『???』
小学生でももっと賢い文章作れるだろ
みたいな拙い文で自創作を綴っていきます。
「⋯⋯?」
ーーなんだかとても懐かしく、長い長い夢を見ていたような。
そんな感覚と共に、ふと目を覚ます1人の少女が居た。
どうやら暖かな気候の中、ベンチに座って寝てしまっていたらしい。
寝起きの目には眩しい、それでも確かに暖かな場所に居た。
風が無く、彼女の淡いオレンジ色の髪も靡くことはない。
ベンチの横にそびえ立つ巨大な木の葉は、音も立てずに静かに彼女を見下ろしていた。
それも葉は白く、幹は薄い黒色のような、灰色のような。とにかくモノクロだ。
もたれかかっていた体をゆっくりと起こし、左手を見つめては、
「⋯⋯生きてる」
感情のない淡々とした小さな声でそう、ぽつりと呟いた。
そして左手首に嵌めていた黒いリストバンドを捲る。その行動に特に意味は無いのだろう。直ぐに付け直しては、少し俯いたのだった。
ただその顔もまた直ぐに上げ、辺りを目の動かせる範囲だけで見渡す。
寒さを感じさせる白色のような、でもそう感じさせない太陽の日差しのような光の中に、見たことの無い街並みが広がっていたのだ。
緑が豊かで溢れ返っている住宅街のような、そんな街角のベンチにぽつりと。
そこらに生えている花の香りなどはせず。だが、影はきちんとあるというのに“人影”というものは一切見当たらない。
どうにも非現実的な場所で、少女はどのくらい寝ていたのだろう。
彼女が覚えている事といえば、どこか懐かしいような長い長い夢を見ていたことだけ。
それ以外に何も無く、寝てしまった前の記憶なんか到底無い。
「⋯⋯生きてる」
もしかしたら死んでしまったのかと思うのも無理はだろう。そんな光と影だけの街の中に彼女は1人なのだから。
だが、その顔色も相も変わらず“無”であり、焦っている様子は微塵も見当たらない。
自分の髪の毛、服、スカート、靴。全てに触れて確認するものの、自分には色がきちんとあるのだ。
「まだ夢⋯⋯?」
そもそも、この状況自体が“夢”の中なのではないか。目を擦ってみても、どうしても違和感が働いてしまう。
彼女の目に見える全ての物が、街の家々や建物が、木が、花や雑草が、自分が座っているベンチや、着ている服の感覚が。
どうやったってハッキリしている。そして彼女自身の意識もそうだ。
何より彼女はたった今、夢から醒めたはずである。
おかしいとすれば、人の姿が彼女以外に全く見られないこと、光や影はあるが、この空間に彼女の一切の“色”が見られないこと、そして“音”も“匂い”も“風”も何も無いことだろう。
何色も無い、でも何故か感覚的に昼と捉えらることの出来る空には雲が。そしてそれらは確かに動いているというのに。
そんな静かに佇む巨大な木の根へと腰を持ち上げる。
木漏れ日の中に落ちていた、先の鋭い木の枝を拾い上げた。
「⋯⋯もう1回だけ」
そう独り言を残し、その枝で雑に手首のリストバンドを退け、折れて先が尖ってしまったそれを思いっ切り刺すよう振りかざしては、
「何やってるの?」
誰かに呆気なく止められてしまったのだ。それも片手で。
と同時に、どこか知っているような、落ち着くような温もりを感じた。
「死のうとしちゃったの? エルシィー」
聞いたことが無いような、あるような。でも少し悲しそうな声。
それでも安心感を覚えたその声に“エルシィー”と呼ばれた少女は顔を上げた。
「⋯⋯どうして」
そしてどうして不思議なことに、今立っている場所は影に覆われた、木の根元である。
顔が、姿が真っ黒な“影”のようで、形でしか姿を捉えられない何者かが腕を掴んで離さないでいる。
逆光を受けている訳でもない。言ってしまえば、ここは“日陰”である。そんな影の中に影が存在していた。
「とりあえず危ない物はポイねぇ〜」
彼女の問いに答えもせず、右手に握っていた凶器にもなる小枝を、そこら辺に投げ捨てる。
声と背丈からして少年というよりかは青年だろう、その姿は正しく“影”そのものである。
だが、未だに掴まれている彼女の悪い右腕にはしっかり彼の体温が伝わっていた。確かにこれは、影ではなく人のような⋯⋯。
「何で死のうとしたの?」
「⋯⋯何も無いから」
また少し俯いて、あっさりとそう答えた。
彼が怖いから俯いたのか、それとも自分がしようとした事が“悪いこと”だと自覚があるからなのか。
「⋯⋯名前、どうして」
「あれ、そっか⋯⋯。じゃあおいで」
彼に引き寄せられては優しく、それは消えてしまいそうな物をそっと包み込むかのような優しさで抱きしめられたのだった。
それでも彼はずっと真っ黒で、わかるとすれば口の動きが少しだけ。
そんな彼にエルシィーは怯えることも無ければ、彼の行動を拒絶する事も無かった。寧ろ自然と落ち着いてしまっていた。
静かに抱きしめられる中で、何かを少しだけ思い出したような、思い出せそうな、むず痒い感覚を覚える。
「エルちゃん、勝手に死のうとしちゃダメだよって言ったよね?」
「⋯⋯わからない」
そんな記憶も約束も、彼のことも何もかも本当にわからない、思い出せないでいる。
だが不思議と彼の温もりと声に懐かしさを覚え、影なのか服なのか裾なのかを握りしめた。
何かを思い出せそうで、思い出せなくて少しだけ頭が痛いような。それでも暖かくて優しくて眠たくなる感覚に陥る。
「それも覚えてない⋯⋯か。いいよ、思い出させてあげる」
彼が何のことについて話しているのか。
そんな事を考える暇もなく、少し抱き上げられては顎に手を添えられ、
「はぁ⋯⋯ごめんね」
彼の何とも言えない、複雑な表情を少しだけ感じた途端、
「ん⋯⋯ぅ?」
優しい口付けをされた⋯⋯のではなく、彼の舌が捩じ込んでくるような、貪られるような、息が苦しくなるような、そんな口付けをされていた。
それでも彼女は嫌がる素振りを一切見せる事無く、ただただ彼を受け入れるだけでいる。
拒否する理由も無いのか、ただ単に慣れていないのか、心地が良いのか、彼のその行動に少しずつ溺れていく。
そんな中で頭、いや脳に少しの刺激を受け、ぼーっとするものの、何かを。
何かを⋯⋯?
違う。抱きしめられて安心するのも、声を聞いて落ち着いてしまうのも、この行為すら受け入れて彼に堕ちていくのも、彼女にとっては当たり前の事だったのだ。
そう、“彼”は彼女にとって大事なもので大切なもので、それでいて存在していてくれなければいけない、何よりかけがえのないものもので、
「レ⋯⋯ぅ、ん」
「んー⋯⋯ダメ、今は違うよ」
が、何故か彼女のそれは拒否され、再び口を塞がれてしまう。それも先程より強く抱き寄せられ、乱暴に。
心地よい何かより苦しさが増す中で、ぜんぶ、全部、思い出してしまったのだ。それでも全てが“違う”。
その瞬間、瞑っていた目に力が入り、彼の手を退けようとするも、1度溺れた身で敵うはずもなく、抵抗すらもままならない。
ーー苦しい苦しい苦しい。
「あはッ、思い出したの? 解るよ」
楽しそうにというよりかは、昂った様子でニヤリと笑う口元の彼と、
「⋯⋯ぅ、ごめんなさい」
と何かを乞うエルシィー。
慣れないコトに息が上がり、肩で小さく呼吸をし、ほんのり涙目のまま彼にもたれかかる。
「可愛いね。多分、此処から出たら忘れちゃうと思うけど⋯⋯今度は普通に会いに行ってあげるね」
それがどういう意味なのか、エルシィーには理解が出来ているようだ。
そっと涙を拭われ、抱えられたままでいる事を許している。それがきっと何よりの証拠なはずだ。
というよりかは、力が入らずにされるがままなのかもしれない。
ただ不思議と“怖い”だとか“嫌”だとか、そういう感情では無いらしい。でなければ彼の肩に顔を埋めるなどしないだろう。
エルシィーを抱えたまま、あの大きな木陰から歩き出す。それでも影のような彼は消えることも無く、なんなら濃さを増す。
あの時、一瞬だけ見えた彼の表情が無いことに、エルシィーは少しだけ不思議そうに、いや眩しそうに顔を歪めていた。
「⋯⋯早く戻って」
「なんで? エルシィーが望んだことなのに。ずっと此処に居て、俺だけのものになってくれてもいいんだよ?」
あれだけ無表情だった彼女が微かに悲しそうな表情を見せる反面、彼は意地悪そに口角を釣り上げ、それでも優しく彼女の顔を覗き込む。
ただその顔に顔なんてものは一切無く、まるでのっぺらぼうのよう。
この暖かい光が降り注ぐ街の中で、彼女の視界には影しか映っていない。
「なんてね、気が向いたらね。ほら、ここ真っ直ぐ歩いて帰りなさい」
静かに石畳の道に彼女を降ろし、小さい子をあやす様に背中を軽く叩いてみせた。
でも彼女はずっと掴んでいた彼の裾を離さないまま、じっと地面を見つめている。
「別にエルシィーが悪いわけじゃないよ」
今度はそっと頭を撫でてやる。それも消えないように、と優しく。
すると彼女は髪に止めていたピンを徐ろに外し、
「⋯⋯持ってて欲しい」
「ん⋯⋯ありがっと。前髪にでも付けとくね」
それに対して小さく頷く彼女は、光で溢れていて目が潰れてしまうような、先が一切見えることのない並木道を歩き出す。
触れられなくなるその瞬間まで、彼の裾を握りしめたまま。でもそれは直ぐに離さなくてはいけなくなるというのに、最後の最後までずっと。
そのまま振り返らず、強く目を瞑ることを強要してくるような光の中へ、自ら飲み込まれに。
思い出した彼のことを、温もりと声を、優しさを忘れる事のないように。
強烈な光に飲み込まれて吐き気を催そうとも、倒れてしまわないように。
どんなに気を失いそうになって消えそうになっても、絶対に足を止めないように。
彼に抱きしめてもらった自分を、自分で抱きしめながら。
少しでも“此処に居たい”だなんて思わないように。
先に誰が待っていたかなんて思い出せなくても。
そうして少しずつ光の中へと溶けて消えてゆく彼女の背中を見守っては、
「まぁ⋯⋯アイツは殺すけどね」
なんて彼女に貰ったヘアピンで前髪を止め、厭らしくヘラっと笑うのであった。
私の中でプロローグは何が何だかわからないまま進んでいって、それがそのうち話を読んでいく中で繋がる⋯⋯そんなイメージでした。
ただまぁなんというか、R15にチェック入れたことをいいことに初っ端からぶっ飛ばしてしまった感。