表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

悪役令嬢もの短篇集

悪役令嬢って最強じゃね?

作者: ran.Dee

公爵家の一人娘に生まれ変わって思った。


(私、悪役令嬢じゃね?)


乙女ゲームなんてやったことはないがラノベは幾つか読んでいたので、公爵家の令嬢に転生とくればお約束だろうと思ったわけだが。


(ま、いっか。たぶん大丈夫っしょ。)


第二王子と婚約させられても特に焦るでもなく、

たぶん無駄になるなあなんて思いつつ王妃教育も真面目に受けた。

婚約者である第二王子は王位継承権こそ2位なのだが王太子にいちばん近いのだ。


15才になり婚約者とともに貴族学園に入学した。

学園ではヒロインと思しき神託を受けたという平民の聖女候補が特例入学していて、案の定、婚約者である第二王子殿下といい仲になっていった。

嫉妬?いや別に。

どうせ裏切ると分かってる相手に恋なんか出来るかっつーの。


なんか王子の側近どももグルになって冤罪しかけてくるようになった。

そこまですんの?とは思ったけど、まあいいわと静観を決め込んでいた。

それもあらかた済んだようで、密偵からの報告によると断罪の準備を整え始めたらしい。

シナリオは1年間なんだと妙なところに感心した。

まあ、最後までは進ませないけどね。

ということで、カフェテリアにガン首揃えてたむろってる中に特攻してやろう。


---


「殿下、お話がございます。」

「今さら何の用だ?面倒だからここで話せ。」

「では失礼して。

このたび父上に私から婚約解消を願いでましたのでお知らせいたします。」

「は?こちらの聖女候補殿を散々虐めておいてオマエの方から婚約解消だとっ!?

聞いて呆れるわ。私の方から婚約破棄を突きつけるまで待て!」

「私、虐めてなんておりませんわ。

冤罪で断罪されるのを待つのも面倒なので反証をすべて揃えた上で、殿下の不義の証拠と合わせて父上から国王陛下に婚約解消を打診したところでございます。」

「な、なにを!?」


「だいたいなぜ筆頭公爵家の一人娘が王家とはいえ他家に嫁がなければならないのでしょうね?

政略結婚の政略というところの意味を考えてみたことがございますか?


殿下は第二王子であり、お母さまは側妃様。

側妃様はこう言ってはなんですが力のない伯爵家の出でいらっしゃる。

第一王子殿下のお母さまは今は亡き正妃様。

故正妃様は序列3位の公爵家のご出身で、そのまま第一王子殿下の後ろ盾となっております。

通常であれば第一王子殿下が王太子になるところを、側妃様を溺愛される国王陛下が我が筆頭公爵家を後ろ盾として殿下に王位を継がせようとなさったのですわ。

側妃様の泣き落としに負けた国王陛下が幼馴染の父公爵に拝み倒してゴリ押しでねじ込んだのがこの婚約です。


つまり、私との婚姻がないならば後ろ盾のない第二王子殿下はただのスペア。

婚約解消または破棄、どちらにしろ殿下の立太子の芽はなくなりました。」

「あ…」


その場に頽れた王子。

今頃気づいたのかバカめ。昔からコイツはこうだった。器じゃないんだよ。


うちの公爵家は十数代前の王の弟が祖になる。

非常に優秀な人で、凡庸な兄王太子と骨肉の争いになるかと思われたが兄弟仲が非常に良く、臣下の前で生涯の忠誠を誓って臣籍降下したのだ。

溺愛する弟のために直轄領のいい所すべてを下賜した結果、その財力と政治力で支えてもらった王の治世で大国の仲間入りを果たし今に至る。

うちの公爵家は代々王家と二人三脚で国を動かしてきたわけ。

私はその唯一の姫君ってことよ。

私との結婚の重要性はマトモな貴族なら誰でも知ってた。

コイツもこの国の歴史、王家の歴史、政治情勢もろもろすべて教育されてきたはず。

きっと教育は教育として恋愛とか青春とかとは別のモノに感じて実感なかったんだろうな。

そんなのは表と裏を使い分けてこそだというのにコイツときたら真実の愛とやらに目覚めてから常に誠実でありたいとか。

もうその時点で為政者として終わってたのにね。


ついでに言えばこの王子に下賜されるであろう直轄領はうちの後に2つの公爵家が興っているので出涸らしの僻地しか残されていない。

どっか小国の姫君に婿でとってもらうのがいいかもしれないわ。

でも王妃教育で習った情報では年回りの近い娘はいないはずで、訳アリの熟女姫がひとりいらっしゃるくらい。

僻地の領地経営で一生苦労するのか、オバさまのオカシナ性癖に耐えながら小国の王配として陰で笑われるのかの二択って、次の奴らを思えばずいぶんと贅沢な悩みだわ。


「そこのボンクラ…失礼、側近さまたちは臣籍降下される殿下に付いていく覚悟で私の断罪を謀っていらっしゃたのかしら?

宰相のご嫡男の貴方は家令として領地経営の補佐をされるのが夢でしたの?

近衛騎士団長のご嫡男の貴方は領軍の司令官が夢なのかしら?

国の中枢からはまたずいぶんと遠い…まあ器には合っているのかしらね。」


頭を抱えて蹲る近衛騎士団長令息。

コイツは昔から脳筋だからアホについたらアホな行動しか出来ない。

ある意味被害者かもしれないが国の中枢にいていい人間じゃない。


だいたい側近に護衛である近衛だなんてセンスないわね。

国防にも侵略にも役に立たないじゃない。

第一王子殿下の側近にはちゃんと王国軍総司令官の令息がついている。

もともと王太子はそちらの予定で動いていたのだから当然だわね。


「もう宰相には…俺が家令なんて…」


あらあら、宰相令息はまだ分かってないのね。


「貴方、私の話をちゃんと聞いていて?

私は冤罪の反証を国王陛下にお渡ししたと言ったのよ。

筆頭公爵家の姫である私を陥れようとしたあなた方がそのままでいられるはずはないでしょう?

なにが宰相よ。能力もないくせに。」

「あ…」


表情がなくなったわね。心が壊れちゃったかしら?

宰相家の嫡男なのに弟の方が優秀で第一王子の側近に付いたのを僻んでいたから自分が付いた第二王子が王太子になると知っていちばん喜んだのはこの男だったはず。

それを可憐な聖女候補にのぼせあがってスッカリ忘れちゃうなんて男ってバカね。


「聖女候補さんは…殿下がたとえば公爵位を賜わるとしても公爵夫人には迎えられないでしょう。

念願だった我が子の立太子を阻まれた側妃様が許すとはとても思えませんわ。

殿下が囲ってくださるのか…お優しい殿下のことだから真実の愛のお相手を日陰者にするなんて、ねぇ?

おふたりで駆け落ちでもするのかしらね?

すべてを捨てて平民に堕ちても純愛を貫くなんて素敵ね。


そういえば、国王陛下が教会に対する牽制のために聖女認定前の貴女を無理を通してこの学園に入れたのをご存じ?

聖女は教会の強力な広告塔でしょう?

聖女信仰で強まった教会の政治への干渉を警戒したの。

ここで適当な貴族とくっつけば教会の聖女にはならないという思惑だったのだわ。

でも、よりにもよって第二王子殿下を射止めるなんて大誤算だったでしょうね。

二兎を追うもの一兎をも得ずとはよく言ったものだわ。」

「わ、私、何も知らなくて…」

「それは当然だわ。だから普通の平民は貴族には関わらないのじゃない?

野心のある女は嫌いじゃないけど、何も知らないまま権力の中枢を狙うなんて自殺行為にも程があるわ。

覚悟したほうがよくてよ。」


「え、覚悟?」

「第二王子の立太子にかけていたお家も多いですからね。

貴女は王子にくっついてお出かけとかお食事とかお買い物とかしたでしょ?

みんな良くしてくれたわよね?

サービスとか言いながら高価なアクセサリーを貰ったりして。

そんなの元取る算段がなきゃやるわけないじゃない。

平民の貴女が誰よりもご存じでしょうに。

それが投資分も回収出来ないとなったわけ。


すぐにでも教会に戻った方がいいわ。

もう王家には守られないでしょう?

聖女候補は聖女ではないから今の貴女はただの平民。

平民ひとり、突然いなくなっても…ね?

我が世の春を夢見て第二王子殿下に付いていた貴族たちが怒り狂って動きだす前の今しかないわよ。


こんな公衆の面前で話すことではなかったのだけれど殿下が話せと言われるから。

おかげでこの話は貴族社会にすぐにでも広まってしまうでしょう。

運良く教会に戻れたらすぐに聖女にしてもらいなさい。

聖女になったら生涯独身。しかし命は教会に守られるわ。

神さまのみを愛して民の救済を願うなんて美しいけど辛いお仕事ね。

学園での楽しかった日々の想い出をよすがに生きてくださいね。」


「た、助けてください!」

「そうしたいのはやまやまだけれど、私が助けてしまうと婚約解消を狙った我が公爵家の(はかりごと)にされてしまうでしょう?

無理なのよ。

そこで呆けてる3人が立場を失う前になんとかしてもらいなさい。

真実の愛とやらがあるのでしょう?」

「あああああ!こんなはずじゃ…」


聖女候補が床に座り込んでぶつぶつ呟いていた。


「私を味方につけていたら結果は違ったはずですのに。

聖女候補さんをうちの養子にして婚約解消後に公爵家から嫁がせる。

そうしたら殿下は後ろ盾を得て王太子に、聖女候補さんは王太子妃に、側近さんたちはお望みの地位に。

私は好きでもない殿下から解放される…

もしかして殿下は私に一方的に惚れられて困ってるとでも言ったのかしらね?

つまらない見栄をはって。男ってバカね。」


3人は殿下に怨みがましい目を向け、殿下は無言で項垂れた。

図星みたいね。


「まあ、生きていればいいこともあるわ。

私を陥れようとした件は命の危険がない殿下がひとりで泥を被れば側近さんたちはギリギリ生かされると思うの。

廃嫡、平民堕ちは避けられないでしょうけどね。

どうぞ生き足掻いてくださいな。

では、皆さまご機嫌よう。」


4人は灰と化していた。

遠巻きに見ていた令息令嬢は能力に不安のある王太子候補の失脚に安堵した顔がほとんどだった。

その中に数人、青白い顔をしていたものは王子の尻馬にのってやらかしているのだろう。

反証には名前があるはずなので遠からず罪を償うことになる。


王子との婚約解消は相手側の有責とはいえ貴族令嬢としてマイナスになるので私の婚姻は早まるだろう。

すでに相手は決まっている。

私が王家に嫁ぐのと入れ替わりに公爵家に養子に入ることになっていた優秀と評判の分家筋の伯爵家の次男だ。

幼馴染の従兄のお兄ちゃん。私の初恋だ。


悪役令嬢に生まれて心から良かったと神に感謝した。


誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ