ひきこもりから始まる異世界転生
僕の名前はヒッキー。
28歳の自宅警備員だ。
お気に入りの異世界転生ラノベを読み返しては、僕の才能を生かせていないこの世界はクソゲーだといつも思っている。
「こんな主人公達じゃなくて、僕を転生させてくれさえすれば、もっと上手く世界を救ってみせるのになあ。」
なんだか部屋が明るくなって来た。
もうそろそろ、夜明けの時間なのかもしれない。
今日も一日、世界の行く末を憂えた自分の事を自分で褒めてあげよう。
『夜明けではありませんよ。』
光の中から誰かがしゃべった。
『貴方を異世界に転生します。』
「よっしゃ、キター!」
新しく産まれ落ちた場所は、王都ではないが地方の都市のそこそこの街だった。村でなかっただけましなのかも知れないが、転生ものにしてはなんだか中途半端だ。
産まれた家も王族どころか貴族でさえなかった。それでもそこそこ裕福な商家で、ろくに働かなくても美味しいご飯が食べ放題だったから、奴隷スタートよりは遥かにましなのかもしれない。
これは所謂成り上がり系なのだろうか?
功績を上げ、有名になって、可憐なお姫さまをゲットだぜ!
慎重な僕は焦らずじっくり時期を待つ。"焦る乞食は貰いが少ない"、って言うからね。
成人になった僕は、満を持して今立ち上がる。
先ずは街の近衛兵になるべく門を叩いた。ここから僕の英雄伝説が始まるのだ。
・・・そして見事に、試験に落ちた。
剣術って何?
才能があれば訓練なんてしなくても、チートで無双出来るものじゃないの?
帝国法って何?
地理、歴史、経済、社交マナーにその他諸々。
こんなのが試験に出るんだ。
調べる処か、気にしてさえいなかったから、今初めて知ったよ。
こんなの勉強したって無駄!
僕のラノベの知識の方が絶対に有用に決まっている。
そうだ、冒険者ギルドだ!
異世界無双のスタートなら、やっぱりここからだ。
僕としたことがテンプレを忘れるなんて、本当にうっかりさんだったよ。
僕は颯爽と冒険者ギルドのドアをくぐった。
さて、一番美人さんのいる受付は何処だろう?
数分後・・・
テンプレの新人イビりにボコボコにされて、僕は家へと逃げ帰った。
そしてまた、異世界でもニート生活が始まる。
親がそこそこ裕福でいてくれてありがとう。
本気を出すなら、異世界へ行く前に。