マーヤを尾行した! 1
前回の投稿より日が経ってしまいました。
のんびりですみません。
長くなってしまったので、3回に分けました。
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「ふー、これでよしっと。 じゃあ戻るか。」
俺は今日、役場に出勤して午前中は会議だったが、午後はフェルナンから頼まれたお使いで町に一人で出てきていた。
フェルナンによると、一人でお使いに行くっていうのは俺の顔を売り込むことと社会勉強も兼ねているということらしいが、俺をお使いに出すなんて全く人使いが荒いぜ。
今日は天気がいいから、歩きで役場から目的の場所に行ってきた。
そろそろ冬支度が始まる季節だが、今日はほとんど風もなく散歩日和だ。
そう思いながら役場までの道を歩いていると、な、なんと! 道の反対側を歩いてくるのはマーヤじゃないか!
スゴイ奇遇! やっぱり俺たちって通じ合ってるのかも!
「おーい、マー・・・」
俺はマーヤに声をかけようとしたが、驚愕の現場を見てしまった!!
マーヤは俺に気が付かず、それより、そこに立っていた男に声をかけたのだ!
手を取り合って喜んでいる姿を見ると、どうやら二人は知り合いらしい・・・。
俺はとっさにそこにあった柱の陰に隠れた。
な・・・なんてことだ・・・うそだ!マーヤ、俺は信じていたのに・・・
柱に項垂れる。
通りすがりの女性が俺のことを変な目で見ていたような気がしたが、そんなことにかまってはいられない。
昨夜だって、俺とマーヤは愛を誓い合ったのに・・・。
マーヤがそんな、二人の男の気持ちを手玉に取るような女性とは思えない!
柱を拳で叩く・・・地味に痛い・・・
何かの間違いだ!
そう思って覚悟を決めて、そーっと柱の陰から片目だけ出してもう一度マーヤの様子を伺う。
あれっ! 考え事をしていた間になんと、女性がもう一人増えている!
ふぅー、とりあえず二人だけでの密会というわけではなさそうだ。
あー、よかった。 まぁ、こんな町なかで会ってるのに “密会”っていうのも変だけど。
それにしても、この三人、これから何をするんだろう?
と、思っていると・・・あ、歩き出した・・・。
今は勤務中だけど、こんな状態で役場に戻ってもとても仕事なんてしていられないだろうから、俺は三人を尾行することにした。
俺に尾行ができるのかって?
おいおい、俺は騎士学校の卒業生だぜ!
やっぱりこんな時に役に立つのか! 騎士学校の時に尾行の授業もあって、コツを教えてくれたのだ。
授業も実践形式で教えてくれて、探偵ごっこをしているみたいで、結構楽しかったなぁ。
騎士学校、なかなか役に立つじゃあないか、剣以外のことでも!
なんて、思い出に浸っている場合ではない! 尾行だ。
本当は二人組で尾行するのがいいんだよな。
二人で会話している感じを出せば間が持つし、どちらか片方が目的人物を見ていればいいから負担も少なくなる。
一人で尾行する場合は、目的人物から目を離さずに、だけど周りに溶け込んで気配を消す。
とまあ、かなり上級編になってしまう。
俺にできるかなぁ・・・いや、やるのだ!マーヤがあの男の餌食にならないように!
それにしても・・・なんだよ、あの男! マーヤともう一人の女性を両側に歩かせて“両手に花”状態。
男を観察する・・・明るい茶色の短い髪、頭のてっぺんはふわふわしているようだけど、それ以外はかなり反りこんでいる。
眉毛はきりりとしているのに、目はたれ目で優しそうな雰囲気だ。
体は、服の上からでもかなり鍛えているのがわかるぐらい筋肉質な感じ。
強そうだけど、なんか醸し出す雰囲気が違うんだよなぁ。
その違和感が良くわからない。
もう一人の女性は、マーヤより少し年上な感じだな。
着ている服からも、裕福そうな家みたいだとわかる。
物事をハッキリ言いそうなタイプだな。
三人は、とても楽しそうに話をしながら歩いていた。
何の話をしているのか、全く聞こえないのでわからないが、周りの人がこの三人を見ればとても仲がよさそうに見える。
というか、この三人、周りからちょっと浮いている感じだ。
マッチョな男と、上品な紫色のワンピースを着こなす女性、そして深緑色のワンピースに白いカーディガンを羽織っている笑顔のかわいいマーヤ。
俺が尾行しなくても、すぐに居場所がわかるぐらいの存在感がこの三人にはあるのだ。
その三人は、このフィアンティの町でも大きな家が立ち並ぶ住宅街に歩いて行った。
こんなところに何の用があるのかな?
ここに友人でもいて、その人の家にこの三人が招待されたとか?
でも、男性一人と女性二人を呼ぶってちょっと変だ。
そう思っていると、ある家の前で三人が止まった。
何かを見て、話をしている。
男が何かを指して説明しているように見える。
家を見ているのか?・・・うーん、わからない。
でもここで見るものと言ったらやっぱり家しかない。
少し離れたところから彼女たちの様子を探っていると、そのうち三人は歩き出した。
尾行と言っても、目的の人物たちにやましいことがなければコソコソしないで普通に歩いているだけなので、距離を保ってついて行くのはそんなに難しくはない。 逃げられることがないからな。
とにかく俺は見つからないようにするだけだ。
三人は、歩いて立ち止まって家を見て、また歩いて立ち止まって家を見る、ということを四、五件ほど繰り返した。
見ていて気が付いたが、どの家も庭がきれいだった。
植えた木の陰にベンチを置いているところ、これから気候は寒くなっていくけど緑の葉できれいに花壇を飾っているところ。
庶民の家でも最近はきれいな庭を造り、それを楽しむ人たちが増えてきた。
貴族の家のようにとはいかないけれど、自分で手入れができるような大きさの庭を楽しんでいるようだ。
初めは家を見ているのかと思ったが、庭を見ているのかもしれない。
そのうち住宅街を出てまた町の中心街に戻ってきたが、今度は裏通りに出てきた。
俺が町長になったころから、裏通りにもお店が少しずつ立ち並んできた。
こういうところにあるお店は表通りと違って、結構専門的な店が多い。
その中で、革製品を扱っているお店に三人は入っていった。
俺も入ってみたいが、狭そうなお店なので止めておく。
中の様子を見たいけれど、じろじろ見るのも変だし、店の前はきれいに装飾されていてあまり店内を覗くこともできなかった。
少し戻ったところに酒場があった。
営業時間は夕方からなので今は閉まっていた。
じっと待っているとやっぱり少し寒くなってきたので、その酒場の柱に身を寄せ風よけにして、三人が出てくるのをじっと待った。
裏通りだから人もあまり通らなくて、ちょっと助かった。
営業前の酒場の前に立っているなんて、ヤバいヤツにしか見えないだろう。
・・・俺、何をやっているんだろう。
いや、マーヤを悪の手から助けるために行動しているのだ!
そうでも考えていないと、俺の方が陰でコソコソしていて、自分でも何をしているのかわからなくなってしまいそうだ。
そんなことを考えながらひたすら待っているとやっと三人がお店から出てきた。
俺の心とは反対に、三人はそれは楽しそうに笑顔で話しながら、また歩き出した。
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