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10.勉強会イベント


「なあ紬、本当に大丈夫か?」

「な、何も問題ないよっ!」

「持ってるスマホ、逆さまだぞ」


 何度目の確認だったか。その度に彼女はアワアワと同じ反応を返す。


 紬を勉強会に誘ったその日の放課後、こうして一緒に俺の家まで来た訳だが……誰が見ても落ち着きがない。というか誘った朝からこんな調子だ。

 さすがに幼馴染とは言え、女子に対して軽率だったか……?異性の家に呼ぶというのもそうなんだが、今回は特によろしくなかったかもしれない。


「もう一度確認なんだが……うちは両親共働きで、家には誰もいない。つまり俺と二人きりになるし、嫌なら全然……」

「ふ、二人きり……今日って可愛いの着てたっけ……って違う!私はそんなエッチじゃないもん!」

「……紬?聞いてる?」

「いやでも、可能性があるなら……だけど順番的に急すぎるのも……うう、何で今日に限って体育なんてぇ……」

「紬さん?もしもし?」

「ひうっ!?」


 ちょ、変な声出すのは勘弁して下さい。あとそんなビクビク震えないで。知らない人が見たら、紬の肩に手を置いてる俺が完全に犯罪者だから。サイレン聞こえてこないよね?

 やっぱり、今日は止めた方がいいんじゃなかろうか。彼女が俺の家に来たのも、随分小さい頃だったと思うし……。

 

「あうぅ……光樹のエッチ!へんたいっ!」




  ?????????????????????????




 え、何、どゆこと?待って待って、ホントに分からない。


 何で急に変態認定されちゃったの?あの恋愛ゲームでも言われたことないのに。あれか、肩に手を置いたからセクハラ的な?でもあの恋愛ゲームは『肩を抱くと好感度UP!(イケメン限定)』って言ってたんだけどな。

 なるほど、イケメンがやらないとただの犯罪なのか。また恋愛マスターに一歩近づいたぜ!

 ……やばい、思考が真っ白だ。遠くでサイレンの音が聞こえるけど、このまま家の前にパトカーが止まったりしないよね?


「あ……み、光樹?ごめんなさい、私混乱しちゃって酷いことを……」

「へあっ!?お、おお。大丈夫だ……俺は大丈夫だ」


 い、いかん。あまりに衝撃が強すぎて魂抜けてた……!これが小説なら、このまま異世界に行くところだったぜ……!

 

「で、でも光樹、泣いて……」

「こ、これは嬉し涙だから気にすんな!ほら、上がって上がって、な?」

「う、うん……お邪魔します……」


 とっさに変態染みた言い訳をしてしまった。だってなんか紬がとんでもなく悲痛そうな表情で謝るもんだからさ……

 と、とにかく紬を家に上げて、この妙な雰囲気を切り抜けないと……って、ん?



「おいおい、鍵かかってないじゃん……」



 不用心にもほどがあるぞ……。

 我が家は俺が一番最初に家を出て、その後に両親が出勤するのが常だ。だから両親のどちらかが施錠するはずなのに、今はノーロック。

 寝ぼけて忘れでもしたのか?屋内は荒らされた様子もないし、今回は幸運だったみたいだけど……両親には一言注意しておかなければ。


「俺の部屋は奥進んで左。前と変わってないから、そこで待っててくれ。俺は飲み物とか持っていくからさ」

「う、うん!わかたっ!!」


 『わかた』って何だ。分かっただろう。それに錆びついたロボットのような足取りで進んでいく紬を見るに、不安しかない。

 

 さて……台所に向かい、冷えたジュースを用意しながら考える。


 今日は勉強会という名目で紬と話す機会を作れた訳だが……やはり、最近の紬の様子はおかしい。高校に入った当初と二年に進級した直後では、挨拶を交わすか否かな関係で、素っ気なかった彼女。

 そんな紬が、まるで人が変わったように俺との距離を詰め始めた。

 昔に戻ったかのようにも感じたが、それにしてはよそよそしい所がある。過剰に機嫌を窺うような……かと思えばめちゃくちゃ怖かったり。


 つまり結論を言うと、俺は今の紬が分からない状態にあるということだ。

 だからこそ、今日の勉強会で紬の真意を確かめたい。こんな俺でも幼馴染だからな……やっぱり心配にもなるのだ。


「……よし」


 ジュースの用意も出来た。心の準備も出来た。もしかしたら、けっこう大きな悩みだったりするかもしれないからな……茶化さないで、聞くところはちゃんと聞こう。うん。

 

「紬ー。お待た……せ……?」

「お、お帰り光樹!早かったね!?」

「早かったねって……どうしたんだよ。顔真っ赤じゃないか……!」


 部屋のど真ん中で正座している紬。その光景にも色々聞きたいところだが、それがどうでもよく思える程に彼女の紅潮した顔に意識が持っていかれる。

 瞳も蕩けたように、とろんと涙目で、呼吸も荒い。服も少し乱れていて……一瞬それに目を奪われそうになるが、尋常ではないその様子への心配の方が勝ってしまった。


「体調が悪いのか?何なら救急車を……」

「だ、大丈夫!気にしないで大丈夫だから……っ」

「大丈夫って言ってもお前、そんな調子で……!」

「ホントのホントに大丈夫!むしろ至って健康だから、ね?」

「……分かった。でも何かあるなら、遠慮しないで言えよ?頼むから」

「……ん……ありがと……」

 

 とりあえずの納得はするものの……やっぱりだ。やはり紬の様子がおかしい。

 何だ。何が紬をこんなにも、尋常ならざる様子に追い立てているのだろうか。さっき心の準備をしたとは言え、深刻であることも本格的に覚悟しておかないといけないらしい。


 しかし紬の様子を見るに、簡単に話してくれそうにない。

 あくまで自然を装って聞き出す必要がありそうだ……。


「じゃあ気を取り直して。テーブル出すからちょっと待って……って、ベッドもぐちゃぐちゃかよ……」

「……」


 これはだらしなく思われたかなぁ……まあ自然な感じを見せられて良かったと思おう。

 いや、しかし……今朝はこんなにベッド散らかってたか?枕なんてベッドから落ちてる。ここまで寝相は悪くないし、こんなに荒れてるなら今朝に気付いてると思うんだが……。


「ごめん紬、片づけるからもうちょい待っててくれ」

「わ、私気にしないからさ!勉強会始めちゃおうよ!」

「……いやでも、この散らかりようは……」

「時は金なりって言うよ!さ、勉強勉強!」


 いやいや、ベッドを整えるくらいしてもいいだろうに……。

 ……何でこんなにテンション高いんだ……?

 

「分かった分かった。じゃあまず、何からやる?」

「え、あ……そうだね、えっと……数学からにしよっか。光樹、数学苦手だったでしょ?私が先生になってあげる♪」

「残念、それは過去の俺だ。一年の頃に知り合った女子から数学を嫌という程に教えられてな、今では少し得意なくらいさ」


 ようやく紬も調子が良くなってきたのか、少し揶揄うようにそう言った。

 この調子が続けば、それとなく色々を聞き出せるかもしれないな……ならば俺もそれに乗ろうではないか!


「……」

「お?ちょっと感心とかしてる?何なら俺が先生に」

「ダレ?」

「……へ?」

「ソノオンナ、ダレ?」




 ……あー、これは……



 調子を戻さない方が良かったかな~……


 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました!とても嬉しいです!これからも頑張ってください❗
[一言] 待ってました!
[一言] 更新きちゃぁーーーーー!!! たのしみやでぇ!!!
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