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僕っ子は地雷だとまだ彼は知らない

僕っ子は地雷だとまだ彼は知らない

作者: A

 俺、佐藤さとう 太一たいちには、致命的な欠陥がある。

 恐らく、恋愛方面に関しては。


 毎回どうしてか、ちょっと話すようになって、これからアプローチかけていこうかなと思った時には、相手に死ぬほど拒否されるようになるのだ。


『ひぃ、もう近づかないで』

『ごめんなさい。ごめんなさい』

『ほんと、止めて!これ以上されたら死んじゃう』


 ドМご褒美用音源でも集めてみようか。

 そう思う程度には、様々なレパートリーの言葉のナイフを投げつけられてきた。 


 



「ほんと、なんでだと思う?」

「うーん。僕には、わからないかなぁ」



 そして、今日も今日とて、今年同じクラスになったばかりの加藤かとうあかねから似たような言葉をぶつけられてしまった俺は、もはや何度目になるのだろうという問いかけを幼馴染に投げかけていた。



「だよなぁ」

「うん。僕には、太一が世界で一番魅力的に見えるよ?」

「楓っ!好きだーーーーっ!」

「……あははっ。どういたしまして」



 照れたように笑っているのは、小学生の時からの付き合いである桐ケきりがやかえで

 ある意味重要文化財なんじゃないかと思う、珍しい僕っ子娘だった。



「しかし、ほんと謎なんだよ。初対面の時は別に普通なんだぜ?」  



 毎回、慰めてくれるこいつがいなければ、恐らく俺は引きこもっていてもおかしくはなかっただろう。

 加えて、仲良くなれる女性が皆無である俺にとっては、唯一無二の異性の友達であり、最大の相談相手でもあった。

 どんどん依存していってしまうその優しさにそろそろ独り立ちしたいとは常々思ってはいるのだが。



「そうなんだ。でも、原因はわからないんでしょ?」

「ああ。聞いても、誰も教えてくれないし……というか、話すのさえ拒否されるんだ」

「可哀想な太一。また、同じことがあったら僕を頼ってくれていいからね。なんなら、膝枕でもしてあげようか?」 

「ありがとう。けど、それはいいわ。流石に恥ずかしいし」

「ふふっ。残念」


 

 相変わらず、本当にいいやつだと思う。

 それこそ、何故こいつに彼氏がいないのか全く理解できないほどだ。

 まぁ、本人に作る気がないと言えば、そうなのかもしれないけど。

 


「もし、楓に好きなやつがいたら、俺のことは気にせず抜け駆けしてくれればいいからな?」

「ははっ。前にも言ったよね?僕は待つって」

「いや、だけどなぁ」

「それにね。案外、時間がかかるものなんだ」

「そうか?お前なら、すぐできそうだけど」


 

 艶のある短い黒髪に、真っ白な肌。

 そして、切れ長の目の下には、泣き黒子がそっと添えられている。

 

 狐顔の美人とでも言えばいいのだろうか。

 どこか近づき難い雰囲気を持ちながらも、これまでかなりの数の男に言い寄られてきたのは来たのは本人から聞かされていた。



「…………さすがに、そんなにじっと見つめられると恥ずかしいな」

「おっと、悪い。ついな」

「別にいいさ。一言伝えてくれれば、隅から隅まで見せてあげるよ」

「……お前、揶揄ってるだろ」

「ふふっ。どうだろう」


 

 本当に含み笑いが様になるやつだ。

 きっと、俺が同じ顔をしても、引き攣っているようにしか見えないだろう。

 


「はぁ。しかし、今回は脈ありだと思ったんだけどなー」

「そうなんだ」

「ああ。趣味も似てるし、家も近い。今度、CD借りに行く話もしてたくらいなんだぜ?」

「……確かに、家は近かったみたいだね」

「ん?もしかして、知り合いだったのか?」

「……一応ね。挨拶程度の仲だけど」

「そっか。でも、知ってたなら前話したときに教えてくれればよかったのに」

「ふふっ。その時は、まだ知らなかったんだ」

「なんだ。それじゃ、仕方ないか」

  

 

 何度目かの失敗の時、先に相談してくれればアドバイスするというあり難い言葉を貰った俺は、必ず楓に相談するようにしていた。

 しかし、本人自体もあまり恋愛経験がないからか、当たり障りのない言葉ばかりで、それほど有益なアドバイスを貰えたことはあまりない。

 もしかしたら、あれはただ友達の恋バナを聞きたいという程度の意味だったのかもしれない。



「あっ、そういえば」

「なんだ?」

「十九日の土曜日は予定が空いたってことだよね?」

「あー、そうだな。その日は元々、加藤さんと遊ぼうって言ってた日だったし」

「なら、どこか遊びに行こうよ。ちょうど僕もその日は空いているんだ」

「ん?別にいいけどさ。なんか、最近やたらと遊び行ってないか?」

「……嫌かい?」

「そういうわけじゃないけど。俺とばっかり遊んでていいのかなと思ってさ」

「ああ、そういうこと。それだったら大丈夫。僕は、君と一緒にいるのが一番好きだからね」

「はぁ、この褒め上手め。なら、どっか行くか」

「やったね!」


  

 嬉しそうな満面の笑顔。

 それは、いつも大人っぽい楓のものとは違って子供っぽく見える。

 

 しかし、相変わらず、口の上手いやつだ。 

 昔から、コロコロと手の中で転がされているような気しかしない。



「じゃあ、また明日」

「うん。また明日」



 そして、そのまま遊びの予定のことを話し合い、やがて、楓の家の前で別れると、俺も自宅へと足を進めた。

 


「あれ?そういえば、加藤さんとの予定が変更になったこと言ったっけ?」


 

 元々、二十日の日曜に予定されていたものが、加藤さんの都合で変更になったのは一昨日のことだ。

 確か、俺も日曜に遊びに行くという話はしたものの、変更になったことまでは伝えていなかった気がする。



「んー。記憶違いかな?」

 


 しかし、現に楓は知っていたのだ。 

 きっと、俺がどこかでそんな話をしていたのだろう。

 もしくは、挨拶程度とはいっていたものの、加藤さんから直接聞いたか。



「まっ、いっか。どうせ、もう関係ないしな」

 


 済んだことは忘れよう。

 俺は、そう頭を切り替えると、暗くなりつつある道を真っ直ぐ歩いて行った。






ちょっと、書いてみたくなっただけの出オチ作品です。

丁寧に作ってないので粗があるかも。

本当は、ヒント匂わせ系の作品にする予定でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『ドМご褒美用音源』なるパワーワードに忌避感を持つ佐藤君の感性の健全さと、佐藤君に健気な僕っ子幼馴染楓ちゃんの、どこかズレのある掛け合いが楽しかったです。 [気になる点] 『ドМご褒美用音…
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