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15.体育祭イベント


 学校行事と言えば色々あるだろうが、その中でも体育祭というのは好き嫌いが分かれる行事だと思う。


 何せ名前の通り、体育を主幹とした運動メインの行事だ。

 運動や体育を好まない生徒からすれば、成績が入る訳でもないこの行事は憂鬱かもしれない。加えてそこに集団競技であったり、得点性の勝ち負けが存在するなら尚更だろう。


 だが体育祭とは案外、暇な時間が多い行事でもある。


 だって短距離走とか待ち時間の方が長いからね。どの種目も実際身体を動かすのは数分だ。

 何かの選抜種目とかがあれば話は変わるかもしれないが、運動部どころか部活に属していない俺には関係のない話である。


 だから俺もこの自由なイベントは好きな方だったんだが……


「生徒会長が私情で一般生徒を侍らせるってどうなんですかぁ……?」

「その発言は皆田くんにも失礼だよ?これはれっきとしたお仕事なんだから」


 ……今回の体育祭ばかりは嫌いになるかもしれないね、これは。


「へえ、お仕事?それはそれは……光樹は手伝いを強制されて、”幼馴染との時間”も奪われるんですねえ」

「皆田くんは喜んで協力してくれたよ?そうそう……『何でもする』とまで言ってくれて、”先輩との時間”を優先してくれたんだ。誰と比べてかは分からないけどぉ……」

「アハッ」

「ウフフ」


 体育祭が終わる前に、俺の何かが終わりそうになっていました。

 どうしよう、俺も一応『あはは』とか笑っといた方がいいかな……なんか好感度下がりそうだから止めとこうか。『三木先輩と紬の好感度が下がりました☆』って幻聴が聞こえるもの。


 ……とりあえず現状の整理をしよう。

 まず俺の左隣には我らが生徒会長、三木先輩が上品に笑っている。うん、これは分かる。

 次に俺の右隣には俺の幼馴染、紬が楽しそうに笑っている。うん、これも分かる。


 最後に俺こと皆田光樹が、楽しそうに笑いながら喧嘩している二人に挟まれている。

 はい、これは分からないですね。


 何で俺を挟んで喧嘩してるのこの二人……?いやそもそも何で喧嘩してるの?最近は仲良かったじゃないですか。根津鳥も含めて三人一緒にいるところ、結構見るからね?遠慮とか距離感がない感じで話してたじゃないの。


 あれか。紬が白組で、三木先輩が紅組なのがいけないの?

 体育祭という無慈悲な争いが彼女たちの友情を引き裂いてしまったのかな。体育祭ってそんなに恐ろしい行事だったっけ。


 なんか喧嘩してるなら仲介役でもなんでもやるからさ。

 物理的に俺を間に入れるのはやめませんか?


「紬。三木先輩も暇じゃないんだし、そのへんで……」

「……光樹は唯一の幼馴染との時間より、三木先輩の方がイインダ……?」


 ほらもーこうなるじゃん!

 だから間に挟まれてるの嫌なのにっ……というか何その質問!?しょうがないでしょ、紅組になったのは俺の意思じゃないんだから!


「いやだって、三木先輩には色々お世話になってるし……それに手伝いをすることは前から伝えてただろ?」

「こんなに長いなんて聞いてないもん!しかも私のことはずっとほったらかしで、全然一緒に帰れなかったじゃん……!」

「それは体育祭の準備とか手伝いの説明とか色々……な?」

 

 そう説明するも、腕をがっちりとホールドして涙目の上目遣いを止めない紬。

 この言葉だけ見ると可愛らしいかもしれないが、それで腕の血流を止められてるので全く喜べる状況ではない。むしろ白くなっていく指先を見てちょっと危機感を覚えてる。


「そっちにも顔は出すって。体育祭が終わるまでだから」

「絶対だからね!?特にお昼は絶対一緒だよっ!それと、三木先輩……私は負けませんから」


 いやお前、本気過ぎない?これ体育祭だよ?

 何だ、白組が勝ったらこの学校が廃校になったりするの?俺の知らないところで壮絶な学園ドラマでも始まっているのか。


 紬はギラリと三木先輩に視線を送ると、白一色の集団が占めている校庭へと駆けだしていった。


「……ん~、今が一番女の子している気がするなあ」

「何を言ってるんですか……それより俺たちも戻りましょう。俺は広報の方に行かないとですし、三木先輩は生徒会長なんですから。挨拶とか大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。それよりも……皆田くん」


 唐突に三木先輩が声を落とし、真面目な雰囲気を纏う。


「な、何ですか……?」

「何か困ったことがあればすぐに言うんだよ?特に……女の子関係で」

「大丈夫です!体育祭を楽しみましょうね!では!」


 俺は早急にその場を離れた。


 やばいって。紬だけでなく、三木先輩まで俺を心配する様子がマジだ。本気で俺のことを気遣っている。

 ……ゲームの話だよ?恋愛ゲームのヒロインのことを、俺の『女の子関係』として認識してるこの現状は非常によろしくない。つまり彼女たちは、俺が現実と二次元の区別がつかなくなっていると思っているのだ。

 いやまあその通りな部分はあるんだけどもっ!


 このままではいつか担任に呼び出されて『先生はお前の味方だからな』なんて、お涙頂戴の展開さえあり得るぞ。

 ちなみにそれは感動の涙ではなく、情けなさと羞恥からくる屈辱の涙だ。


 しまいには家族にも知られて、家族会議なんてことに……恐ろしくて身体が震えてくるね。


 こんなことで心配されるのはごめんだ。

 幸い、俺が恋愛ゲームに取り付かれていることを知っているのは、瓶底眼鏡を除けばあの二人だけ。無駄に話が広まる前に解決策を考えないとな……














「……随分と浮かない顔ね、皆田光樹。体育は嫌いかしら?」


 ふと、声をかけられる。

 ……いつの間にか紅組が控えている校庭のスペースまで来ていたようだ。


「円……静音か。いや、違う悩みに頭を悩ませてただけだ」


 まあ、彼女は体育が好きなんだろうけど。

 何せ彼女の身長は俺より少し下……半頭身ほどの違いだ。つまり女子にしては高身長、体育では頼りにされると聞いたことがあるし。



 円財静音。生徒会の会計役員を担当する、同学年の女子だ。

 体育祭だから学校指定のジャージ姿ではあるものの、肩につかない程度の長さで柔らかなカールに仕上げられたボブカットのヘアスタイルは変わらなかった。

 ……まあ彼女ならこの髪形を止めることは絶対にないと知っていたが。



「違う悩み……ああ、新聞部の手伝いね、分かるわ。三木さんに頼まれた手前言わなかったけど、()()()の下で働かされるんだもの。生きるのが憂鬱になるのも仕方ないわ」

「いや、そこまでは言ってないぞ?」


 相変わらずの物言いに苦笑してしまう。

 彼女は生徒会なだけあって、立ち振る舞いは生徒の手本となるに相応しいものだ。しかし()()()のこととなると、言葉にはけっこうな棘が入る。


「もう少し大事にしてやれって。唯一無二の『双子の姉』だろう」

「だからこそよ、皆田光樹。あなた、あのやかましい人と毎日同じ場所で過ごしても同じことが言える?」

「やかましいとは失敬ですね、静音?」


 ……おいおい冗談だろ?俺さっき紬と三木先輩の喧嘩に巻き込まれたばっかりなんだけど。

 何?やっぱり体育祭が悪いの?止めて!体育祭のために争わないでっ!!

 何で体育祭も始まってないのに、そこかしこで争いが起こるんだ。この分だと最初の開会式で大乱闘でも起こるんじゃない?俺帰るよ?


 ……と言いたいところだが、静音に食ってかかった『双子の姉』であり現新聞部部長の円財明音(あかね)は俺たちと同じ紅組だった。

 

 同じチームというだけでは、家族関係特有のいざこざまでは修繕されないらしい。

 

「私はやかましいのではなく明るいのです!明るい方が何かと人生は得ですよ。ね、光樹さん?」

「身勝手な自己解釈ね。それにやたら騒がしい人生なんて疲れるだけ……そうよね、皆田光樹?」


 だからどうして俺を巻き込むのか。

 声も容姿も同じ。違うのは明音がいつも通りポニーテールの髪形であることと、性格だけだ。同じ顔に迫られるのは妙な迫力がある。

 

 思い出すなぁ……あの恋愛ゲームでも二人のヒロインに詰め寄られたことあるわ。それでどっちかを肯定する選択肢が出てきたんだよ。

 ま、どっちを選んでも好感度が足りず嫌われ、挙句の果てには俺を敵として結託したヒロインたちに泣かされたんだけどね。

 それなら最初から選択肢を出さないで欲しかった。もっと言うと俺と関わらないで欲しかった。


 でも俺という共通の敵を作ることでヒロインたちの仲を取り持ったことを考えれば、あれも正しい攻略法だったのだろう。

 俺は全然嬉しくないけどね!


 だから、こういう時は適当にはぐらかす。

 それで俺は傷つかずに済むんだ……。


「まあ、本人が好きな生き方をすればいいんじゃないか?」

「む、上手く逃げましたね」

「俺はもう選択肢を選ばない選択をしたのさ……」

「何か気持ち悪い言い方ね」


 決めた。

 これからは選択肢が出てくる前に逃げ出してやる。

 

「それはそうと光樹さん!今日は一日、新聞部の一員として頑張って下さいよー?新聞部はただでさえ人手が足りないんですから!この行事をカメラで撮りまくるのです!」

「言われなくても分かってるって……」


 今更の説明になるが……俺が三木先輩から頼まれた仕事。

 それは新聞部の手伝いとして、カメラ片手にこの体育祭の広報活動に協力することだ。


 実はうちの生徒会には広報役員がいない。別に人手不足という訳ではなく、最初から存在しない。

 代わりとして新聞部がこの学校の広報活動を一手に任されているのだが、逆にこちらは人手不足。だからこそ俺が助っ人として呼ばれた訳である。


「人手不足の要因は間違いなくあなたね。だってうるさいもの」

「どこかの会計さんが頻繫に新聞部を出入りしてるせいじゃないですかね?表情が死んでますし」

「はい?」

「なんです?」

 

 俺はさっき逃げ出すと決めましたからね。無視していこう。

 ……それに正直な話、俺もこんなことに関わっている余裕はないのだ。


 


 ――だってさっきから、スマホが震え続けているのだから。

 



 ……本当にタイミングが悪いと思う。今日はただ体育祭をやって、ちょっと新聞部の手伝いをするだけのはずだったのに。今朝まではそう思っていたのに。




『おはようミツキ!では“リアルな二次元恋愛物語”のチュートリアルを始めますよっ!』

 

 

 

 スマホ画面に映ったサンゴちゃんの笑顔が眩しいね。

 ……このゲームをやりながら体育祭とか無理でしょ。




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― 新着の感想 ―
[一言] このキャラやっぱ某と○メモ4のサポートキャラみたいになるのだろうか...
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