巽さんとの電話を切ったつもりが切れていなかったらしくスマホから『今日の下野くんの声も超イケボだった~』とか『将来は毎日下野くんに私の作ったお味噌汁を飲んでもらいたいな』といった独り言が聴こえてきた!?
「でね、これをワイに代入すると、答えは2になるんだよ」
『なるほどー、流石下野くん! 本当にいつもありがとね! 助かります!』
「いやいや、これくらいお安い御用だよ」
『じゃあ、また明日学校でね、おやすみ下野くん!』
「うん、また明日、おやすみ巽さん」
スピーカーにして机の端に置いていたスマホの通話終了ボタンを押すと、再び教科書に向き合う。
来週は期末テストだし、もう少し勉強しておくかな。
『んふふ~、今日の下野くんの声も超イケボだったな~』
えっ!?
た、巽さん!?
スマホから巽さんの声が聴こえてきたので慌ててそちらを見ると、通話終了ボタンを押し損ねていたらしく、まだ通話が続いていた。
つまり今のは、巽さんの独り言!?
『下野くんの声って、普段はとっても柔らかくて、聴いてるだけで心がポカポカしてくる感じなのに、たまに凄く低音でゾクゾクする声になる時があるから、そのギャップでキュンキュンしちゃうよ~』
巽さん!?!?
巽さんって俺の声、そんな風に思ってくれてたの!?
『そのうえ優しくていつも勉強を教えてくれるんだもん。こんなの好きになるなってほうが無理だよ~』
えーーー!?!?!?
今巽さん、俺のこと好きって言ったーーー!?!?!?
『ハァ~、下野くんって彼女いるのかな? ……私が彼女になりたいな』
いや彼女はいないけどね!?
しかも巽さんみたいな可愛い子が俺の彼女とか、マジで言ってるの!?
『そして将来は毎日下野くんに私の作ったお味噌汁を飲んでもらいたい……』
まだ付き合ってもいないのに!?
随分気が早いね!?
『因みに子供はサッカーチームが作れるくらい欲しい』
11人も!?!?
そ、そんなに俺、養っていけるかな……?
……くっ、流石に恥ずかしくてこれ以上は聴いてられない!
俺は震える手で、そっと通話終了ボタンに手を伸ばした。
――その時だった。
「お兄ちゃん、お母さんがさっさとお風呂入っちゃえってさ」
「あっ!!」
『えっ!?』
妹がノックもせずに部屋に入ってきた。
「どうしたの? そんなこの世の終わりみたいな顔して?」
「い、いや、何でもないよ」
「ふーん? 変なの」
ガサツにドアを閉めて、妹は去っていった。
「……」
『……』
後には地獄のように気まずい沈黙だけが残された。
『……下野くん、ひょっとして私の独り言、ずっと聴こえてた?』
「…………はい」
『ぴぎゃあああああああああ』
巽さんの絶叫が、俺の部屋に響いた。
「さっきからうるさいよお兄ちゃんッ!」