発覚(2)
「ない!ないわよそれは!ないわよね!?ねぇないって言ってお願いだからっ!!」
「つ、紬せっ、落ちつ……苦しでっ!」
「紬落ち着きなさい!女子がしちゃいけない顔してるし、凛も女子が出しちゃいけない声だしてるからっ!」
いや、そろそろ声も出せないくらいになってきてるんですけどっ……。
というより何で私の首が絞められたんですかね……?私も今その予測に至っただけですし、そもそも正解なんて知りませんし!あと私が否定したいくらいなんですけどっ!?
「だだだだって、光樹がおとっ……こ好きなんてそんな……そんなの全く感じなかったし……!勉強会したときだっていい雰囲気になったし……水泳でも……」
「私も女性に関心はあるとは思いますが……」
「あ、でも凛の胸とかに視線を寄せなかったのはそういう……?」
何なんですかこの人?さっきから喧嘩売られてます?
何で首絞められて惚気られた後に同情の視線を向けられないといけないんですかね?倒錯してるからって何でも許される訳じゃないんですよ?
ぐっ……しかし痛いところを突いてきましたね……
確かに先輩からはあまり、その……胸とか足とか、俗に言う女の子っぽいところに視線を感じなかった……というかそんな下心の見えない先輩が、惹かれた要素の一つだったのですが……
まさか純粋に興味がなかったから、というのは考えてなかった……!
というかそんなこと考えたくないですよ!女として見られていないとか、そういうレベルじゃありませんよこれ!!
「でも私、可愛いって言われたし……」
「あれじゃないですか、愛玩動物的な。猫とか犬に可愛いって言うのと同じで」
「あなたたちが喧嘩してどうするの……今の論点は皆田光樹が男を恋愛対象として見てるのか否かでしょう?実際どうなの?」
……落ち着いて考えよう。こういうのは思い込みが一番ダメなのです。勘違いを起こす訳にはいきません……事実を整理して考えましょう。
まず先輩は私たちに、ミキちゃんのことやら何やらを隠したがっている。それも私たちが追及しても頑なに。
そもそもそれは何故?情けないから?恥ずかしいから?巻き込みたくないから?
その可能性は十分あるでしょう。
でも、違う可能性があるとしたら……そう、話したことで私たちとの関係が壊れてしまう、そんな理由。世間一般的に考えて好まれない理由……
それが……男性を恋愛対象として見てることと考えると……。
「男性云々は置いといても……女性に関心がないというのは早計じゃないかな?とてもそうは見えないけど……」
「そ、そうですよ!光樹が女の子に興味ないなんて、そんな訳……」
「男の娘……」
私が呟くように出したその言葉で、みんなが固まる。
そして向けられる怪訝な表情……どうやら意味を分かっていないらしい。まあ私も影ちゃんから聞くまでは全然知らなかったけど……
「世の中には女の子よりも女の子らしい男の子がいて、そんな男の子を男の娘と書いて男の娘と呼ぶらしいです」
「なに?新しい早口言葉??」
「見せた方が早そうですね……こんな感じのやつですよ」
そう言って検索をかけた『男の娘』の画像をスマホに写し、興味津々?にのぞき込んでくる先輩方に見せる。
まさか私の検索履歴に『男の娘』が載るときがくるとは……
「なっ……これが男!?嘘でしょ!?」
「どう見ても女の子にしか見えないけど……」
「髪とかはウィッグでしょうけど……男ですよ」
「下手な女の子より女の子してるじゃない!何よこの両性類っ!」
紬先輩ももう一杯一杯なんだろうな……よく分からない造語を喚いてソファーに沈んでしまいました。静音先輩は『会長にはまだ早いです』とか言って冷花先輩の視界を塞いでます。いやあなた後輩でしょう。
私も女の子と男の子がゲシュタルト崩壊起こしてて頭痛いですけど……
でも、これだと辻褄が合ってしまうのも事実です。
私たちに隠したいことで、男性にも女性にも興味を持っていることになる。かつ、普段の生活を見ているだけではそんな空気を察することも出来ない。
今のご時世、見た目なんていくらでも変えられるというのは私たち女子もよく知っていることです……この学校にいても見つけることは不可能でしょう。
だって当然男子の恰好してるでしょうし……。
ただこれが事実となるなら、このミキちゃん関連のことを解決したとしても……私たちが先輩に持つこの恋心は……
いや別に同性愛を否定する訳じゃないんです。
その、問題はそれが私たちの恋寄せる人ってことでして……
「紬先輩……大丈夫ですか……?」
「……男の娘がいるなら女の息子もありよね?」
「はい?」
「負けるわけにはいかないのよ……!」
「何と勝負してるんですか!?ちょ、まじ落ち着いて下さいって!」
この人連日のセリフ作戦もあってだいぶヤバいですね……!何で私がこの状況で正気を保ってないといけないんですか!学生服を脱ごうとするんじゃないっ!!
というか一番落ち着いてる静音先輩とかが止めてくれた方が……!
「ど、どうしよう静音ちゃんっ。何か男の子になれるって派手な広告をクリックしたら、登録完了したってすごい金額が……」
「あ、下手に操作しちゃダメですよ!無視です無視!」
「で、でもなんかメールも凄くて……」
「ああもう何で生徒会のメールアドレスで……っ!」
カオスですカオス!!
どうするんですかこれ!本当なら私だってこの衝撃の事実?にちょっとふさぎ込みたいくらいなのに、それすら許されないって鬼畜過ぎませんか!?
どうして私がなだめる役に回ってるんです!?ポンコツ過ぎませんかこの先輩たち!
「つ、紬先輩!先輩が全く女性に関心がないと分かった訳じゃないです!むしろ男の娘説が正しいなら、女性的な容姿や格好にはまだ希望もありますよ!」
「女性的……女性的って何……?何をもって女性は女性と定義付けられて……」
私のなけなしの慰めも事態を悪化させるばかりです。
先輩方がこんな有様だからか、私が冷静でいられるのは不幸中の幸いでしょうか……いや、私だって軽く自暴自棄になりたいレベルなんですよ?
もはや私だけでは手に負えません……そもそも男の娘とか、その手の話は全く分かりませんし……。
先輩に直接聞ければ一番早いのですが、下手に聞いたらそれこそ私たちとの関係が木端微塵です。
『男が好きなんですか?』なんて聞かれた先輩の心情は察するに余り有りますよ。正解でも間違っていても、その後の私たちの関係は今まで通りにはいかないでしょうね……
ただでさえ話が話なだけに、下手な扱いが出来ないし……!
だからといって、こんな話で頼れる人なんて……あ。
「その、紬先輩」
「アダムとイヴの禁断の果実から……何?」
「その、男の娘云々に関してなんですけど……先輩に全く怪しまれず、変な空気にもならずに事を聞ける人に心当たりがあるんですが……どうでしょう?」
「ほ、ほんと!?誰!?」
「ちょっとお願いできるか、電話かけてみますね……」
そうして唯一無二の私の親友……と私が勝手に思っている、電話履歴の一番上にあったその子に電話をかける。
そしていつも通り、一回目のコールでその子は電話に出てくれました。
「あ、もしもし?今ちょっと大丈夫かな?」
『り、凛ちゃん?私は大丈夫だけど……どうしたの?』
「え~とね、その~……急で申し訳ないんだけどさ、ちょっとお願いしたいことがあって……いや、凄い突拍子もない話なんだけど……」
『う、うん?よく分からないけど……凛ちゃんのためなら、出来る限り頑張るよっ』
くう……いい子過ぎるっ。眩しいっ。涙が出てきそうだよ……
「ありがとう影ちゃん!それでそのお願いなんだけど……」
私の親友で、頼れる助っ人……絵心影華ちゃん。
彼女ならきっと力になってくれる。
絵が上手で、その……男性同士の恋愛の絵とかも描いてる影ちゃんなら!