根津鳥 凛
どもです!
私の名前は根津鳥 凛、イケイケでピカピカの高校一年生!特に部活とかはやっていませんが、JKっぽく熱い青春を送っていますよ!友達百人……かは分かりませんが、頑張ってリア充を目指している真っ最中です!
そしてほら、リア充と言ったらやっぱり……こ、恋人じゃないですか……?いや、リア充になったことがないので分かりませんが……多分そうです!
イチャイチャしてドキドキして、たまにちょっぴり切なくて……みたいな展開はやっぱり憧れるんです。ほら、私も乙女ですから?今は全部妄想ですが、全て体験談にしてやりますよ!ってことで全力でJK生活を突っ走ってます!
……まあでも実際は、そんなドキドキするものでもなかったんですよね。皆容姿ばっかりで、そっちが目的なんだなってすぐ分かるんです。特に胸なんか見られるときは恐怖や嫌悪感のドキドキで……そっちじゃねえよって感じでした。
しかもちょっと明るく振舞ってたら、男子に媚びを売っているとかで一部の女子には煙たがられますし……こういう個性すら否定されて。ああ、現実ってこんなものなんだなって……。
だから部活も特にやらず、バイトもお店には失礼ですが、目立たないスーパーを選びました。大手で時給も良いですから。
結局、胸が高鳴る青春やラブコメなんて、創作の世界だけの話。
現実は将来のために勉強して、恋愛も生々しくて……そんなことするくらいなら静かに学校生活を送った方がいいんじゃない?って思考が堕ちたこともあったのですが……
そんなときです。先輩に会ったのは。
『新しく入った方ですか。え、後輩?……そっか、これからよろしく頼むな』
これが先輩と初めて会った時の会話。
もうね、地味です。運命の出会いが鼻で笑うであろう、淡泊な一時でした。
先輩は普通でした。完全なノーマルでした。容姿も普通。性格も普通。後で同じ高校の先輩だってことも知りましたが、成績も運動も普通。普通を極めし人って感じでした。
そして……私への態度も、普通でした。
後輩だからと言ってバカにしたり先輩面したりすることもない。女の子だからと言ってやたら優しくしたり厳しくする訳でもない。胸が大きいからって変な視線を向けることもない(今考えるとちょっと悔しいですけど……)。
普通に、それでも後輩の女の子……根津鳥 凛として、私と接してくれました。
……それがどうしようもなく嬉しかったんです。
明るくいれば女子に嫌われ、男子からは身持ちの軽い女だと軽視される。そんな私を、先輩は普通に、平等に話してくれましたね。
そんな先輩と過ごす時間は短いバイトの時間ですらとっても楽しくて、その時間が終わるのが寂しくて……
それが、“好き”という気持ちに変わったんです……!
我ながら、なんとも地味な恋ですよ。運命的でも、感動的でもない。これが恋愛ドラマとかになったら大炎上ものだと思います。
それでも私にとっては……最っ高な普通の恋でした。
先輩といるとドキドキします。近づけると恥ずかしいのに嬉しいです。離れちゃうと寂しくて切ないです……
名前を呼ばれると、すごく幸せな気持ちになります……っ!
これが私の恋です。
誰がなんと言おうと、私の普通の恋なんです。
だったら元気な私のやることは決まってます!先輩への積極的なアピールですよ!
最初こそリア充になるための恋人、みたいなスタンスでしたが……最近はもう先輩と、その……こ、恋人同士になれることが主目的になっちゃってますからね……恋は盲目とはよく言ったものです。
だから先日のバイトの時、私はちょっとした勝負に出ました。
“先輩にお願いごとをして、そのお礼でもっと距離を縮めちゃうぞ作戦”ですよ!そしてその作戦は予想以上の成果を出しました。
『根津鳥、明日なんだけど時間あるか?その……服を買いたくてな、お前のアドバイスが欲しくてさ』
『ふえ……?』
頭が真っ白になりましたよ……。
だ、だってこれデートじゃないですか!?二人っきりで買い物に行く……デートですよっ!
事情が事情とは言え、初めてのお出掛けを先輩から誘ってくれるなんて……っ!えへへぇ……もう、先輩ったら前日になってから言うんですから!予定があったらどうするんですかぁ……まあ無理やりにでも空けますけどねっ♪
もちろんデートはとっても楽しくて……だから私もちょっと我儘して、お昼の時はもう少し勇気を出しました。
だけど先輩には腹痛を我慢させていたようで申し訳ないです……それで先輩が言うのもあって、お買い物は継続することになったのですが……
「それで何でここにいるんだ……?あといつから俺の後ろにいた」
「ついさっき。光樹の姿が見えたから……うちの高校の生徒なら大抵はこのデパートを利用するんだから、私がいてもおかしくないでしょ?それで、私の連絡を無視した理由を教えてほしいんだけど」
「それは……えーと、こいつと一緒だったから……」
「ふーん……私との一切の連絡も出来ない間柄ナンダー……」
こ、これは一体どういう状況なのでしょうか……?
先輩は戻ってきたのですが、その後ろには私の知らない女性がいました。その様子を見るに親しい間柄のようですが、女性の方はちょっとご機嫌斜めっぽいですね……。
白シャツにジーンズという、クールな容姿がさらにその冷たさを際立たせているようです……。
「いやそんなんじゃ……後輩だよ。同じ高校で、同じバイトのな」
「え、えと……初めまして。一年の根津鳥 凛って言います」
「……朝日奈 紬よ」
「すまんな根津鳥。紬も同じ高校で、俺と同じクラス……」
「そして光樹の幼馴染よ」
とりあえず挨拶は出来たけど……うん?
な、何か紬先輩にめっちゃ見られてるような……
「……光樹の、唯一無二の幼馴染よ」
わ、笑い……!?にゃー!!
こ、この人今ニヤリと笑いやがりましたよ!!私知ってます!あの視線と笑い方!
あれは優越感の現れ……そして強調された幼馴染という響き……!
間違いないです……あれは恋する乙女が、その人を渡さないとする宣戦布告です……!
な、なるほど……最初から妙にご機嫌斜めだったのも、私をまっすぐ見つめてくるのも、そういうことですか……!私に先輩は渡さないと言うのですね……!?
「何だその自己紹介……」
「学校でいきなりファッション雑誌を読んでたから不審に思ったけど、まさか女の子と二人きりで服を買いに来ていたなんてね……私の勘が当たって良かった」
「え、俺ファッション雑誌を読んでるだけで不審者扱いなの?」
むううーっ!!
先輩も先輩で、何で楽しそうに話してるんですかー!!
今は可愛い後輩と……デ、デート中なんですよ!?放置なんてありえないです!それに幼馴染がいるなんて、一度も聞いてないですぅ!!
様子を見る限り、まだお付き合いまでは発展してないのでしょうが……。幼馴染……くう、圧倒的な差を感じます……っ!
でも、私だって……先輩のことが好きなんだから……っ
「……ねえ光樹。ちょっとこの子とお話したいから、少しだけ席を外してくれない?」
……へ?
「……は?いやいや。お前、根津鳥とは初対面だろ?それで何を話すって……」
「十分でいいから。お願い」
「せ、先輩!私からもお願いします!」
きゅ、急によく分かりませんが……一対一というなら受けて立ちますよ!どういう関係なのか、むしろ私が聞き出すチャンスです……!頑張れ私!
……それにしても先輩、何か恍惚な表情で『現実だぁ……』とか呟いてましたが……も、もしかして冷たくされるのがお好きとか……?
私もちょっとSっぽくしてみようかな……。
「さて、さっそくだけど……あなたは光樹に近づいて何が目的なのかしら?お金?それともただの暇つぶし?」
「な、失礼ですね!私はただ先輩が好きなだけで……あ」
……ひああー!?やっちゃったよー!!
か、勝手に口が動いちゃった……!で、でも今のは紬先輩が悪い!いきなりお金とか暇つぶしとか言うんだもん!そりゃ怒りたくもなるもん!!
いやでもこの自爆は……うぅ、紬先輩も目をまん丸にして意外そうにこっち見てるしぃ……!
「……うん、ごめん。今までの態度と発言は謝るわ。また光樹が騙されたりしてるのかと思って、先走っちゃって……本当にごめんね?」
「あうう……いえ、別にぃ……」
な、何なんですかこの訳の分からない会話と状況は……
全く初対面の先輩に好きな人を告白して、その先輩には気まずい感じで謝られて……もう、何で私も話したいだなんて言っちゃったかなぁ……
……ん?
“また”……?
「つ、紬先輩。また先輩が騙されるってどういうことですか……?」
「……」
「そ、それって先輩が女性トラブルで何か巻き込まれたことがあるってことですよね!?騙されたって何です!?先輩に何があったんですか!?」
私は紬先輩に詰め寄った。だって、何も答えてくれないから。
先輩が騙された……?しかも女性関係で……?そこまで聞けば、何となく想像は出来ます。何せ私だって同性の女なんですから。
女が男を利用して騙すなんて、内容は限られている。
それでも、私はそれを教えてくれと必死に頼んだ。
だって先輩はそんなこと、一度も話して……!
「……そう、ね……光樹のことだから、あまり詳しくは話せないんだけど……」
先輩には好きな人がいて、あまりにも残酷な返事を返されたこと。
親しかったであろう女子に、多額のお金を貢がされていたこと。
……そんな話知らないです。知らないです、知らない、聞いてないっ!!
だってそんな様子は微塵も感じさせなくて、いつも通り普通だったじゃないですか!!普通に私と接して、話して、笑っていてくれたじゃないですか!?
だって、だって……それが本当なら……
先輩はどんな気持ちで、私といてくれたの……?
その傷と悲しみを背負いながら、どうして今日は私を誘ってくれたんですか……?
「……光樹が急に服やら容姿やらを気にし始めたから妙だと思ったんだけど……多分光樹は、そう言われて騙された自分が悪いと思ってるのよ。だから自分を変えようとしている……あんな害虫どものせいで……っ」
そう呟いた紬先輩の顔は怒りに歪んでいた。彼の優しさから生まれているその行為を、止めたいのに止められない……歯を食いしばって、その絡む思考を噛み切ろうとしているようだった。
私は、時間は短いけれど……先輩のことはずっと見ていたつもりだった。だって、好きな人だから。
でも実際は、そんなのただの思い込み。
苦しんでいるのも知らず、女性にそんな仕打ちを受けていたことも知らずに、バカみたいに先輩に引っ付いていただけなんだ……っ。
今回のデートだって、本当の先輩はすごく苦しんでいたんじゃないの……?
そんなことをされたら、女性がトラウマになってもおかしくない。
私と一緒にいるのも怖いのかもしれない。思い返せば、朝から様子は変だった……!
『ホントすまん!なんでも言うこと聞くから嫌いにならないで!』
時間前に来ていたのに、あんなに怯えていたのも……。
『すまん、ちょっと腹痛がひどくてな……』
急に腹痛を訴えて席を離れたのも……!
きっと、その女性らのやり取りが傷となって先輩を蝕んでるんだ。だから女である私で発作的に思い出して……っ。
……それでも。それでも!先輩は私を頼ってくれた!自分を変えたいと、私の意見が欲しいと言ってくれた!!
しっかりしろ私!先輩が必死に頑張ってるのに、私がなよなよしてどうするの!それでも本当に先輩が好きって言えるっ!?
先輩が、私を頼りにしてくれたんだっ!
だったら私は、先輩の支えになる!そんな酷い人たちのことなんて、私との思い出で塗りつぶしてやるんだ!
「私は……先輩が好きです」
「……」
「だから……先輩を助けたい。支えになりたい……もう二度と、私が傷付けさせません……!そして先輩を傷つけた、普通じゃない人たちは絶対に……」
「……そうね、私も同じ気持ちよ」
紬先輩がじっと見つめてくる。
そこから感じる確かな怒りと、暖かい優しさ。私もきっと、同じ瞳をしている。
そして、どちらからでもなく私たちは頷き合った。
待っててくださいね、先輩。
今度はただくっ付いている後輩じゃありません。一緒に幸せな、普通の恋を探しましょうっ!
「先輩の苦しみも悲しみも傷も……先輩のものは全て私のものですから……」
「まああなたには悪いけど、光樹は私と一緒にいるべきだから……」
「……ハイ?」
「……ハ?」




