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第4話「予行演習」

【立入禁止!】【決して中に入るな!】【危険! すぐに立ち去れ!】【本遺跡内での死傷事故に関して、当局は一切の責任を負いません】【に  げ  ろ】


数時間後。キリエたち4人がたどり着いた遺跡の扉には、警告を示すメッセージや立て札が、過剰なまでに置かれていた。


「なあリーダー、ここって……」


ヴィッキーが引きつった表情でキリエに話しかける。


「そう! ギルドの指定した立入禁止区域! 今からこの遺跡の中で今回の作戦の予行演習を行います! さあみんな、準備はいい!?」


「……」


一同はだれも返事をしなかったが、キリエは少し緊張しているだけだと解釈した。


「よーしそれじゃあみんな、肩の力を抜いて、突入!」


キリエは元気よく【立入禁止】の立て札を蹴り倒すと、遺跡の中へと入っていく。3人も彼女の後に続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「なあ、さっきからちょくちょく足元でペキペキ音がするんだけど、薄暗くて何を踏んでいるかよく分からないんだ」


ヴィッキーが前を歩くアメリアに向かって、おずおずと話しかける。


「心配いらない。只の人骨。戦闘民族のオークなら見慣れてるはず」


「……、あ、あたぼうよ!」


そんな会話を続ける二人の前で、松明を持って歩くキリエにラファエルが話しかける。


「この遺跡で何があったのか、貴女は知っているの? キリエ」


「モチのロン。どこかのはぐれ魔術師がこの遺跡の中で見つけた遺物を使って、無許可でゴーレムを作ろうとしたの。で、完成したは良いけど制御ができなくてその魔術師はあの世行き。遺跡そのものに元から仕込まれていた結界のおかげでゴーレムは外には出れないけど、お宝目当ての盗掘者とかが自分から挽き肉になりにいってるって話」


「……作戦はあるのかしら?」


ラファエルが尋ねるのと同時に、キリエの歩みが止まる。遺跡の中心部である大広間に到着したのだ。


「わお……あれ見て」


キリエが指差した先にいたのは、全長が5メートルはあろうかという大きさの、全身が岩石で作られた巨人だった。目元に当たる部分からは妖しい濃緑色の光が漏れ出しており、岩石同士が軋む音が、肉食獣の唸り声のように響く。こちらの存在に気がついているようだ。


「作戦は単純(シンプル)にいきましょ。みんながゴーレムの気を引いている隙に、私が奴の背後に回って、背中の魔法文字が刻まれたパーツを傷つける。そこが奴の急所だからね」


キリエは新調した剣「マサクル」を背中に背負った鞘から抜いて構えると、地響きを立てて突進してくるゴーレムに向かって不敵な笑みを浮かべた。


「さあ、パーティの始まり! 能力(スキル)発動 ・身体強化(エンチャント)!」


キリエは強化された脚力で大きく跳躍し、ゴーレムの一撃を避けつつ背後に回る。


「よし! みんな、ゴーレムに攻撃して奴の注意を引いて――引いて……」


ゴーレムはヴィッキーたちには一切構わず、キリエの方を振り向くと、その巨大な拳を振り回して攻撃を続ける。


それもそのはず、キリエ以外はゴーレムに一切手を出していないのだから。


「ねえちょっと3人ともどうしたの!? 私一人じゃこいつやっつけるのは無理だって!」


ほうほうの体でゴーレムの攻撃を躱し続けるキリエの目に入ったのは、地面に這いつくばってガタガタと身を震わせるヴィッキーの姿だった。


「無理……やっぱ無理だ……アタシ、喧嘩の一つもやったことないのに……!」


「えええええ!?」


驚愕の叫びを上げるキリエの体を、ゴーレムの手が捕らえた。そのまま握りつぶそうというのだろう。


「あが、が……ら、ラファエル……魔法でこいつをなんとかして……」


「よ、よし! お喰らいまし! 雷光砲(サンダーボルト)!!」


ヴィッキーを立ち上がらせようとしていたラファエルはキリエの危機に気がつくと、慌てて掌から青白い稲妻の光線を解き放つ。


電熱を伴った雷撃はゴーレムの腕を豆腐のように粉々にするーーようなことはなかった。


「ね、ねえちょっと、こいつに効いていないんだけど……あれ?」


キリエはラファエルの手元に向かって目を凝らした。よく見るとラファエルの掌から出ているのは、お爺さんの小便みたいな勢いの小さく弱々しい稲光だ。


「……やはりゴーレム相手に幻覚魔法は通用しませんわ……!」


「ちょ、ちょっと、幻覚とかそういうのじゃなくて! 普通の攻撃魔法使ってよ!」


「無理ですわ! ワタクシは攻撃魔法の類は一切使えない! 才能がないのですわ!!」


キリエは言葉を失った。そんな彼女の体をゴーレムは容赦なく壁に向かってぶん投げると、今度はラファエルの方へとにじり寄る。


「あぐ……アメリア……貴女何やってんの……」


身体強化(エンチャント)の効果で致命傷は免れているものの、石造りの壁に叩きつけられてはすぐには起き上がれない。キリエは何とか首だけを動かして、壁際でこそこそと細工をしていたアメリアの方に顔を向ける。


「私の専門は殺人。ああいう怪物の類は専門外。だから逃げる」


アメリアが壁から離れて数秒待つと爆発音とともに、這いつくばれば通れるぐらいの大きさの穴が、壁に開いた。


「壁が薄い箇所があって助かった」


アメリアは抑揚のない口調で呟くと、まともに動けないキリエの体を穴へと押し込んで脱出させる。


「そっちも早く!」


アメリアはヴィッキーを背負いながら、この世の終わりみたいな顔でゴーレムから逃げ回るラファエルに向かって大声で叫ぶ。


「おおお! そこが脱出路ですの!」


ラファエルはすぐさま壁の穴へと駆け寄ると、恐怖で縮こまったヴィッキーの体を穴へと押し込む。


「先に行きなさい、エルフ!」


ラファエルはそう言うとゴーレムに向かって両手を広げ、自分の分身像を大量に作り上げた。だが、ゴーレムが本物のラファエルに気がつくまでにかかる時間はほんの数秒程度だろう。


「よし、今ですわ!」


ラファエルはアメリアが穴を抜けたのを確認すると、自分も頭から穴に突っ込んで――途中で動かなくなった。


「いけませんわ! 乳がつっかえました!!」


「この大馬鹿!!」


何とか立ち上がったキリエが開口一番に叫んだ台詞がそれだった。


「なんてこと……! このワタクシが名家に相応しい美しく豊かな乳房を持っているが故に、その短い生涯を終えることになるとは……運命とはかくも皮肉なもの……!」


「いいからあんたも踏ん張れや! ひっぱたくよ!?」


キリエはヴィッキーたちと共にラファエルの腕を掴んで必死に引っ張りながら叫ぶ。


スポン!


「よし抜けた!」


ラファエルの体が穴から引っこ抜かれると同時に、遺跡の壁の内側から身の毛もよだつような唸り声と地響きが聞こえてくる。あと数秒遅れていれば、彼女の下半身は上半身と泣別れをしていたに違いない。


「ぜえ、ぜえ……それで、予行演習の評価はどうですの?」


ラファエルは冷や汗と脂汗をだくだくと垂らしながら、節操なくキリエに尋ねる。


「それに関しては……アジトに戻ってから話すから……」


そう言ってよろめき歩くキリエの背中を見て、3人はがっくりと肩を落とした。

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