4.幼馴染と先輩イベント
誤字報告、大変助かっております……!ありがとうございます
なるべくなくせるよう頑張ります
「う、うぅ……」
「み、光樹?本当に大丈夫……?昼休みに帰ってきてから辛そうだよ……?」
「ん……大丈夫だ……」
今日の授業が終わったものとは全く別物の疲労感が俺を襲っている。それがどの程度かと言うと、隣の紬が二桁に及ぶ心配の声をかけてくれる位だ。
全財産を持っていかれ、捨てられ、罵詈雑言を言われた昼休み。信じられるか?これ全部、恋愛ゲームで起きたんだぜ……?
それを見ていた三木先輩からの情けなすぎる慰めをどうにか乗り越えた俺の体力は既にない。生徒会長に抱き締められながら、『大丈夫、光樹くんには私がいるからね……』って、まるで子供のように頭を撫でられ続けた。それだけでもう死にたい。
それをどうにか止めさせて、あの一件は誰にも言わないよう心からお願いした。
口外されたら終わる。俺の全てが終わってしまう。残りの学校生活を、後ろ指を指されながら生きなきゃいけないとか無理過ぎる。
一生に一度のお願いを初めて使った瞬間だった。こんな下らないことでぇ……。
まあ唯一の救いは、今の段階では恋愛ゲームの攻略中ヒロインがいなくなったことだ。
一文無しだからね。お金がないと何も出来ないのも、本当にリアル。だからしばらくはゲーム内でバイトをして、資金を稼がないといけないのだ。ゲーム内でバイトて。
……救いって、こんな悲しい気持ちになるものだっけ?知らなかったなあ。
「ね、ねぇ光樹……私のお弁当、そんなに美味しくなかったかなっ……?」
さて、そろそろ現実に戻ろう。
さっきから心配してくれている紬だが、やはりお弁当のことを一番に気にしているようだ。下からのぞき込むように見ているその瞳がかすかに揺れていた。
だから君はそんなキャラじゃ……止めよう。今は目の前の彼女と向き合おう。
「そんなことないぞ。めちゃめちゃ旨かった。特に卵焼きなんて、子供の頃食べさせてもらった時の味のままで懐かしかったよ」
嘘なんて吐きようもない。
女子の手作り弁当という時点でもう美味しいのだが、紬のはお世辞抜きで美味しかった。見た目も華やかで、栄養も考えられている……小さい頃からその手の家事が得意だった印象はあるが、さらに腕を上げたんだなと感心した。
「ほ、ホントに!?えへへ……良かったぁ……!」
……ダメだ慣れない……!
紬の冷ややかな態度に癒しを覚えるというあの恋愛ゲームの呪いを受けていた俺には、今の紬が眩しすぎる……!
誰か教えて。これ現実だよね?
「よ、よし……ねえ光樹!今日はさ、久しぶりに……一緒に帰らない……?」
「……」
本当に何があったの……?昨日まではそそくさと模範生徒みたいに帰宅してたじゃん。
さっきも言ったが、俺の体力はもうほぼないのだ。しかもこの後はバイトが入っている……しかし変に拒否して、体力を減らしたくない。
「……あぁ、そうだな。久しぶりに帰ろうか」
「う、うん!えへへ、やったぁ……!」
断る理由もないし……こうも不安そうに聞いてきて、楽しそうに笑ってるのを見ると、間違った選択ではなかったのかな。
あの恋愛ゲームでは間違いだらけだけど。ははは、笑えない。
しかし、こうして隣を歩いて一緒に帰るなんて中学以来じゃないか?肩を並べて歩くのも当たり前みたいにしてたなぁ……。
懐かしいというか……悪くないなと思う。
「ふふふ……あれ?」
「どうした?」
下駄箱に来た当たりで、急に腕を引っ張られた。
……え、何?
「……紬?」
「……何で光樹から女の匂いがするの?」
「へ?」
その時、紬の眼光が俺を貫いた。
あ、これはヤバい。悪くないとか思ったばかりだけど、とんでもなく悪いねこれは。
雰囲気が一変した。感情は分からないが、よろしくないのは分かる。
あ、でもこの冷たい感じいいね。現実だぁ……。
「光樹、聞いてる?」
「え、あーいや……これはだな……」
「あ、光樹くーん!」
「うおっ!?」
背後からの衝撃。
この声は俺の耳にも新しい。というか、生徒会室で昼休み中ずっと俺を包まれるように聞かされたんだ。
「なぁ……っ!!?」
「ちょ、何やってんですか三木先輩……!」
「んー?ぎゅ~ってしてあげてるんだよ?」
それは分かる。俺がそれを受けてる当事者なんだから。
だからこの人が集まる下駄箱前でやる理由を教えて下さい。あなた皆の生徒会長なんですよ!?平等でいて下さい!
「ななな、何やってるんですか生徒会長!光樹から離れて下さい!!」
「あら、幼馴染の紬さん。でも彼には私が必要だから……ごめんね?」
「何を訳の分からない……ん?三木先輩……三木……」
「先輩、ホント大丈夫なんで……離れて……!」
だあ……!どうにか三木先輩からの拘束を解くことが出来た。
まじで勘弁して下さい……口が滑ってあの恋愛ゲームのことでも言われた時には、俺はこの下駄箱から出て家に帰宅して、二度と登校することはなくなるぞ。
この人にこんな一面があったとは、知りたくなかった……。
ここは早いとこ紬と帰った方がいい。
「では先輩、俺たちはここで……紬、帰ろう」
「……ごめんね、光樹。せっかく誘ったんだけど……私、この人とお話しなくちゃならなくなったから」
「……へ?三木先輩と?」
「そう。三木先輩と」
こいつ、三木先輩と面識あったの?そりゃ生徒会長だから知名度はあるだろうけど、個人的な繋がりがあるとは聞いてない。
もしそうなら、今まで三木先輩に紬とのことを話していたときに、先輩が教えてくれても良かったと思うんだが……。
いや。そんなことより、この冷たい雰囲気……!鋭い視線……!
あぁ……現実だぁ……。
「俺は別にいいけど……三木先輩は生徒会とか用事があるんじゃ……」
「大丈夫だよ。私も色々とお話したいと思ってたから……彼女の様子が変わったって話、探りを入れてみるね……」
三木先輩がこっそりと耳打ちしてくれた。
……この人、ホントに優しいな。弁当の一件を覚えていてくれたとは……ここはお言葉に甘えるとしよう。
「……お願いします。じゃ、俺はここで。紬も、また明日な」
「うん、また明日」
「じゃあね、光樹くん」
……やっと解放された……。
今日は色々ありすぎて、元から疲れていたのもあるが……何かあの二人、空気が重かった気がするんだよなぁ……。
お話するって言ってたのに。
とりあえず、紬のことは先輩にお願いしよう。
俺はバイトに備えて体力を戻さなくては……そうだ、恋愛ゲームの方もバイトさせないと……。
「……生徒会室、行こっか」
「そうですね、三木先輩……いえ、”ミキちゃん”と呼んだ方がいいですか?」
「……?」
俺の知らない楽しいお話が、始まる。