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23.双子イベント



「先輩どういうことですか!?紬先輩を抱きしめたってどういうことですか~!!」

「抱きしめたんじゃなくて支えた……ね、根津鳥さん頭鷲掴みはお許しを。抜けちゃうから、頭抜けちゃうから」


 本当に学生ってその手の話が好きんだんだなって思うよ。

 いつも通り昼休みに生徒会室に入って席についた瞬間、根津鳥に両手で頭を持たれて振り回されている、どうも今の俺です。


 理由はまあ彼女も言っているんだけど、午前の水泳の件だ。それが何故か一年生の彼女の耳にまで入っていた。

 それだけならいいんだけど、色々と話が湾曲して伝わったのか、プールの授業中に俺が紬を抱きしめていたことになっているようで、今はその説得中である。


「私もそういうの、よくないと思うな~……」

「三木先輩まで?いやだから……根津鳥、ギブ。それ息出来ないやつだから。事件になっちゃうやつだから」


 三木先輩も目の前で首を絞められているんですから止めて下さい。

 そんな頬を膨らませている場合ではないんですよ。


「だから倒れそうになった紬を支えただけですよ。明音か紬にも聞いて下さい」

「今はお説教で忙しいから出来ないかな」


 そうだよね。

 これもまた意味が分からないことに、生徒会室の隅では件の紬が明音をお説教しているため頼れないのだ。


「そもそも明音、どうして光樹が一人になっていたの?」

「わ、私にも自由に動く権利があるといいますか……」

「つまりあの約束を破るってことかしら……?」

「それは~その~……うぅ、安請け合いするんじゃなかったです……」

「ダメよ。あなたの場合は自業自得なんだから」


 まるで悪さした生徒が先生に怒られているような構図だ。あんなにもロウテンションな明音は初めて見た。そしてあいつって静かになれるんだとちょっと感心した。


 ……話を聞く限りではさっぱり分からないやり取りだ。


 しかし考える。

 明音はここ最近……具体的に言うと体育祭が終わった辺りから、妙に俺の周囲にいることが多くなった。これは水泳の授業が始まる前に本人にも尋ねたことだが……


 そして明音は答えた。『好きでやっている訳ではない』と。


 そこに今の紬とのやり取りを当てはめると……明音を俺の周囲に控えさせているのは、紬なのか……?

 そう考えると、その理由も何となく察しがつく。


 (恋愛ゲームの監視かなぁ……)


 ぶっちゃけこれしか考えられない。

 普段から紬たちと一緒に居る時間は多かったが、最近は露骨に多い。昼休みなんてほぼ生徒会室に入り浸っている状態だ。役員でもないのに。


 しかしそれでも俺を監視し続けるには限界があるから、明音も交えたと言ったところだろう。彼女もどうにも断りづらい理由がありそうだ……


「まあまあ紬ちゃん、明音ちゃんも頑張ってくれているんだから……それにそろそろ夏休みの()()()もしたいし、ね?」

「む……そうですね、分かりました。じゃあ明音、頼むわよ?」

「はいぃ……では皆田さん、廊下に出ましょうか……」

「は?何で?」

「あの人たちは大事な話があるので席を外しましょうってことです……そしてあなたは聞かないことをお勧めするので大人しく出て下さい」


 何その、凄く聞きたいけど聞きたくない話?

 何を話すの何を話されちゃうの?俺が聞かない方がよくてあの三人が話すことって、つまりそういうことだよね?





△△△△△△△△△△△△△△


 結局廊下に押し出されてしまいました。

 何を話すか知らないけど大丈夫かなあ……依存症治癒のために軟禁が決定しましたとかホント止めてね?


「はぁ……」

「何一丁前にため息なんて吐いてんですか。それ私。私のアクションですから」


 何の権利を主張しているのか知らないが、それを指摘する気力も今の俺にはない。


 ため息をつくと幸せが逃げるとか言ったっけ?

 じゃあ俺は大丈夫かな。ヒロインたちに幸せを食い散らかされているからね。無いものは逃げ出さないからいくらでもため息つけるよやったぜ。


「全く何でこんなことに……私もバイトとか静音のことで忙しいのにぃ……」

「バイトは知らんがお前、また静音と喧嘩したのか」

「喧嘩などではないわ。明音の一方的なお節介よ」


 ……噂をすれば何とやら。

 生徒会室にいないと思っていたが、席を外していたらしい静音がこのタイミングで戻ってくるとは、俺も中々に運が悪いらしい。


「お節介などではありません。あんなの聞いたら、誰だって心配しますよ!」

「それは明音もでしょう?あなた、どれだけ無駄遣いをすれば気が済むのかしら?」

「生活するための出費さえ出し渋るあなたに言われたくありません!」

「だからそれがお節介なの!私の過ごし方に文句を言わないで!」


 だから何で君たちは俺を挟んで言い争いを始めるの?絶対仲いいじゃんこの二人。


 一年の頃から変わらないなと、心底思う。

 いや、彼女たちと知り合ったのが一年の頃だからなだけで、本当はもっと前からか。


 明音と静音は双子だが、ある点で致命的に意見が合わない。


 それは、お金の価値観。


 この二人、金銭についての執着というか思いというかが異様に強いのだ。

 何よりお金が大事で大切であり、人生の豊かさはお金の有無によって左右されると謡う金銭至上主義。

 まあ、それだけなら似た者同士ということでもっと友好的な関係でいられたのだろうが……残念ながらそうではなかったのが現実だ。


「お金は使ってこそ意味があります!使いたい時に好きなだけ使う、それが心と人生を豊かにするのです!それを貯金するだけで全く使わず、生活を困窮に追い詰めるなど意味が分かりませんよ!ま、通帳の貯金残高を見て二やついている人には理解できないでしょうがね!」


 明音は主張する。

 お金があるなら好きな時、好きな物事に使うべきだと。過剰にため込んで、欲求を抑圧するなど愚かだと。

 使いたい時に使わず、いつ使うのかと。


「お金はいざという時のために使うものよ!我慢すればいいだけの、一時的な下らない欲求を満たすために消費するなんて考えられない!まあ、毎食毎食に必要のないデザートを付けている無計画なあなたに言っても仕方ないでしょうけど!」


 静音は主張する。

 お金は有事の際に使うのであって、貯金するべきだと。生活に必要のない娯楽のために出費するなど理解出来ないと。


 まあこういうことだ。

 お金が大事だという認識は同じでも、その使い方で意見の相違が起きている訳だ。こんな主張の言い争いをずっと続けてきたのがこの双子なのである。


 だから俺が言いたいことは一つだけ。


 もう帰っていいかな?というか帰るね。


「ちょ、何帰ろうとしてるんですか!?」

「お前ら何年こんな不毛な議論を続けるつもりだよ。いいじゃん、色んな意見があるんだなってことで……」

「ま、待って下さい!最近の静音はやり過ぎなんですって!貯金のためとは言え、一日一食生活になってるんですよ!?」


 ……マジで言ってる?

 一日一食?何それ?

 

「……静音、今の話は本当か?」

「……人間は絶食しても三日までなら問題ないという研究が」

「つまりマジなんだな?」

「……」


 あからさまに視線を逸らした。

 本気かよこの子……何考えてるの?


 育ち盛り……とは違うかもしれないが、今の時代にもなって一日一食など、明らかに健康に悪い。三木先輩……いや、親御さんはこの事態を把握してるのか?

 貯金癖と言っても限度があるだろうに。


「それだけじゃないです。この暑い中、もったいないからってクーラーも付けてないんですよ?少し前に静音の部屋に入ったら、サウナでも作ったのかと」

「あ、明音!私の部屋に許可もなく!」

「静音、近いうち家にお邪魔させてもらうから」

「はい!?な、何を勝手に」

「いいから。今度お邪魔するからな?」


 まさかここまでとは……

 多少強引だが、このままでは彼女が倒れる未来しか見えない。三木先輩が大切にしている後輩としても、そして俺の友人としても、生活を改めてもらおう。


 

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