別れよう
翌朝、スキー場へ行き、これから滑ろうという所へ、
「涼介!良かった、会えた。」
と言って、梨花が目の前に現れた。
「ああ。もう帰るの?」
俺が言うと、
「そう。だから、最後に涼介に会いたいと思って。」
梨花はニッコリ笑ったが、正直何も感じない。俺、どっかおかしいのかな。
「もう、涼介は冷たい。私、涼介の彼女だよね?」
また出た。
「いつ東京に帰ってくるの?それも聞いてないんだけど。」
いちいちうるさい。
「だいたい一週間後だよ。」
「ねえ、毎晩とは言わないからさ、たまには電話してよ。ね?」
「う・・・ん。」
どうしよう。出来る気がしねえ。でも、今それを言っても始まらない気がする。言い合いになるだけだ。
「あれ?梨花ちゃんじゃん!どうしたのー?」
「え?雪哉くんじゃん!何なにー、雪哉くんスキー部なのー?」
梨花と雪哉が感動の再会?を果たし、手を取り合ってぶんぶん振っている。
「あれ?二人は知り合い?あ、そっか。二人とも文学部なのか。でも、学科は違うよな?」
俺は思わずそう言った。確か、梨花は英文科だったような。あれ、違ったかな?
「学科は違うけど、けっこう共通の授業があったんだよね。雪哉くん、イケメンで優しいから、みんなに人気なの。」
そっか、文学部は女子が多い。こんなにイケメンな雪哉がいたら、そりゃあモテるだろうなあ。
「ふーん。」
俺がつまらなそうな返事をしたら、雪哉がパッと俺の顔を見た。そして、ハッとした様子。
「あ!もしかして、梨花ちゃんが言ってた、カッコイイ彼氏が出来たっていう、あの彼氏って・・・。」
雪哉はそう言って、俺を見てから梨花を見た。
「うふふ、そうなのー。私たち、お似合いでしょ?」
梨花はそう言って、腕を組んできた。だが、俺はそれが嫌だった。別に、今までは構わなかったのに。でも、もう要らない。梨花は要らない。雪哉の前でこういう事をしたくない。
俺は梨花の腕を自分の腕から剥がした。乱暴にならないように、少し気を付けながら。
「何?」
梨花がきょとんとする。
「ごめん、もう・・・別れよう。」
「はぁ?」
梨花ではなく、近くにいて、見て見ぬ振りをしていたスキー部員の男たちが、揃って声を上げた。
「お前、こんな可愛い子を、なぜ今ふる必要がある?」
「ずるいぞ三木、じゃない、ひどいぞ三木!」
先輩達が口々に言う。そうだよな、俺はいつも「来る者拒まず」だったし、「去る者追わず」だった。自分から拒んだり、逃げたりするのは俺じゃないみたいだ。
「やっぱり他に好きな人が出来たんでしょ。それも、スキー部にいるんだよね?そうでしょ。じゃなかったら、説明がつかないわよ。急にサークル抜けてこっちに来てさ、私が部屋を用意したのに来ないし。絶対そうだよね?誰?どの子?」
梨花はそう言うと、周りを見渡した。スキー部に女子は少ない。多分2~3人しかいない。俺はしゃべった事もない。
「梨花ちゃん、多分違うと思うよ。涼介は女の子とは接触してないし。毎日スキーばっかりしてるから。」
雪哉がフォローしてくれた。本当に、俺はスキーがやりたくてここにいるのだろうか。それだけの為に?上手くなりたい為だけに?
俺は雪哉の顔を見た。俺は、雪哉みたいになりたい。いや、雪哉と一緒にスキーがしたい、のかな。一緒にスキーが出来て、すごく楽しい。雪哉が滑るのをずっと見ていたい。だから、ここにいる。それを女に邪魔されたくない。
結局、俺が黙ってしまったので、梨花は帰った。これで梨花と別れられるのかどうか。後で面倒な事が待っていないか。多少不安が残る。