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1.幼馴染イベント


「おはよう光樹くん!心ときめくラブコメは楽しんでくれてるかな?」

「心不全で胸がドキドキだよ、この瓶底眼鏡」


 翌日の朝、教室にて。

 あの悪魔の恋愛シミュレーションアプリを生み出した元凶が、殴りたくなる笑顔で声をかけてきた。このクマだらけの顔が見えてないの?昨日の夜は家で泣きはらしたわ、こら。


 こいつだよ、この瓶底眼鏡をかけたおかっぱ頭の友愛(ゆうあい)卓夫(たくお)のせいで、俺のメンタルはボロボロだ。しかもゲームだから、誰が悪いとかもなく自滅というね……。


「……あのさ、昨日告白したら『友達ですらない』って言われたんだけど、これってどういうこと……?」

「君ね、あのヒロインを攻略し始めたのは三日前だろう?それは無理に決まってるじゃないか」

「現実の日数でカウントされんの!?」

「シミュレーションゲームだからね」


 いや、やれやれじゃないよ。すごい腹立つんだけど。

 じゃあ何か?友達レベルの友好関係を築くのに一週間かかったとして、恋愛の告白レベルにいけるのは一か月くらいかけないといけないの?

 

 一人のヒロイン相手に何日かければいいの!?


「日数をかければいいってものじゃない。その間に好感度を上げるため、充実した時間を送るんだ。毎日の声掛けをして……」

「ゲームでそこまでやりたくねぇ!何なんだよこのゲームは!」

「だから恋愛シミュレーションさ……リアルを追求した、真のシミュレーションのね!」


 『リアルな二次元恋愛物語(仮名)』


 それこそが、俺のスマホに巣食い、日々俺の精神的寿命を削り続けている疫病ゲームアプリの名前である。

 

 何を隠そう、これはこいつが自作したゲームなのだ。その試運転として、唯一の友達である俺が被験体に選ばれてしまったというのが悲劇の始まりだった。


 そして、このゲームの最大の特徴にして最悪なシステムが……現実もヌルゲーと化すであろうリアリティである。


 もうとにかくリアル、リアル過ぎるのだ。


 昨日の例に挙げてみれば、連携したGPS機能。ちまたで流行のそれを応用した謎技術により、現実世界そのものが恋愛の舞台と化している。

 だから昨日、学校の屋上で告白イベントがあると指示されたから、俺は立ち入り禁止の屋上に忍び込んで告白したのだ。なんで屋上をジャストで指示出来るんだよ、最上階では『ここじゃありません』とか言われたし、その判別技術を他に使えよ。


 因みに先生にばれてこっぴどく怒られました。


 そしてヒロインと過ごす時間。 

 さっき友愛も言っていたが、ゲームと現実世界の時間が同じなのだ。夜にゲームを始めれば、ゲーム内でも夜になっている。

 別にそれはいいんだけど、過ごした期間もカウントされてんのかよぉ……!

 そりゃ現実でも、知り合って三日間しか経ってなかったら告白も成功しないだろうけどさ。ゲームでそんなことされたら終わらんて……っ!


 それと、一番重要な告白!!

 何で音声入力!?しかも小さい声だと絶対に『聞こえない』って言ってくるし、それが続くとヒロイン帰っちゃうし!!

 何が悲しくて、たった一人でスマホ画面の二次元の女の子に愛の叫びをしなくちゃならないの!?


 他にも言いたいことなんていくらでもある。

 

 どれもこれもリアル過ぎる。何なら現実の方が生きやすいと感じるぞ。


「もう無理だよ俺……これ続けてたら人格変わっちゃうよ……」

「リアルだからこそ、現実の恋愛でも応用出来ることばかりなのだ。これをクリアした時には、君は恋愛マスターとして生まれ変わっているのだぞ?頑張るのだ!」


 割と真面目に生まれ変わるよ?この世界からさよならするって意味で。

 

「そしてこのゲームが完成すれば、僕はすごい大賞をもらって……ぐふふ、おっと予鈴が。では今日もよろしく、ヒロインと関わらないとすぐ好感度は下がるのでな」


 もういいよ最低まで下がって。俺を精神的に殺してくるヒロインと仲良くなんてなりたくないから。


「はぁ……この状態で授業とか、しんどい……」

「お、おはよ……光樹……」

「あぁ、おは……よ……?」


 声をかけてくれたのは、隣の席でもあり幼馴染でもある朝日奈(あさひな)(つむぎ)

 幼馴染なだけあって、他の友達のように愛想よく接してはくれない。言ってしまえば長い付き合いなため、冷めた関係なのだ。嫌われてこそないと思うし、特に罵倒してくる訳でもないから別にいいのだが。


 それに素で遠慮なく話せるのは、あのゲームに毒されている俺には癒しに等しい。

 だから今日もそんな対応を期待していたのだが……


「紬、どうした……?ひどい顔だぞ……?」

「へ……あ、いや……何でもないよ?光樹に比べたら、何でも……」


 確信した。明らかにおかしいと。

 まず彼女の声と表情に覇気がない。それにまるで、遠慮するかのような弱々しい口調だし……。


 なんか……泣きはらしたかのように目が赤い……?


「……本当に大丈夫か?何かあった?」

「大丈夫……大丈夫だから……」

「そういうならしつこくは聞かないけど……言いたくなったら、いつもみたいに遠慮なく言えよ?こっちも調子狂うし……お前が元気ないと、俺も嫌だからさ」


 うん、本気で嫌だ。

 ゲームの女の子でさえあれなのに、顔なじみのこいつにまで変わられたら俺の癒しは潰える。頼むからいつも通りの君でいてね?


「っ……光樹は優しすぎるよ……私なんか気にかけて、そっちの方が全然辛いはずなのに……私が、絶対に……」


 なんかぶつぶつ言い始めたぞ。

 やっぱり無理にでも聞き出した方が……そんなことを考えていると、俺のスマホが数回震えた。

 ……これはあれだ。あのゲームから通知だ。ポップアップ表示でホーム画面にまで出てくるの止めてぇ……誰かに見られたらどうするの。


『おはようはまだですか?ミキちゃんの好感度が下がったよ☆』



 ☆じゃねーよ。

 

 

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― 新着の感想 ―
勘違いがひでぇぜ
[一言] 端末投げつけて友情リセットRTA始まるよー
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