー商会と何か関係があるんですか?」
「カミーリアでいいわよ。 バデリー商会は、私の旦那様とお義父様がやってる商会よ。
ヴォルグ様に名前を知ってもらえているなんて光栄だわ。」
「いえ、ちょうど今、商談に行って見積もりをもらってきたところなので。」
「あら、ありがとうございますぅ。
じゃあ、帰ったら旦那様に『今日、町長の奥さんと一緒にお茶をしたの』と伝えておくわ。」
「? それはどうも?」
「おほほ、町長ご夫妻の仲の良さは町中の人が知っているし、その奥様と仲良くさせてもらっていると言えば、私が何を望んでいるのか、うちの旦那様ならちゃんとわかってくれるから大丈夫よ。」
「カミーリアの旦那様もカッコいいんだけど、ホント、抜け目がないからなかなか大変なのよ。」
「あら、マーキーったら、うちの旦那様にも手を出そうとしているの?」
「だから、私は人のモノには手を出さないわよ。
バデリーの旦那とは、会話が腹の探り合いみたいになっちゃうからすごく楽しいのよね。」
楽しいって・・・どんな会話だ? その場にいたくないな・・・。
でも、確かにあの副店長は、下手なことを言うとやり込められちゃいそうな感じだ。
俺もバデリー商会には気をつけよう。
「カミーリアばっかり売り込んでずるいわ!
私も言わせてもらえば、実家はマホニー土木よ。 町長なら知ってるでしょ?」
「え、マホニーって言えば、川の土手の補修工事にお世話になってるよ。
この前の嵐の時にも、土のうを手配してもらったり補修も手伝ってもらって助かったよ。」
「私の実家もすごいでしょ?
といっても、私は親父さんに『出ていけ』と言われちゃったから、実家の仕事には口出しできない立場なんだけど。
だから独立して造園の仕事を始めたの。
実家は姉夫婦が継いでいるから、今度姉に会ったら私もコーリヒト様のこと、言っておくわね。
イイ男だって!」
「はぁ、ありがとうございます・・・イイ男っていうのは置いといて、皆さんと仕事の繋がりができるのもとても嬉しいですね。」
それにしても、マーヤの交友関係ってなんか凄すぎるぜ。
マーヤの周りにはこういう人たちが集まってくるのかな。
これが貴族パワー?
「じゃあ、今日はそろそろ解散にしましょうか。」 マーキーが告げる。
「マーキー、今日はありがとうございました。」
「ありがとうございました。 とても有意義なお話だったわ。」
「そうでしょう! ぜひ庭造り、頑張ってみて欲しいわ。」
「ふふふ、でも実際は大変そうね。 ではまたパンの会で会いましょう。」
「ええ、そうね。 私もとりあえず計画から頑張ってみるわ。
パンの会で。 ごきげんよう。」
「じゃあ、またね。 皆さん、ごきげんよう。」
「これからもマーヤのことよろしくお願いします。」
「「わかってるわよ!」」
みんな一緒にお店を出て、それぞれの方向へ帰って行った。
俺もマーヤと一緒に歩き始めた。
「二人とも、すごく濃い性格だけど、ステキな人たちでしょう?」
「そうだな。 圧倒されちゃう感じだけど、性格は二人ともサッパリした感じでいい人たちだな。」
「そうでしょう! リヒトにも紹介できてよかったわ。」
「ああ。 でもマーヤがこのフィアンティの町で友達をどんどん作っていることの方が俺は嬉しいな。
それにマーヤは庭が好きだから、いろいろ話が聞けたようでよかったな。」
「うん、いろいろ参考になったわ。 実家の庭師のヨハンのことも思い出しちゃった。
この町の人たちっていい人ばかりだから、私も友達が増えてきてすごく嬉しいわ。
ってあれ? リヒト、今日は出勤してなかった?」
「あ! 俺、お使いの途中だったんだ!」
「あ~あ、勤務中にサボリなんて、リヒトもやるわね。
これじゃあフェルナンのお説教、確定ね。 頑張ってね!ふふふ。」
俺はマーヤと別れて急いで役場へ戻った。
そこには鬼のような顔をしたフェルナンがいて、マーヤが予言したように散々叱られた。
まぁ、今日のことは俺が悪いから謹んで怒られましたよ。
後日、バデリー商会と倉庫の契約が成立したが、なぜか見積りより実際の金額の方が下がっていた。
フェルナンがすごく不思議そうな顔をして首を傾げていた。
サボった理由だからフェルナンには言えないけれど、俺もだんだん交友関係が広くなって仕事にも貢献できるようになってきたんだぜ!
これもマーヤのおかげなのかな。
俺はどんどんマーヤに頭が上がらなくなりそう・・・。
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